28話 クエスト達成
(む? これはチャンスかもしれんぞ)
ローパーを見るも無残な姿に変えていくアリアを傍目に。
タマはあることに気づく。
今アリアが斬り刻んでいるのは、彼女の顔に粘液をぶちまけた最初の一体だ。
つまり、もう一体の方は放置状態なのである。
抜き足差し足……
タマはちょこちょこと放置されているローパーへと近づく。
そして、アリアが見ていないのを確認すると――
ガブリっ!
一気にかぶりついた。
(うむ、実にマズイ。苦い上に歯ごたえがヌチョヌチョとして最悪である。だが、スキルの方は……)
==============================
名前:タマ
種族:ベヒーモス(幼体)
固有スキル:《属性咆哮》、《スキル喰奪》、《属性剣尾》
喰奪スキル:《収納》、《ポイズンファング》、《飛翔》、《ファイアーボール》、《アイシクルランス》、《アイアンボディ》、《触手召喚》、《粘液無限射出》、《異種交配》
==============================
(Oh……)
増えていたスキルを見て、タマは絶句する。
《触手召喚》、《粘液無限発射》、《異種交配》……なんてスキルを吸収してしまったのかと――
(まぁ……よく考えればわかったことか。今回は我が輩のミスだ。次はよく考えてからモンスターを喰らうことにしよう。しかし、《異種交配》か……ローパーは人間のメスを孕ませることができると聞いていたが、まさかスキルによるものだとは思わなんだ…………む? 《異種交配》!?)
そのスキルの名を心で反復していると、タマの頭にとある言葉が浮かんできた。
『大きくなったら、たくさん“にゃんにゃん”しましょうね?』
そう、タマがエレメンタルキャットと勘違いされた際に。
ギルドでアリアがタマに言った言葉だ。
ゾワリ…………ッッ!!
アリアの願望が、いつの日か現実のものとなるのではないか。
そんな想像をし、タマの背筋に冷たいものが走り抜けた。
「んにゃ〜アリアちゃん。憂さ晴らしはその辺にして、そろそろいくにゃん」
「ふぅーふぅーッ……あ、すみませんヴァルカンさん。今行きます」
荒ぶっていたアリアに声をかけるヴァルカン。
バックパックからは触手の一部が覗いている。
討伐の証に回収しておいたようだ。
「あれ、タマ? 何か顔色が悪いような……」
「に゛、にゃあ?」
不思議そうに見つめてくるアリアに。
タマは、引きつった表情で「なんのこと?」と言わんばかりに、首を傾げてみせるのだった。
◆
迷宮5層目――
「うぅ……体中ヌメヌメします……」
「にゃぁ……あの数を相手にしたんだから仕方ないにゃあ」
頬を紅潮させたアリアとヴァルカンが顔をしかめる。
顔や頭はもちろん、首から下も粘液まみれだ。
3層目を抜けたかと思いきや。
4層目もローパーだらけだったのだ。
ナイフ使いのアリアはもちろん。バトルハンマーを得物とするヴァルカンの攻撃は、ローパーの粘液を盛大に噴き出させた。
近接戦闘職の2人でローパーに乱戦を挑めば、こうなって当然であった。
唯一無事だったのは、後方で援護に徹していたタマだけだ。
だが、体が粘液まみれなのを除けば、結果は良しと言えるだろう。
2人とも一度も触手に捕まることはなかったのだから。
もし捕まれば、今頃はローパーの苗床にされているところだ。
「アリアちゃん。そろそろ気を引き締めるにゃ」
「そうですね。ここは5層目、いつミノタウロスが出てもおかしくありません。タマ、いざとなったら、この前のスキルを使えますか?」
「にゃん(もちろんだ、ご主人)!」
アーナルドからお墨付きをもらっているとはいえ。
ミノタウロスはC+ランクの強力なモンスター。
ランクだけで言えば、ヴァルカンよりも僅かに上だ。
ここまでは修業のため、タマに本気を出すことを控えさせていたが、今回ばかりはその限りではない。
『モ゛ォォォ……』
そして、5層目を探索すること少し――
とうとうミノタウロスが現れた。
今回の個体は以前タマと対峙したものとは違い、金属製の棍棒と盾を装備している。
「アリアちゃん。ヤツはまだこっちに気づいてないにゃ。先制攻撃をお願いしたいにゃん」
「了解しました。最初から《疾風連斬》で仕掛けます」
岩陰でそんなやりとりを交わすアリアとヴァルカン。
アリアは《アクセラレーション》を発動すると、そのまま一気に飛び出した。
『モ゛!?』
とんでもない速度で向かってくるアリアに。
ミノタウロスが驚き、声を漏らす。
とっさに棍棒を構えるが対応が遅すぎる。
その時既に、アリアはミノタウロスの横を駆け抜けていたのだから。
スパンッ!!
