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23話 決着

「固有スキル……ですか?」


 決闘のあと。

 ギルド職員の休憩室へと通されたアリアが、不思議そうな顔をする。

 その胸にはポーションで元気を取り戻したタマが抱かれている。


「そう。タマちゃんが最後に放ったスキルは、恐らく固有スキルだと思うわん。冒険者時代に、固有スキルを持つエレメンタルキャットを見たことがあるし、間違いないと思うの」


 アリアに答えるのはアーナルドだ。


 タマが回復して安堵したアリア。

 すると彼女の中に、ひとつの疑問が芽生えた。

 タマが最後に使ったスキル……アレはなんだったんだろう? と。


 そして、アーナルドに尋ねてみた結果が、恐らく固有スキルだろうという回答だった。


「すごい威力だったから、一瞬モンスターなんじゃないかと疑っちゃったけど、タマちゃんみたいな姿のモンスターなんて聞いたこともないし。もし、モンスターだったら、もっとマナの量が大きいはずだわ」


 加えてアーナルドは言う。


 通常、動物とモンスターでは体から漏れ出るマナの量が違う。

 それは動物とモンスターが体のつくりが違うからだ。


 ところが、タマはモンスターとはいえ、元人間の騎士であった。

 タマは無意識ではあるが、自分の体に流れるマナを人間と同じように調整し、操っていた。それ即ち、外に漏れるマナの量が動物並みというわけである。


 そして、元Bランク冒険者であったアーナルドは、マナの感知に優れている。

 過去の経験、それとタマから漏れるマナの量で、タマがモンスターではないと判断したのだ。


(ふむ。ご主人を守るため、モンスターであることもバレる覚悟だったのだが……どうやら助かったようだな。それにしても固有スキルを持つエレメンタルキャットが存在していたとは、世の中は広い)


 またもや身バレを回避できたことに。

 そんな感想を抱きつつも、タマはひと安心。

 前回と同じように、勘違いをしてくれたアーナルドに感謝するのだった。


 ところで……

 今回の事の原因、カスマンだが。

 やはりと言うべきか、最後のアリアの踵落としによって完全に砕かれて(・・・・)しまったらしく、ポーションでは治すことができなかったそうだ。

 医者の見立ててでは、もう男として機能できなくなってしまったとか……。


 だが、それについてカスマンが、どうこう言う権利は無い。

 決闘とは法律で定められた正式な戦いだ。

 どんな結果が待ち受けていようとも、受け入れるしかないのだ。


 もし、復讐など企てようものなら、たとえ貴族であろうとも、法によって厳しく処罰される。ゆえに、今後、アリアとタマが報復に怯える必要はまずないのだ。


 花嫁(アリア)を手に入れるために、汚い手を使ったカスマン。

 その結果、二度と女を抱けない体になってしまうとは……なんとも皮肉なものだ。





「はい、タマ。あ〜んです」

「にゃ〜ん!」


 宿屋の自室。

 フォークに刺した肉料理を、アリアがタマの口へと運ぶ。


(おお、美味いぞ! 宿屋の料理と甘く見ておったが、やりおるな!)


 まだ夕刻前ではあるが。

 今日の勝利を祝うため、アリアとタマは祝杯をあげていた。


 アリアは、いつもの果実酒。

 タマは少々お高いミルクを用意してもらえた。


 肴は宿屋の女主人が作ってくれた煮込んだ肉料理や、焼き魚など様々。

 それらを部屋に持ち帰り、舌鼓をうっているわけである。


 美味い酒。

 美味い料理。

 そして勝利の余韻も相まって、アリアとタマの食がドンドン進む。


 そんな中――


(ん? どうしたのだご主人?)


 焼き魚にかぶりついていたタマが、アリアの食の手が止まったことに気づく。


 見ればアリアの表情は暗く。

 少し俯いている。


「タマ……ッッ!!」

「んにゃッ!?」


 心配そうにアリアの表情を見つめていたタマ。

 そんな彼の体を、アリアは急に抱きしめた。


「タマ……タマ、タマ……!」


 抱きしめる力を強め。

 何度も何度もタマの名を呼ぶ。

 その瞳からは大粒の涙が、次々と溢れでてくる。


「ありがとうございます、わたしを守ってくれて……。でも、もう二度と、あんな危険なことしないでください……もし、あなたが死んでしまったら、わたし……」


(ああ……そういうことであるか)


 タマは察する。

 恐らくアリアは、自分を守ろうと傷つくタマの姿を思い出してしまったのだ。

 そして酒も入った今、感情が爆発してしまったのだ。


(大丈夫だ、ご主人様……。我が輩はそう簡単に死ぬつもりはない。それに今後は、いざとなれば《属性咆哮》も使える。頃合いを見て、《アイアンボディ》も使うつもりだ。だから、今回のようなことは、まず起きん)


 今回の騒動で、タマもかなり吹っ切れた。

 土壇場で発動した《エーテルハウリング》も、固有スキルと勘違いされたことだし、危ない場面に出くわしたら、種類を選んで他のスキルも小出しにしていくことにしている。


「にゃ〜ん」


 優しい声で鳴き声をあげるタマ。

 アリアの涙を拭いてあげるように、自分の頭を彼女の頬にすりすりと擦りつける。


「ふふっ……傷ついたのは君の方なのに、励ましてくれるなんて……。タマは本当に優しいです」


 タマの気遣いに。

 アリアもやっと、いつもの微笑みを浮かべる。


 タマは夜遅くまで、アリアを慰めてやるのだった。


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