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Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士(ペット)として暮らしてます  作者: 銀翼のぞみ
第一章

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20話 迫る危機

「《アクセラレーション》ッ!!」


 迷宮1層目、その奥部。


 敵の一団を眼中に捉えたアリアが、駆け出すとともに。

 固有スキル《アクセラレーション》を発動。

 スキルの効果によって得られる、動作速度の向上を利用し、あっという間に距離を詰める。


 ドガッ――!


 敵……五体のゴブリンたちの懐に飛び込むと。

 アリアはそのうちの一体に蹴りを見舞って、奥へと吹き飛ばす。


「はぁぁぁぁぁ――ッ!!」


 裂帛の声をあげるとその場で回転。

 呆気にとられる二体のゴブリンの喉を、両手のナイフで掻っ切る。


 そしてそのまま、奥へと疾走。

 壁に叩きつけられ、衝撃で動けずにいるゴブリンへと迫る。


『ギギッ!!』


 仲間をやられてなるものか。

 ようやく事態を飲み込んだ残りの二体が、アリアへと襲いかかろうとする。


 だが――


「にゃん(《アイシクルランス》)!!」


 先ほどまでアリアがいた位置から、可愛らしい声が響く。

 声のあとを追い、凍てつく魔槍が飛び出すと、二体の胸へと突き刺さる。

 もちろんタマによるものだ。


「これで終わりです!」


 タマが二体を仕留めている間に。

 アリアもゴブリンの胸にナイフを突き刺した。


『グ……ギッ……』


 目を見開き、苦悶の声を漏らすゴブリン。

 やがて脱力し、その場に崩れ落ちると息をひきとった。


「やりましたタマ! これで30体目です!」

「にゃ〜〜!!」


 全ての敵を倒し終わると。

 アリアが、ぱぁっと顔を綻ばせる。

 タマもそれにつられ、嬉しそうに鳴く。


 ヴァルカンから装備を受け取ったあと。

 アリアとタマは、予定どおり迷宮へと訪れていた。


 当初は、動物 (だと勘違いしている)のタマと、どういう風に一緒に戦えば良いのかと戸惑ったアリアだったが、戦闘を繰り返す内に、タマが自分を守るように魔法スキルで援護してくれることに気づいた。


 それからさらに戦闘を重ね。

 アリアが前衛。

 タマが後衛というスタイルが出来上がりつつあった。


(ふむ、ご主人が理解の早い娘で助かった。ベヒーモスとはいえ幼体の我輩では、ご主人のスピードに追いつけんし。エレメンタルキャットと勘違いされておるから、《飛翔》や《属性剣尾》も使えんからな)


 アリアの盾となる騎士として。

 属性魔法だけでは心もとないと思っていたタマではあったが、アリアがすぐにタマの特性を理解してくれたおかげで、無理な動きをすることなく彼女を守ることができる。


 タマもそれが分かり、ひと安心といった感じだ。


「タマ、ここまで来たら次の階層に入ってみませんか? あなたがいてくれれば大丈夫そうですし、わたしの修業にもなると思うのです」

「にゃん!」


 剥ぎ取り作業を終えたアリアの提案に。

 タマは元気よく返事をし、頷くのであった。





『ブヒョォォォッッッ!!』


 2層目に足を踏み入れて少し――


 タマとアリアの前に、それは現れた。


 耳障りな鳴き声。

 目算180センチ程度の大柄な背丈。

 血走った目とつり上がった鼻を持つ顔は、まるで豚のよう……


 豚人型のモンスター。

 その名も“オーク”。


 何やらひどく興奮している様子だ。

 それもそのはず。

 オークは、ゴブリンと同様に人間のメスを孕ませることのできるモンスターだ。

 そして、ゴブリンよりも遥かに性欲が高く、人間のメスと見ればすぐさま襲いかかってくる。


「うぅ……あの醜悪な顔、怖気が走ります……」


 興奮したオークを見て。

 アリアが自分の腕をさする。

 見れば鳥肌が立っている。

 どうやら変な想像をしてしまったようだ。


 成長したタマと“にゃんにゃん”したい願望を持つアリアでも。

 さすがにオークは御免被りたいらしい。


『ブヒィィィィィィィッッ!!!!』


 アリアの反応に怒りを覚えたのか。

 先ほどとは違い、怒気を孕んだ雄叫びをオークがあげる。

 手に持った大振りな鉈を振り上げ、ドシドシと足音を立て迫り来る。


 ビュン――ッッ!!