ミノタウロスの片腕に傷が走る。
もちろん《疾風連斬》によるものだ。
だが……
「く……っ、浅いですね」
悔しげに言うアリア。
言葉通り、ミノタウロスに刻まれた傷は浅かったのだ。
出血量も大したものではない。
(ふむ、《疾風連斬》……スピードはあるが、どうやら威力が低い様子だ。ローパーのような柔らかい体のモンスターであれば問題はなさそうだが、ミノタウロスは厳しいか)
援護のためにアリアの後に続いていたタマも、それを理解する。
ミノタウロスは全身が筋肉の鎧で覆われたモンスター。
アリアの《疾風連斬》では、深手は負わせることができないと。
「なら、これでどうにゃ!!」
ヴァルカンが飛び出す。
バトルハンマーを大振りに構え一直線にミノタウロスへと駆けてゆく。
振り下ろされるバトルハンマー。
対し、ミノタウロスは左手に構えた盾でそれを迎撃する。
「アリアちゃん!」
「はい! 一回でダメなら何回も仕掛けるまでです!」
バトルハンマーによる攻撃が防がれると見るや。
ヴァルカンはバックステップで距離を取ると同時、アリアの名を叫ぶ。
3層目と4層目で連携を高めたことにより。
アリアはヴァルカンの言わんとしてることを瞬時に理解した。
再び《アクセラレーション》と《疾風連斬》を発動。
斬撃を周囲に纏うと、ミノタウロスの背後から襲いかかる。
「一撃目!!」
ミノタウロスの背に切り傷が刻まれる。
傷は浅くとも痛みは変わらない。
ミノタウロスはその場で半回転。
アリアの体を砕こうと棍棒を振るう。
「遅いです! 二撃目!!」
《アクセラレーション》を発動したアリアがそんな攻撃に捉えられるはずがない。
棍棒が振り抜かれた時にはミノタウロスの傍をくぐり抜け、すれ違いざまに、さらに斬撃を叩きつける。
三撃、四撃、五撃――!!
アリアが近づく度に、ミノタウロスの体が鮮血に染まる。
それに比例して動きが鈍くなる。
血が奪われ過ぎたのだ。
一回の攻撃の威力が浅くとも、それが幾度も重なればこうなるのは当然だ。
『モ゛ォォォォオオオ――――ッッ!!』
ミノタウロスが雄叫びを上げる。
かと思えば、棍棒と盾を捨て、両腕を大きく広げてアリアへと突進してくるではないか。
どうやらアリアを絞め殺すつもりらしい。
完全に捨て身な、この攻撃……
おそらく出血量から自分の死を悟り、せめて道連れにしようといったところだろう。
「タマ、お願いします!」
「にゃあ(まかせろ、ご主人)!!」
だが、アリアに慌てた様子はない。
自分に追随するように動いていたタマへと声をかける。
タマは可愛らしい声で鳴くと、アリアの前へと躍り出た。
そして――
「にゃん(《エーテルハウリング》)っ!!」
《属性咆哮》が1つ、《エーテルハウリング》を発動。
迫り来るミノタウロスの体を奥へと吹き飛ばす。
カスマンの時と同様。
体の至るところを地面に打ちつけられるミノタウロス。
突然の出来事に対する混乱と激痛で声すら出せないようだ。
「にゃあ! あとは任せるにゃん!!」
今だ! と飛び出すヴァルカン。
アリアほどではないが、虎耳族である彼女の動きも十分に速い。
あっという間に距離を詰めると、起き上がろうとするミノタウロスの頭へとバトルハンマーを振り下ろした。
ドパンッ!!
派手な音を響かせ、ミノタウロスの頭を叩き潰す。
そして、その巨体が再び地面へと倒れ伏した。
「やりました! これでクエスト達成です!」
「にゃあ!?」
アリアは歓喜の声を上げると、嬉しさのあまりタマを持ち上げ、むにゅん!! とメロンの中にダイブさせてしまう。
タマはびっくりしたものの、すぐにアリアにすりすりと頬ずりをする。
「んにゃあ……ほんと、2人は仲がいいにゃ〜」
目の前で出来上がった、いちゃいちゃラブラブ空間に。
ヴァルカンは呆れたように苦笑するのだった。




