19話 暴走エルフ
翌日――
「ふふっ、おはようございます。タマ」
今日も今日とて。
アリアの胸の中で目覚めたタマに、彼女は優しい微笑みで語りかける。
「にゃお〜」
タマは起き上がると、アリアの頬に自分の顔をスリスリと擦りつける。こうしてやると、アリアが喜ぶからだ。
「タマったら……君はほんとに甘えんぼさんなんですね? でも、素直なのはいいことです。おねえちゃんにもっと甘えてください」
ほら、このとおり。
アリアはタマが甘えた様子を見せると。
それを褒めて、もっととねだるのだ。
どうやらアリアは、甘えるのではなく。
甘えられるのがお好きらしい。
(ふぁ……たまらん)
アリアのような美少女に求められ。
なおかつ甘え放題。
タマは幸福感で、どこまでも満たされていく。
(よし、ご主人の要望に応えるためだ。今日は趣向を凝らしてみよう)
そう決めると、タマは早速行動を起こす。
まずはアリアへ、すりすり甘えるのをやめる。
アリアは「もう終わりですか……?」と残念そうな顔をするが、そこへ……
ペロンっ。
舌を出して、彼女のエルフ耳をひと舐めする。
「あんっ……!」
(なに!? 想像していたものと反応が違うぞ!?)
艶のある声で反応を示したアリアに。
タマはとっさに後ずさる。
アリアの頬がピンクに染まる。
心なしか息は荒く。
自分の太ももと太ももを擦り合わせている。
そして潤んだ瞳で、こう言う。
「タマぁ……もっとぉ…………」
と――。
(いかん! 完全に変なスイッチが入ってしまっている! やはりご主人は、そういう趣味を持っていたのか!? これではエルフではなく、“エロフ”ではないか!!)
ベッドから飛び降り。
部屋の隅まで退避するタマ。
だがアリアは、ゆらぁっと立ち上がると。
ゆっくりゆっくり、タマへと近づいてくる。
なにやら、「タマにあんなテクニックがあったなんて……」とか、「もう大きくなるまで待てません……」などとブツブツ口走っている。
(まずい! 喰われる!!)
タマは本能でそれを感じ取った。
アリアがタマを追いつめ、その小さな体を抱き上げた。
だが、次の瞬間。
救いの手は差し伸べられた。
コンコンっ。
響く音。
部屋のドアがノックされたのだ。
「は、はい!」
アイスブルーの瞳の奥に、小さなピンクのハートを浮かべていたアリアだが、急な来訪者によって、途端に正気に戻る。
「私にゃ〜、ヴァルカンにゃん!」
「ヴァルカンさん!? い、今開けますから、少し待っててください!」
慌てて居住まいを正すアリア。
ネグリジェのままでいかがなものかと思いもしたが、女同士だし、待たせるのも失礼と思いドアを開ける。
「にゃ〜朝早くからゴメンにゃ。でも、どうしてもコレを早く見てもらいたくて、来ちゃったにゃん」
「あ! それって……」
「そうにゃん。タマちゃん専用の防具にゃ。昨日、作るのが楽しくて徹夜して仕上げちゃったにゃん♪」
ヴァルカンの手には、ごく小さな防具が握られていた。
それを見て、アリアの顔がぱぁっと明るくなる。
(ふぅ……どうやらご主人の興味は防具に逸れてくれたようだ。ヴァルカン嬢、ナイスである)
タマはホッと息を吐くのであった。
ところで……
防具を仕上げるにしては、ずいぶんと早すぎると思うかもしれないが、それには理由がある。
この世界の鍛冶士のほとんどは、“鍛冶スキル”というものを身につけている。
能力は鍛冶速度の倍加、対象の赤熱化……など様々なものが含まれている。
そして、このスキルがあったからこそ。
ヴァルカンは若い身でありながら、鍛冶士として成功しているのだ。
「タマ、さっそく防具を身につけてみましょう!」
「にゃ〜ん!」
ヴァルカンから装備を受け取り、アリアが装備を広げると、タマは元気よく鳴き、装備に脚を通していく。
そして……
「やぁんっ、かわいいです!」
「にゃ〜、問題なく装備できてよかったにゃん!」
防具を装備したタマを見て。
アリアが頬を染め、ヴァルカンが満足げに頷く。
タマの防具……
胴体部分は革鎧に似た作りになっており、その上に数カ所ばかり鋼鉄製の装甲が取り付けられている。これはタマのしなやかな動きを阻害しないための構造だと、ヴァルカンが説明する。
次に頭部。
頭部は木と鉄で出来たヘルメットが用意されていた。
こちらも、タマの聴力を阻害しないよう、耳が通せるように穴が開いている。
その姿は、冒険者のコスプレをした猫といった感じで、実に愛らしい。
猫が大好きなアリアにとって、まさに、たまらないといった感じだろう。
「タマちゃん、ちゃんと動けるかにゃ?」
「にゃお〜ん!」
運動性に問題ないか尋ねるヴァルカンに。
タマは元気よく返事をすると、その場でグルグルと歩き回ってみせる。
(ふむ。多少重く感じるが、ベヒーモスである我が輩には問題なさそうだ。昨日のヴァルカン嬢の口ぶりからして、サイズ調整の魔法もかけてあるようだし、成長しても長く使えるだろう)
タマとしても満足な出来だった。
さすが、繁盛している鍛冶屋の主人が自らの手で仕上げた作品だ。
「それと、これも届けに来たにゃん」
ヴァルカンが、ふた振りのナイフを差し出した。
どうやら、アリアのナイフのメンテも終わらせていたようだ。
「ありがとうございます、ヴァルカンさん」
「にゃ〜、こっちこそ久しぶりに作り甲斐のある注文をもらえて楽しかったにゃん! それじゃあ、お代は昨日のうちにもらってるし、ここら辺で失礼するにゃん」
そう言って、ヴァルカンは去っていった。
去り際に小さく欠伸をしているのを見るに、本当に徹夜で作業をしていたのだろう。
「タマ、ご飯を食べたらさっそくギルドへ行って、クエストを受けましょう!」
「にゃんっ!」




