24話 パーティ結成
「う〜ん、どれにしましょうか……」
決闘があった日の翌日の昼下がり。
アリアは口に人差し指を当て、悩んでいた。
場所は武具店ヴァルカンズ。
その短剣・ナイフのコーナーの一角だ。
昨日の決闘。
カスマンによる猛攻で、アリアのナイフは2つとも大きく刃こぼれしてしまっていた。
修復は不可能と判断し、新調することにしたのだ。
昼過ぎになってしまったのは、例のごとく二日酔いと、店主であるヴァルカンが午前中は迷宮に潜ってしまっていることが多いからである。
そのヴァルカンはというと……
「んにゃ〜! 相変わらずタマちゃんは大人しくて可愛いにゃん!」
アリアからタマを借り受け。相変わらずの、素肌にオーバーオールファッションで露出した胸の中に抱っこしている。どうやら愛らしいタマのことを随分と気に入ってしまったようで、その顔はずいぶんと愛おしげだ。
「にゃお……」
そして、タマは気持ちよさそうに瞳を閉じ、意識が朧であった。
中身は騎士であれど体はまだ幼体。
昨日の疲れもあり、眠気まなこなのだ。
「あ、これなんかよさそうですっ」
いくつも並ぶナイフの中から。
アリアはようやく気に入った品を見つけたようだ。
手に取ると、さっそくその場で素振りをしてみる。
ビュン――ッ!
風切り音を立て、振るわれるナイフ。
アリアは以前のものよりも扱いやすいと、確かな手応えを感じる。
「これはいいですね。値段は……うっ……」
苦い表情を浮かべるアリア。
扱いやすい武器というものは、それなりに値が張るものだ。
昨日――決闘前のクエストで、ゴブリンの耳の他に、オークの片腕も持ち帰ることができて、懐に余裕ができたアリアではあったが、今手に持っているナイフは同じものを揃えようとすれば、その儲け分をほとんど使ってしまうことになってしまう。
今後の武器のメンテ料などを考えれば、どうしても躊躇してしまうというもの。
「にゃあ、アリアちゃん? 武器選びで悩んでるところ悪いんだけど、ちょっと相談に乗ってくれにゃい? アリアちゃんにとっても悪い話じゃないと思うにゃん」
「どうしたんですか? ヴァルカンさんが相談なんて珍しいですね?」
武器のことでアリアから相談するのはよくあることだが、ヴァルカンの方から客であるアリアに相談ごととは珍しい。
何事だろうかと、アリアが不思議そうな顔をする。
「実は今、冒険者仲間を探しているのにゃ。アリアちゃんさえ良ければ一緒にパーティ組まにゃい?」
「え……っ? 私がヴァルカンさんとですか!?」
「そうにゃ! 自分で言うのもにゃんだけど、Cランクの私と組めるのは悪くない話だと思うにゃん」
「すごく嬉しいです。……けど、どうしてわたしなのですか? わたしはDランクだし、それにヴァルカンさんには、元騎士隊長の“サクラ”さんという立派なパーティ仲間がいたはずじゃ……」
ヴァルカンの誘いに喜びの表情を浮かべるアリア。
アリア自身も女性の冒険者仲間を欲していた。
今まで彼女がソロでクエストを受けていたのは、男性が苦手だというのと、周りに手頃な女冒険者がいなかったから、というのが理由だ。
そんなところに誘いをかけてくれたのが、日頃から仲良くしているヴァルカンで、さらに自分よりも階級が上ともなれば、喜ぶのは当然だ。
だが、それと同時に疑問が芽生える。
今、アリアの言ったとおり、アリアは駆け出しを卒業したばかりのDランク。
そして、ヴァルカンには元騎士のBランク冒険者、サクラというパートナーがいたはずなのだ。
「ランクのことなら問題ないにゃ。アリアちゃんが伸び代のある冒険者だって話は聞いてるし、タマちゃんの強さも昨日の決闘でいろんな冒険者が噂してるにゃ! それに……」
「それに?」
勢いよく、アリアとタマのことを褒めたヴァルカン。
だが、その途中でげっそりした顔を浮かべ言い淀むのを見て、アリアが先を促す。
「それにサクラちゃんとは昨日、パーティを解散したにゃん。なんでも、“異界から来た男の娘の魔法使いちゃん”の子どもを妊娠したらしいにゃ……」
「あぁ……そういう事情ですか……」
異界からという言葉と、男の子というイントネーションに違和感を抱きつつも、アリアは納得する。
この世界には異界からの来訪者が現れることも珍しくはないし、冒険者パーティを組んでいた仲間の1人が妊娠し、パーティを解散するといったこともよく聞く話だ。
……実は、その男の娘魔法使いとサクラとやらが、アリアの憧れる“剣聖様”と繋がっていたりするのだが……それはまた別の話とする。
「そんなわけで私とパーティを組まにゃい? 今だったら、武具をパーティ価格で提供する特典付きにゃん」
「そういうことでしたら、わたしに断る理由はありません。タマ、あなたもいいと思いますよね?」
「にゃん!」
改めて勧誘するヴァルカンに応えるアリア。
問われたタマも元気よく返事をする。
(ご主人に仲間が増えるのは良いことだ。それだけ命を落とすリスクも減るし、何よりヴァルカン嬢は自らの店を営む者。十分に信用に値する人物だ)
タマもヴァルカンとパーティを組むことに異存はない。
「それじゃあ、活動は明日の午前から。集合はギルドでOKにゃん?」
「はいっ、問題ありません。ふふっ、よろしくお願いしますね、ヴァルカンさん」
「こちらこそにゃん!」
アリアとヴァルカンが固い握手を交わす。
白磁の肌の美少女エルフ。
小麦肌の虎耳美少女。
そして、エレメンタルキャット。
迷宮都市に異色のパーティが誕生した。




