26話 アリアの弱点
「ヴァルカンさん、今のスキルはいったい……」
最後の一体にトドメを刺したところで。
アリアが問いかける。
「今のは私の鍛冶スキルから“派生”した、属性付与スキル、《エンチャント》にゃん♪ いろんな属性を防具に纏わせることができるにゃん!」
「なるほど、“派生スキル”ですか」
人間のスキルの種類は以前にも述べたとおり主に……
生まれ持っていたスキル。
マジックアイテムスクロールによって得たスキル。
……以上の2つだ。
だが、例外はある。
そのひとつが、今ヴァルカンが使った派生スキル、《エンチャント》だ。
派生スキルとは、長年使い続けられたスキルが、より使用者の特性にその性能を最適化するためにスキルが進化し、派生したものを指す。
ヴァルカンの場合は鍛冶に使っていたスキルが、進化することにより、戦闘用のスキルと化したのだ。
(なるほど。虎耳族の怪力でバトルハンマーを操り、派生スキル《エンチャント》で徒手格闘もやってのける……。これがヴァルカン嬢をCランク冒険者たらしめる理由か)
ヴァルカンの戦闘能力を見て。
タマは、今回のクエストにGOを出したアーナルドの判断に納得する。
と、そこへ……
『ブヒィィィィィィ――ッ!!』
豚のような鳴き声とともに。
豚人型のモンスター、オークが現れた。
「ヴァルカンさんの実力は分かりました。今度はわたしたちの力を見てください。行きますよ、タマ!」
「にゃん!!」
バトルハンマーを構えたヴァルカンを制し、アリアが前へ出る。
タマもやる気まんまんといった様子。
ヴァルカンの戦う姿を見て、闘志に火が点いたのだ。
「《アクセラレーション》!!」
アリアが加速する。
自分を仲間に誘ってくれた少女、ヴァルカンに認めてもらう。
そのために――
◆
「どうでしたか、ヴァルカンさん?」
額の汗を拭うアリア。
その足もとには、オークの亡骸が……
目玉にはナイフが深く突き刺さっている。
前回と同じように、後方からタマの援護を受け、オークが怯んだ隙に脳天までひと突きにしたのだ。
「すさまじい速さだったにゃ。アリアちゃんの固有スキル、《アクセラレーション》……噂には聞いていたけど、ここまでとは思わなかったにゃん♪ それに、タマちゃんの援護もバッチリだったにゃ!」
アリアの速さを目の当たりにしたヴァルカンは、素直に称賛の言葉を贈る。
自分よりもランクが上の冒険者に褒められ、アリアの表情もパッと華やぐ。
だが……
「でも、アリアちゃんの戦闘スタイルには課題があるにゃん」
ヴァルカンは表情を真剣なものへと変え、そう言った。
「課題……ですか?」
「そうにゃん。アリアちゃんの攻撃は速いけど、動きが直線的過ぎて単純にゃ。ゴブリンやオークを相手にしているうちはいいけど、ミノタウロスみたいに知恵の回るモンスターが相手だとそうはいかないにゃん」
(ほう。ヴァルカン嬢、ご主人の弱点に気づいたか)
ヴァルカンの言葉を聞き、タマは感心する。
そして、その指摘はありがたかった。
アリアは《アクセラレーション》という優秀な固有スキルを持っているがゆえに、その性能を活かすために自身も攻撃を行うのに最速の動作をしようとする癖があった。
もちろん、動作が速いに越したことはないのだが、彼女の動きにはスローイングナイフを使う時以外はフェイントというものが存在しないのだ。
さらに言うならば、そのスローイングナイフを使う際の動作自体もフェイントと言うには、少々単純過ぎる。
それらの理由が、先日、カスマンとの決闘で手も足も出なかった原因だ。
(言葉を喋れない我が輩では、ご主人をサポートすることができても、助言はできん。だが、ヴァルカン嬢であれば……)
ありがたいというのは、そういう意味だ。
「決めたにゃん! せっかくアリアちゃんと冒険者パーティを組んだんだし、この機会にアリアちゃんを鍛えるにゃ!」
「本当ですか!? ぜひ、お願いします! わたし、強くなりたいんです!!」
ヴァルカンの宣言に。
アリアが元気よく応える。
過去――自分を救ってくれた“剣聖”に憧れるアリアにとって。
強くなれるというのは何より優先すべきこと。
その反応も当然と言えるかもしれない。
(にゃ〜。これはいい仲間に巡り会えたかもしれないにゃ♪ ここまで、自分を高めることに真摯な子は初めてにゃん!)
アリアの姿勢を見て。
ヴァルカンも内心、感心する。
この娘であれば、先日までパーティを組んでいた仲間、サクラと同等……否、それ以上になるかもしれないと――
「だったら次の階層に丁度いいモンスターがいるにゃん」
そう言ったヴァルカンの口元がニヤリと歪む。
その表情を見て、何故かアリアは言いようのない悪寒を覚えるのだった。




