193話 自分が女だから勝てないってすごくいいですよね
迷宮化した施設の中を進むことしばらく――
「ふむ、もう少しで制御室なのじゃが……」
シュリ女王の声が尻すぼみに。
仕方あるまい。
我輩たちは今通路の曲がり角に身を潜めておるのだが……
その先に厄介なモンスターがおるのだ。
「リビングジェネラルアーマー、ですか」
ほう、ご主人も知っておったか。
リビングジェネラルアーマー。
Aランク帯のモンスターであり、リビングアーマーの上位種だ。
そしてその周囲には配下であるリビングアーマーがわんさかおる。
「アリアちゃん、どうするにゃん? ジェネラルがいると配下のリビングアーマーが攻守ともに強化された上に、ジェネラルを倒さない限り再生しちゃうにゃん」
「ヴァルカンさん……そうですね、あの数を盾にされてはタマの炎の咆哮でも倒しきれず再生されてしまうでしょうし……」
二人の言うとおり、何とも厄介なモンスターである。
厄介さだけで言えばSランクモンスターに匹敵するような特性を持っているのではなかろうか。
「よし、ここは妾に任せるのじゃ!」
そう言って、シュリ女王がどこからともなく今度はとてつもなく長い一本鞭を取り出した。
そのような武器まで持っていたのか。
相変わらずボンデージ姿とマッチしていてなんかイヤであるな。
それはさておき。
「ふふふ……っ、行くのじゃ」
ブーツをカツカツと鳴らしながらジェネラルどもの前に姿を表すシュリ女王。
その堂々とした、それでいて妖艶な歩き方、まさに女王様といったところか。
どうやらジェネラルが気づいたようだ。
背中の大剣を片手に持つと、配下どもをけしかけるべく「ゴォ!!」と咆哮を上げる。
号令に従い鎧の体をガチャガチャと鳴らしながら駆けてくるリビングアーマーども。
「うふふ……っ、綺麗に陣形を組んで突撃とは。妾の鞭の餌食なのじゃ!」
口に指を当て艶っぽい笑みを浮かべるシュリ女王。
そのまま大きく鞭を振るう。
パシーンっっ!!
最前列のリビングアーマー全てに鞭がクリーンヒット。
するとどうだろうか。
リビングアーマーを覆っていたオーラのようなものが消え失せたではないか。
「すごいです! ジェネラルのバフ効果を打ち消してしまいました!」
「その通りじゃ、アリアよ。妾のこの鞭型のアーティファクト――ミストレスウィップには攻撃した対象のバフ効果を打ち消す機能が備わっておる。あとはわかるな? タマよ」
了解だ、シュリ女王!
「にゃあ!!」
喰らえ、《イフリート・ハウリング》!!
業火の咆哮に飲まれる最前列のリビングアーマーども。
シュリ女王がジェネラルのバフ効果消してくれた。
そのおかげで防御力はもちろん、再生能力も失ったので核ごと焼き尽くすことができるぞ!
「そら! 次はお前たちじゃ、この矮小なモンスターどもめ!」
な、何やら楽しそうに鞭を振るっておるな、シュリ女王。
それを眺めながらアナ殿が「いや〜ん! 素敵よん、女王様〜!!」などと盛り上がっているが……
まぁいい。
この調子で敵どもを焼き尽くしてくれる!
「グ、グゴ……ッ」
配下どもを失い、戸惑いの色を見せるジェネラル。
残りはお前一体のみだ。
「タマ、ここはわたしに任せてください」
「にゃあ?」
む、これはまたどうしたのだ、ご主人?
「せっかくのジェネラルです。素材が欲しくなってしまいました」
「にゃあ〜!」
なるほど、そういうことか。
そういえばジェネラルの素材は特殊な金属でできており、高性能な武具などの素材になるのであったな。
さすがご主人、こんな時であっても素材を回収するという冒険者としての基本を疎かにしていないのである。
「《アクセラレーション》!」
一気に距離を詰めるご主人。
そのまま《スターライト・ブレイド》を発動した状態でテンペストブリンガーを一閃!
一撃でジェネラルを仕留めてみせた。
さすが、さすがご主人である!
「女王陛下、素敵な鞭捌きを見せてくれて感謝だわ〜! 同じボンデージを着る者として興奮しちゃったわん♪」
「な、なんじゃ……アナにそう言われると照れくさいのぅ。じゃ、じゃがな? こんな格好で鞭を振るい、称賛の声をかけられても……」
む? どうした?
何やらシュリ女王の頬がほんのりピンク色に染まっているような……
「女王だなんだと言われても、結局は強いオス――タマには決して勝てぬ! そしていつの日か無理やりわからされてしまうと思うと……あぁっ、妾はなんて矮小な女王なのじゃっ♡♡」
「いや〜〜ん! 陛下ったら本当にいい趣味をお持ちなのねん! 本物! 本物よ! 素晴らしい逸材、この先が楽しみだわ〜♪」
すごい盛り上がりを見せておるな!?
言っている内容に引く前にその熱量にもはや脱帽なのだが??
いや、女王陛下をわからせるなんてことは絶対にしないのだが……
「むぅ〜」
「うにゃ? どうしたにゃ、アリアちゃん?」
「ヴァルカンさん、私……初めて女王という立場が羨ましく思えてきました」
「急にどうしたにゃん?」
「だって自分は女王様という高貴な身分なんですよ? なのに愛した殿方には絶対に勝てないなんて……興奮しかしないじゃないですかっっ♡」
「あ〜、なんとなくわかるにゃ! 私もアーティファクトスミスなんてもて囃されているにゃけど、自分が女だからというだけで結局タマちゃ――好意を寄せているオスには勝てないと思うとちょっと興奮しちゃうにゃん!」
ご主人にヴァルカン嬢まで何を言っておるのだー!?
とういうか今、我輩の名前が聞こえたような気が……
いや、考えるのはやめておこう……。