194話 魔族の狙いとバトルデバイス
それはさておき。
ご主人が倒したジェネラルを《収納》スキルで回収。
これでようやく制御室とやらにたどり着くことができるぞ。
「ふむ、思ったとおり、制御室の結界魔法は生きているようじゃの」
シュリ女王が巨大な扉の前で何やらモノクルを取り出して様子を確認している。
「あらん? この結界、とんでもない量のマナで構築されているのねん」
そういえば、アナ殿はマナの流れを見るのに長けているのであったな。
我輩ももっと器用にマナの流れを感じたり見たりできれば便利なのだが……
まぁ、これだけの戦闘力を持つ体に転生した上でそこまで求めるのは贅沢というものか。
やはり……というべきか。
ここでもシュリ女王は扉に向かって鞭を、パシーン!!
扉に紋様が浮かび上がると左右に開いていく。
なんと、これが制御室とやらか。
何やら見慣れぬ装置のようなものがずらりと並んでおる。
「よしよし、制御系の機器はどれも生きておるようじゃの。これであれば都市内にある砲台たちを決戦用の兵器に転換することが可能なのじゃ」
シュリ女王がその制御機器とやらに触れると何もないはずの空間に映像が浮かび上がり、その中に何やら文字のようなものが羅列されている。
「これは……なんだか〝日本語〟に似ているような……」
「気付いたか、セドリックよ。その通りじゃ、ここの制御装置は全て異世界――地球の日本語を元に発展した特殊な言語で操作するのじゃ」
そう言って、シュリ女王は空間に浮かび上がった映像――どうやらバーチャルモニターというらしい――を操作し始めた。
すると周囲の聞きたちが次々とバーチャルモニターを展開していく。
ほう、これはすごい。
どうやらそれぞれ都市内部の映像が映し出されているようだ。
「見つけたのじゃ! なるほど魔族アモンどもは都市の北区に潜伏しているようじゃな」
本当に魔族どもが映し出されているな。
……む? 何やらリンドヴルムが淡く青白い光を吸収しているようだぞ?
一体何を企てているのだ??
「これは……まずいのじゃ! ヤツの、リンドヴルムの体内のマナがより安定したものへと変わっていくのじゃ!」
別のバーチャルモニターを見ながら焦った様子のシュリ女王。
「なるほど、そういうことですか……」
「どういうことでしょう、シエル様?」
「アリア、よく見てください。今リンドヴルムが吸収しているのは鬼神ノ涙から溢れる特殊なマナです。魔族どもが魔界に帰らずこの都市に転移したのは、リンドヴルムの存在を安定化させ次第、また別の国を襲撃するつもりだったからでしょう」
「状況から察するに、シエルの推察でほぼ間違いないじゃろうな。魔族どもめ、なんと厄介な真似を……!」
まずいな。
ただでさえ強力なリンドヴルム。
それがより安定した存在と化してしまっては……
「陛下、決戦兵器を生み出すのにどれくらいの時間がかかりますにゃん?」
「ヴァルカンよ、完全転換まで三時間はほしいところなのじゃ」
「さ、三時間もにゃ!?」
「安心しろ……とまでは言えないが落ち着くのじゃ。リンドヴルムのマナの安定化、その速度は極めて穏やかなのじゃ。恐らくこちらの決戦兵器の転換が終わってもまだヤツのマナは半分も安定しないじゃろう。それよりも……」
む? まだ何か他に懸念点でもあるのだろうか。
「都市の砲台を決戦兵器へと転換してもいくらか素材が余る。そこでじゃ、お主たちに用に強力な武具――バトルデバイスを同時に開発しようと思う」
なんと! 新たな武具だと?
皆、強化された魔族どもには苦戦を強いられていた。
この状況下で戦力を強化できるのは実にありがたいぞ。
だが……
「陛下、新たな武具はとても心強いのですが、扱いに慣れるまでの時間が……」
うむ、ご主人の言うとおりだ。
いくら強い武具を与えられようとも次の戦闘までの時間があまりも少なすぎる。
「アリアよ、安心するのじゃ。ここの機能で生み出したバトルデバイスは少々特殊での、装備者の意識とリンクしてある程度感覚的に扱うことができるのじゃ。それに、今回はお主たちそれぞれに合った専用のものを作るつもりじゃ。使い心地は保証するのじゃ!」
なんと、そのようなことが可能なのか。
この都市――ガルガンチュアの技術力、恐るべしであるな。
「じゃが……」
む? まだ何か問題でもあるのだろうか?
「バトルデバイスに回せる素材には限りがあるのじゃ。そうじゃな……三〜四人分といったところかの?」
「なるほど、そういうことですか。それなら私の分は大丈夫です」
「うん、シエルさんと同じく僕の分もいらないよ。僕にはハニーの、アナの加護があるからね」
「や〜ん! セドリックちゃんったら嬉しいこと言ってくれるじゃない♪ あと私も遠慮するわん、そのバトルデバイスとやらがあっても私程度の実力の者に持たせたところで焼け石に水だものん」
「了解なのじゃ、それならバトルデバイスはアリア、ヴァルカン、ステラ、フェリ……体が小さいから恐らくリリとタマの分も作れるじゃろう!」
なるほど、だがしかし……
「よ、よろしいのでしょうか? わたしたちのパーティの分のみなんて、それにそれでは陛下の分が……」
「良いのじゃ! 同じパーティ内の者たちに持たせた方が連携も組みやすいじゃろう。それに妾のことは心配無用。妾は決戦兵器の中に乗り込んでリンドヴルムと直接やり合うつもりじゃからな!」
なんだと!?
シュリ女王自らとは……!
なんと、なんと高潔な心の持ち主だ。
直近の発言や行動で引いてはいたが……
本当に素晴らしいお方なのだな。
よしっ!
「にゃあ〜!!」
「なんじゃ? タマよ、妾を励ましてくれるのか? 本当に優しい猫じゃのう。頼りにしておるぞ?」
うむ! 任せろ、シュリ女王。
ご主人だけでなく、この戦いであなたのことも守り抜いてみせるぞ!
「タマ……まぁ、いいでしょう。タマは高潔で優しき騎士様ですからね」
一瞬ご主人が不満そうな顔をしたが……
我輩の気持ちは理解してくれたようだ。
「よし、それでは決戦兵器、そしてバトルデバイスの転換に取り掛かるのじゃ! 皆は数時間後の決戦に備えてゆっくり休むように!」
うむ、了解だ。
シュリ女王!