201話 魔皇シスター
む? 何やら掲示板の方に冒険者たちが集まっておるな……?
「アナさん、アレは……?」
「アリアちゃん、実は隣国……ヘルヴヘルムの国王がお抱えの勇者によって殺害されたらしいの。さっきからその話題で持ちきりなのよ」
なんと!?
国王が勇者によって……
とんでもない事態であるな。
「ヘルヴヘルム王国お抱えの勇者、少し前に魔族の軍勢を退けたって聞いた噂を聞いたにゃけど……」
「ヴァルカンちゃんの言う通りよん、それがいったいどうしてそんなことに……」
ふむ、確かに不自然な気がするな。
魔族の大軍を退けるほどの功績……
それほどの働きをしたのであれば褒賞も弾むはず。
ヘルヴヘルムは豊かな土地のおかげもあり栄えていると聞く。
それほどの王国を裏切るような真似を何故……
「気になる事態ですが、今わたしたちのできることはありませんね」
「アリアちゃん、その通りにゃ。とりあえず予定通りクエストに向かうにゃん。本当にバトルデバイスが使えるようになっているかどうかも確かめたいにゃし」
「了解です。ヴァルカンさん」
ご主人とヴァルカン嬢の言う通りだ。
それにしても……
まったく、魔族アモンどもの件といい物騒になってきたな。
◆
深夜――
我輩は家を抜け出し夜の都市を歩く。
人目につかないところまで移動したところで《飛翔》スキルを発動。
夜の大空へと舞い上がる。
ふむ、素晴らしい景色だな。
オレンジの街灯に照らされた迷宮都市。
水面に光が反射し幻想的な景色である。
それはそれとして。
今、我輩はとある場所へと向かって海の上を飛んでいる。
昼間、クエストは無事に達成した。
その間にバトルデバイスが正常に発動することも確認済みだ。
しかし、発動に成功したその時だった。
我輩の頭の中にとある情報が流れてきた。
その情報とは――
ふむ、ここだな。
上空より下を見下ろす。
そこには孤島の姿が……
どういうことだ?
普段はこんな島など都市から見えぬのに……
何故か上空からだとこの島の姿を見ることができる。
バトルデバイスを発動させた瞬間、我輩の頭の中にこの孤島の位置情報が流れ込んできたのだ。
しかし、同じくバトルデバイスを発動させたご主人に変わった様子はなかった。
恐らく、というか……
ほぼ十中八九、大魔導士殿から受け取った宝石が関係しておるのだろう。
宝石の入った箱には丁寧に名前まで彫ってあったしな。
もし我輩の予想通り、大魔導士殿がこの孤島に導いたのだとしたら……
いったい何が待ち受けているのだろうか?
島に着陸する。
どうにも人の気配がない。
上空から見た限り木々が鬱蒼と生い茂っておった。
それも当然か。
少し散策してみるが……
特に何かを見つけることもできなかった。
「にゃあ〜?」
仕方ない、一旦帰るとするか。
そんなふうに考えたタイミングであった……
――我が神よ、外に出していただきたく。
「にゃあ!?」
思わず声を漏らしてしまった。
なんだ? 脳内に声が……
それにこの声、まさか……!?
「にゃあ!」
急いで《収納》スキルを発動する。
すると次元の歪みの中から――
「お久しゅうございます。我が神よ」
き、貴様は! リンドヴルム……!!
どうして蘇っておるのだ!?
「落ち着きください、我が神よ。あなた様のスキルの中で仮死状態となっておりましたが、ようやく自己修復が完了しました」
……な!?
そう、我輩の前には先の戦いで倒したはずのリンドヴルムが。
戦いの後……
我輩はリンドヴルムの破片を見つけ、こっそり回収しておいたのだ。
それが……じ、自己再生だと!?
む? それに我輩のことを神と呼んでいたような??
「その通りです、我が神よ。あなた様に仕える為、このリンドヴルム、復活を果たしました」
わ、我輩の心を読んでおる。
その上、何やら訳のわからぬことを……
「我が神よ、混乱させてしまい申し訳ありません。まず説明させていただくと、心を読んでいるのではなく、わたくしの力で強制的に念話をさせていただいております」
な、なるほど、念話であるか……
いや、強制的に念話とか恐ろしいが?
しかし、不思議だ。
目の前にいるリンドヴルムからは邪悪な気配や敵意を感じない。
「ああ、それに関しましては……あなた様に敗れた後、わたくしはあなた様の《収納》スキルの中で、同じくあなた様の神聖なる波動に触れ続けることで浄化された存在となりました」
なんと、そのようなことが起きえるのか……
「魔族アモンによって無理やり生み出されたこの命……。強く、そして服従の呪縛から救い出してくださったあなた様のためにお役立てさせていただきたく。どうかお仕えすることをお許しください」
ふむ……
とんでもない事態になっておるな。
敵であった者を側に置くなど……
それにその姿ではこの島から出すわけにもいかぬし……
「なるほど、そういうことですか。でしたらこれならいかがでしょうか?」
ぬ? リンドヴルムが光に包まれた。
かと思ったらその光の中から――
「我が神よ、どうかあなた様にお仕えすることをお許しください」
そんな言葉とともに、一人の美しい修道女が現れた。
修道女といっても……
胸元は大きく開き豊かな膨らみが覗き、スカートの裾もかなりタイトで生白いむっちりとした太ももが露わになってしまっている。
「さぁ、我が神よ、わたくをどうかお側に」
なるほど、変身したのか。
というかどうしてそのような姿に……?
「あなた様は我が神です。神に仕えるにはこの姿が最適と判断しました」
神に修道女……
なるほど?
いや、服装が問題なのではない。
この状況……
まったく、どうしたら良いものか。
「我が神よ、さっそくこの身でご奉仕させていただきます」
「にゃあ!?」
ちょ、何を!?
や、やめろ!
胸元を開きながら我輩の方に迫ってくるのはやめるのだ……っ!




