179話 強化魔族③
ダン――!!
咄嗟にその場から飛び退くステラ。
その刹那、ガープから紫電を纏った衝撃波が迸った。
ステラはカラドボルグで身を庇うも大きく後方へと吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ……我と同じく衝撃を吸収して放つことができるのかっ」
何とか体勢を立て直すステラ。
しかしその直後にガープが……ゴウッッ!! と再び衝撃波を放つ。
「クラウソラス!」
これ以上喰らうのは危険と判断し、ステラもアーティファクトから衝撃波を放つ。
ぶつかり合う両者の衝撃派、あまりの威力に地面が抉れる。
「ガハハハハ!! おもしれぇ! だが遊びはここまでだ!」
高笑いをしながら地を蹴り一気に距離を詰めてくるガープ。
今度はその両手の拳に禍々しいオーラを纏っている。
(くっ、厄介なのだ!)
二つのアーティファクトを構え迎撃の体勢に入るステラ。
衝撃の吸収・解放だけでなく膨大なマナをエネルギーに変換して拳に乗せてぶつけてくる。
二つの攻撃方法をどう攻略したものか……敵の拳をカラドボルグでガードしながらステラは考える。
「ガハハハァ! さらに出力を上げてやる!!」
雄叫びを上げるガープ。
その右の拳に先ほどまでとは比べ物にならない禍々しいエネルギーを纏い……ドゴォォ――ッッ!!
凄まじい音と共にカラドボルグに攻撃を叩き込む。
「ぐあ……ッ!?」
呻き声を漏らすステラ、あまりの威力に彼女の手からカラドボルグがあらぬ方向へと飛んでいく。
「これで終わりだ!!」
ガープの鎧から禍々しい色に染まった紫電が走る……次の瞬間、盾を失ったステラに敵が放った衝撃派が襲いかかる。
「《ドラゴニックパワー・フルドライブ》!!」
叫ぶステラ。
次の瞬間彼女の姿がその場から掻き消えた。
何が起きたのか理解することができず、思わず「な……ッ!?」と声を漏らすガープ。
その直後だった――
斬……ッッ!!
空を裂く鋭い音と共にザザンの右腕が宙を舞った。
その断面から鮮血が勢いよく噴き出す。
「グゥ……ッ、て、テメェ……何をしやがったッッ」
首を回し、背後へと視線を向けるガープ。
その先には体をドラゴニュート状態へと変化させたステラの姿が……
その手に握られた大剣型のアーティファクト、クラウソラスには血糊がべっとりと付いている。
ガープが衝撃派を放つことを咄嗟に判断したステラは瞬時に自身の力を解放しドラゴニュート化した。
それと同時に奥の手である《ドラゴニックパワー・フルドライブ》を発動。人の限界を超えた脚力でその場から跳躍することで強化魔族であるガープですら反応できぬほどのスピードで背後へと回り込んだ。
そのまま瞬時に鎧の隙間からクラウソラスによる的確な斬撃を叩き込むことで腕を切り飛ばしたのだ。
「何も衝撃波を使うことだけが我の戦い方ではないのだ」
ニィ……ッと獰猛な笑みを浮かべながら、ステラはクラウソラスに付いた血を……ビッ! と払う。
◆
(まずいですね、まさかガープが押されることになるとは……)
リリとフェリに魔法スキルを立て続けに放ちながら、失った方を押さえ膝をつくガープの方へと視線を向けるザザン。
まさか敵がドラゴニュートだったとは、しかもあの状況から形勢逆転されるなど……予想外の展開に僅かながら焦りの色が顔に浮かぶ。早く目の前の妖精族二人始末してガープの援護に回らなければ、と。
そんなタイミングであった――
「フェリ、そろそろいいかしら?」
「リリ、これなら問題なくいけそうです〜!」
顔に汗を浮かべながらも、妖精二人が自信ありげな笑みを浮かべてやり取りを交わす。
それを見たザザンはさらに困惑する。
(何を言っている? 私に対して防戦一方、その上マナが底をつきかけているというのに……)
嫌な予感がする……ザザンはその直感に従いさらに《ベルフェグライトニング》を嵐のように二人が展開するフィールドへと叩き込む、その瞬間であった――
「《ユグドラシルバースト》!!」
高らかにその名を叫ぶリリとフェリ。
二人を守っていた花の結晶体、そこから発せられる鱗粉が青白く染まっていく。
そして――
カ……ッッ!!
二人を守るフィールドが眩い光を放った。
思わず手で目を覆うザザン、しかしその隙間から見えた光景に愕然とする。
妖精二人の展開したフィールド、その真上に青白い稲妻のようなもので形成された巨大なドラゴンが顕現していたからだ。
「ま、まさか……その雷で出来たドラゴンはァ……ッッ」
「そう、その通り!」
「お前の雷属性の魔法スキル、それを全部吸収して作った竜――《ユグドラシル・バースト・ジャバウォック》です〜!」
あまりの光景に気が動転した様子のザザンに、勝ち誇った笑みを浮かべるリリとフェリ。
二人同時に「「いっけぇぇぇぇ!!」」と叫ぶと雷の竜は全身から凄まじい稲妻を散らしながら魔族ザザンを飲み込んでいく――。