192話 恥ずかしい状態の下着
ひとまず、ご主人とシュリ女王の暴走についてはヴァルカン嬢とシエル嬢が止めに入ってくれた。
まったく、Aランク冒険者と一国の女王ともあろう者が迷宮内で何をしておるのだ。
それはさておき。
我輩たちは順調に迷宮と化した施設の中を進んでいる。
何度もリビングアーマーの奇襲に遭いヒヤッとする場面はあるものの、我輩が一掃することで全員無傷である。
それにしても、ここでこうして戦闘ができるはありがたい。おかげで経験値を稼ぐことができる。
雑魚とはいえ、凄まじい数のリビングアーマーを相手にしたので我輩のステータスに第三形態の文字が浮かび上がったぞ。
――おい、ステラ。
――おん? タマから念話なんて珍しいのだ。どうしたのだ?
――第三形態への進化が可能になった。ご主人たちに伝えるべくそれっぽい会話を振ってほしい。
――おお! それは心強い! よし、任せろなのだ!
「タマ、第三……じゃなくて、また聖獣へ進化できるようになったりしないのだ?」
な、何という不自然な質問……っ。
しかも今第三形態って言いかけただろう……!
まぁいい、とりあえず「にゃ〜ん!」と返す。
「まぁ! それは本当ですか、タマ!」
「そうであれば百人力なのじゃ!」
うむ、ご主人とシュリ女王の表情がパッと明るくなったな。
これでいざとなれば、我輩が第三形態に進化する前提で事を進めることができるぞ。
「ああ……っ! これでまたタマに無理やり初めてを奪われてしまう可能性が♡」
「あ、あんな大きな姿で蹂躙されたら……妾の体壊れちゃうのじゃ……っ♡」
ご、ご主人だけでなくシュリ女王までそのようなことを……!
勘弁してくれっ。
――おい、タマ!
――なんだステラ?
――ちゃんとタマに言われたとおりにできたのだ。我を褒めろなのだ!
――まぁ……不自然であったものの、確かにお前にしては頑張った方か。うむ、よくやったぞ、ステラ!
――お〜〜! タマに褒められて嬉しいのだ!
まったく、本当に嬉しいのだな。
胸の前で両手の拳を握り、心底たまらんといった表情で頬までほんのりピンクに染めておる。
「タマ? ほ、本当にステラちゃんと通じ合ってませんか?」
「に、にゃあ〜??」
き、気のせいだぞ、ご主人……!
そんな不安そうな表情を浮かべないでくれ。
確かに隠れて会話はしているが、やましいことは一切ないのである!
……む?
どうした、何やらシュリ女王が太ももをもじもじとさせているような?
「陛下、お加減でも悪いですにゃん?」
「ヴァ、ヴァルカンよ……な、何か変なのじゃ! タマが、タマが妾を蔑ろにして他の女と通じ合っているのを見ると、む、胸と大事なところがキュンキュンしちゃうのじゃっっ♡」
……っ!?
な、何を言っておるんだ!?
胸と……大事なところ……っ!?
「あら〜ん! 陛下ったら本当にいい趣味してるのねん♪」
「世の中は広いな〜! そのパターンに出会うのは初めてだよ!」
ええい! アナ殿とセドリック殿はまたもや何を盛り上がっているのだ!
しかも一国の女王相手に不敬で――
いや、そもそもこの女王陛下が何というか……
聞かなかったことにしよう。
「これは……」
「うにゃ、シエル様、アレは目覚めてるにゃね」
聞かなかったことにしよう!
「う〜ん、なんでだろう? 今のシュリさまを見ていると……」
「なんだか変な気持ちになってくるのです〜?」
うおぉぁぁぁぁぁ!!
リリとフェリによろしくない影響が!?
やめて、やめてくれ……!
我輩の心の癒しを奪わないでくれ!!
「うにゃ〜ん!」
最大限、愛らしい声が出るように心がけ、フェリの胸もとに……
ぴょんっ!
とジャンプ。
「わ〜! タマちゃんの方から抱っこされに来てくれたのです〜!」
「私にももふもふさせて〜!」
よし! フェリとリリの興味を逸らすことに成功したぞ!
何やらご主人が不服そうな表情で見ているが……
今回ばかりは仕方ないのだ。
二人を〝目覚め〟させるわけにはいかぬ!
「す、すまぬ……。皆の者、ちょっと向こうを向いていてほしいのじゃ。ちと下着の中がマズいことになっているので穿き替えてくるのじゃっ♡」
もうイヤなのだ、この女王陛下……。
一応後ろを向いていると、何やろシュルリと音が聞こえてくる。
ほ、本当に着替えているご様子……!
「すまぬ、終わったのじゃ」
ふむ、頬はまだ少しピンクに染まってはいるものの、ある程度冷静を取り戻したご様子だな、シュリ女王。
「タマ、これをお主の収納スキルでしまっておいてほしいのじゃ」
……っ!?
シ、シュリ女王!
我輩の前に下着……
それも極端に面積の少ないほぼ紐みたいな形状のものを差し出してきた!?
う……っ、スキルで収納するだけだというのに変に意識してしまうというか何というか。
そんなことはないとわかっていつつも、彼女の〝温もり〟が伝わってきそうな感じが……
「タマ? そんなに陛下の下着が気になるのですか??」
ひっ! そういうわけではないのだ、ご主人!
こんなものすぐに仕舞うのだ!
だからそんな冷たい瞳で見ないでくれ……!
「ああっ! 妾の恥ずかしい状態の下着がタマのスキルに触れて……♡」
いい加減にしてくれ、この女王陛下……っ!!