 アリアへと鉈が振り下ろされる。

 だが――


「遅いです!」


 アリアはその場で軽くステップすると。

 大きく距離を取り、回避する。


「にゃん(《ファイアーボール》)!!」


 すぐさまタマが、魔法スキルを放つ。

 火球は勢いよく飛び出すと、オークの顔面に直撃。

 顔を焼かれたオークは激痛のあまり、叫びを上げ、武器を手放す。


「ナイスです、タマ!!」


 好機を逃しはしない。

 アリアはオークへ接近するとその場で跳躍。

 逆手に構えたナイフを心臓目がけて一気に振り抜いた。


 そして、そのままオークの腹を蹴り、再び距離を取る。

 オークが最後の足掻きとばかりにアリアを殴りつけようと拳を振るったからだ。


 空振るオークの拳。

 それと同時、オークの目から光が消え、大きな音を立てて倒れた。


「ふぅ……」


 大きく息をつくアリア。


 彼女が今まで倒してきたのは、ゴブリンやスライムといった弱小モンスターのみ。自分よりも遥かに巨体で膂力のあるオークを前に、やはり緊張していたのだ。


「ふふっ……これもタマがいてくれたおかげですね」

「にゃ〜ん」


 完璧なタイミングでサポートしてくれたタマに、アリアが笑いかけると、タマは「気にするな」といった様子で鳴き声をあげる。


(さてさて、せっかく倒したオークだ。久しぶりにかぶりつくとしよう。もしかしたら何かスキルを持っているやも知れんしな)


 オークの死体へと、てちてちと近づくタマ。

 そして一気にかぶりつく――が……


「こらタマ!」

「んに゛ゃ!?」


 かぶりつこうとした瞬間。

 アリアの鋭い声がそれを止めた。


 アリアはそのままタマを持ち上げ、むにゅん! と抱きしめ……


「もうっ、モンスターの肉なんて食べちゃ、お腹壊しちゃいますよ? めっです!」


 と、タマを叱りつけるのだった。


(むぅ……これはまずいぞ。モンスターを食べるのを禁止されてしまっては、今後、我輩のスキルを増やすことができぬ。どうしたものか……)


 そんなタマの心境など気づくはずもなく。

 アリアは、るんるん気分でオークの剥ぎ取り作業を始めるのだった。





「タマ、今日の夜は何にしましょうか?」

「にゃ〜お」


 オークの討伐を終えたところで今日の活動は終了とし、アリアとタマはギルドへと戻ってきた。


 アリアのポーチの中にはゴブリンの耳がパンパンに詰まっているし、タマを抱えていない方の手には、オークの腕が入った皮袋が握られている。


 オークの討伐の証拠となる部位は、ゴブリンと同じく耳ではあるのだが、オークの皮と骨はそれなりの値段で買い取ってもらうことができるので、腕ごと持ち帰ってきたのだ。


「こんにちは、アナさん。クエストの報告と素材の査定、お願いしてもいいですか?」

「アリアちゃん……! 今はマズイわ。今日のところは帰りなさい」

「アナさん……どうしたんですか?」


 いつものように、ガチムチボンデージ受付嬢(混沌)のアーナルド・ホズィルズネッガーさんのいるカウンターへと足を運ぶアリア。


 だが、どういうことだろうか。

 アーナルドは小声でそんなことを言いだす。

 何やら周囲を気にしている様子だ。


 と、そこへ……


「待っていたぞ、アリア嬢」


 1人の男が現れた。


 上質な装備に、なんとも言えない微妙な顔。

 それに整髪料のベッタリついたオールバックの髪……カスマンだ。


「カスマン様……何かご用でしょうか?」

「ああ、その通りだ。アリア嬢、君にとっては残念な知らせを伝えに来た」


 先日の件があったにもかかわらず。

 まだ自分に絡んでこようとするカスマンに、アリアは少々不快感を露わにする。


 そんなアリアに。

 カスマンはいやらしい笑みを浮かべながら、とある羊皮紙を差し出してきた。


「そんな! どうしてこんな……!?」


 差し出された羊皮紙を見て。

 アリアの顔が驚愕に染まる。


 羊皮紙にはカスマンの家――男爵家の家紋が押されており、要約するとこんな文面が書き記されていた。


“男爵家、長男であるカスマンに怪我を負わせた害獣(冒険者アリアのペットであるエレメンタルキャット)の殺処分命令書”

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