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181話 強化魔族⑤

 カツカツ……


 ブーツを鳴らしながらセドリックの方へと歩いていく魔族カイム。


 魔族ヴィレと撃ち合うヴァルカンの方にも視線を送りつつ、セドリックは剣を構える。


「《ヴェルフェグウェポン》……!」


 セドリックに槍を向け静かに叫ぶカイム。

 彼女の目の前に紫の魔法陣が出現、その中から禍々しいマナで形成された剣や槍、斧、ハルバードが勢いよく飛び出した。


「なるほど、武具召喚系のスキルか」


 凄まじい速度で飛んでくるカイムの攻撃を剣一本で捌くセドリック。

 全ての攻撃を捌き切るや否や地面を勢いよく蹴り一足でカイムへと一気に距離を詰める……が――


 ダンッ!!


 その途中で立ち止まったかと思えばセドリックは後方へと飛び退いた。


 次の瞬間、地面から――ザン!! と数十本の剣が飛び出してきたではないか。


「……今の攻撃を見切るのか、厄介」


 静かにセドリックを睨みつけるカイム。

 その左手に持った斧が禍々しい紫の光を放っている。


(厄介、か……それはこっちのセリフなんだけどね)


 そんなことを思いながら軽やかに着地するセドリック。


 敵――魔族カイムの攻撃は厄介だ。


 セドリックが長剣一本で戦っているのに対し、敵はマナで形成された武具を中距離から放ち、距離を詰めようとしても今のように地面から武具を召喚することでそれを阻んでくるのだから。


(それに……)


 敵の武具に視線を向けるセドリック。

 彼はいくつかの予測を立てる。


 先ほどの地面からの攻撃、あれは敵が咄嗟に発動したものではなく予め地面にトラップ形式でスキルを仕掛けておき、対象がそのエリアに足を踏み入れた瞬間に発動するものだと。

 事実あの瞬間、魔族カイムにはスキルを発動したような挙動はなく、それなのに地面から剣が飛び出してきた。


 彼女の持つ斧が禍々しい光を発していたが、それはスキルが発動した後だ。恐らく一つ目のトラップを回避されたことで、どこかに新たなトラップを仕掛けたのであろう。


 そして最後に一番厄介な事実が……

 それは敵の放つ攻撃がマナで形成されているにも関わらず、それを剣で捌いてもマナとして吸収することができないことだ。


 セドリックは敵のエネルギー攻撃を吸収、そしてそれを闇属性のマナに変換しエネルギーブレイドとして中距離の敵へと放つことができる。

 しかし敵の攻撃はマナで形成されているのに吸収することができず、全て剣で捌くと消失してしまうのだ。


(マナを完全なる武具として放つと相当消耗するはずなんだけど、その様子は全くないね。敵の攻撃が消失することを考えるに、まさか自身のマナとして還元されているのか……?)


 それらの事実や予測があるからこそ、セドリックをもってしても今回の敵は厄介……そう判断したのだ。


 だが――


(やるしかないね!)


 再び駆け出すセドリック。

 魔族カイム目掛けて直線コースで一気に距離を詰め……るかと思いきや、その途中で大きく右に逸れる。


 次の瞬間、再び地面から無数の刃が飛び出した。


 それを見て(……っ!!)と息を呑むカイム。


 彼女は理解した。

 目の前の男――セドリックは先ほどの攻撃を勘で回避したのではない。

 トラップスキル発動の直前、もしくはそれよりも前に見抜いていたのだと。


「どうやら気づいたようだね」


 言いながら剣を腰だめに構え突き進んでいくセドリック。

 彼はアーナルド同様にある程度マナの流れを読むのに長けている。

 その能力で地面に不自然なマナの流れがあることに気づき警戒していたのだ。


 対しカイムは「《ヴェルフェグウェポン》……!」とスキルを発動。

 無数の武器を生み出しセドリックに向け放つ。


「なるほど、その数を普通に捌き切るのは無理だね……それなら――《アイシクルバースト》!」


 スキルの名を高らかに叫びながら、セドリックは迫り来る武具の雨に向けて剣を振り抜く。


「……そんなことをしても無駄――な!?」


 言葉の途中で目を剥くカイム。


 当然だろう。自分の放った攻撃、その全てがセドリック――その手前に無数に出現した氷の結晶を模したかのような魔法陣に防がれたのだから。


「凍って……いる……?」


 怪訝な表情で自身の放った武具たちを見るカイム。


 敵にダメージを与える、もしくは防がれることを条件に武具たちは消失し自身のマナとして還元される性能を持っている……にも関わらず、どの武具も敵の魔法陣に阻まれたままの状態を保ちマナが還元された感覚もないからだ。


「……何? その力」


 クールな雰囲気を僅かに崩し、忌々しげな表情をうっすらと浮かべ問いかける魔族カイム。


 対しセドリックは自身ありげな笑みを浮かべながら答える。


「これはアナ――僕の恋人の〝固有スキル〟でね、愛する相手にのみあらゆる氷の加護を授けてくれる……そんなスキルらしいよ?」


「……恋人? 愛? 戦場でふざけた真似を……!」


 とうとう忌々しいといった感情を完全に露わにしたカイム。


 対しセドリックは、離れたところでシュリやメタルオーガナイツと連携しながら戦うアーナルドを愛おしげな表情で見ると剣を中段に構える。


「さぁ、見せてあげよう……僕たちの愛の力をね」

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