178話 強化魔族②
その刹那――
「クラウソラス!」
裂帛の声が響く。
ゴウ――ッッ!! という凄まじい音ともに今まさにリリたちに攻撃を仕掛けようとしていた魔族の体があらぬ方向に吹き飛んではないか。
「リリ、フェリ! 大丈夫か!」
「ステラ!」
「ありがとうございます〜! 助かりました〜!」
間一髪のところで衝撃派を放って敵の攻撃を防いだステラ、彼女に礼を言いつつもそれぞれいつでもスキルを発動できるように構えるリリとフェリ。
「まったく、せっかく奇襲のお膳立てをして差し上げたのに失敗するとは……情けないですねぇ? ガープ」
「うるせえ、ザザン! オメェがもっとしっかりサポートすれば潰せてたんだよ、クソが!」
魔法スキルを使う魔族――ザザンが煽る。
後から現れた魔族――ガープは悪態を吐きながらもダメージを感じさせることなく立ち上がる。
「あいつら……」
「マズイ、かもです〜……」
「クラウソラスで放った衝撃派が効いてないのだ……!」
額に冷や汗を浮かべるリリ、フェリ、ステラ。
魔族ザザンは凄まじい火力と攻撃範囲を持つスキル、それに加え恐らく味方を転移させることができるスキルを有している。
魔族ガープもザザンと同等の波動を放っており、奇襲時に膨大なマナを拳に纏っていた。そしてステラの攻撃をモロに喰らったというのにほぼ無傷で立ち上がっている。
「けど!」
「やるしかないのです〜!」
「グハハハ! その意気なのだ、リリ、フェリ!」
妖精二人の言葉を聞き、その場を飛び出すステラ。そのまま一気に魔族ガープへと距離を詰める。
「ほう、あのような超重量武装を手にしながらあのスピード、ですか……」
「おもしれぇ! ザザン、あの女は俺がやる! 手ェ出すんじゃねぇぞ!!」
そう言い残すとザザンにそう言い残すとガープは拳を構えながらステラの方へと駆け出した。
「まったく、せっかく連携を取りやすい組み合わせで奇襲をかけたというのに、あの脳筋は……、まぁいいでしょう、こちらはこちらで楽しませてもらいましょうねぇ?」
クツクツと笑いながら両手の杖を構えるザザン。
対しリリとフェリもアーティファクト――デファイヨンリングを嵌めた方の手をそれぞれ構える。
「《ベルフェグライトニング》!」
先ほどと同じ魔法スキルを発動するザザン、しかし今度は収束した雷を左右の杖から二本同時に放ってきた。
「「《ユグドラシルフィールド》!!」」
二人同時に複合派生スキル――その更なる派生したものを発動する妖精二人。
彼女たちの周りに無数の花の形をした結晶のようなものが現れる。
その結晶全てから鱗粉のようなものが飛び散った……かと思えば敵の攻撃をまるで吸収でもしたかのように無効化して見せた。
「っ……! ベルフェゴール様の力の一部を取り込んだ私のスキル、それを二つ同時に無効化するとは厄介なスキルだ。……しかし、随分と消耗が激しい防御スキルのようですぇ?」
渾身のマナを込めて放った二つスキル、そのどれもが無効化されたことにザザンは驚きつつもその途中で口の端を吊り上げる。
その言葉を聞き、リリとフェリは「「……っ!!」」と目を見開く。
よく見れば二人の体には大量の汗が浮かんでおり、その顔には疲労が浮かんで見える。
複合派生スキル《ユグドラシルシールド》は鉄壁の防御力を誇る。しかしザザンの言う通りマナの消費が激しい。それは膨大なマナを有する高位の妖精族である二人であってもすぐに消耗してしまうほどだ。
「さぁ、いつまで持ちますかねぇ!?」
愉悦の感情を顔に浮かべ、ザザンが禍々しい稲妻を走らせながら猛攻を開始する。
◆
そこから少し離れたところでは――
「ガハハハァ! 面白い! 面白いぞ女ァ!!」
ステラに向かって、マナで作ったエネルギーを纏ったガントレットで凄まじく速く……それでいてとんでもない重さのパンチを連続で放つガープ。
ステラもアーティファクトの盾――カラドボルグでそれを防いでみせるが……
「ぐぅ……ッ!」
攻撃が当たるたびに小さな呻き声を漏らしている。
カラドボルグには敵の攻撃よって生じる衝撃を吸収する能力がある。
しかし、ガープの攻撃が強力すぎるが故にその衝撃を全て防ぎきることができないのだ。
「けどこの距離なら……クラウソラス!」
叫ぶステラ。
大剣型のアーティファクト――クラウソラスからガープに向かって衝撃波を放つ。
「クソがっ! さっきの攻撃か! 《ベルフェグアーマー》!」
悪態を吐きながら何やらスキルを発動するガープ。
その体に纏った鈍色の鎧が禍々しい紫へと染まったではないか。
「なっ!?」
驚愕に目を見開くステラ。
クラウソラスによるゼロ距離での衝撃を喰らったにも関わらず、ガープがその場から吹き飛ばされるどころか微動だにしなかったからだ。
「どうやらヨォ……俺とお前の力は似ているようだなァ?」
スキル発動と同時に攻撃を防ぐためにクロスした腕……その隙間からガープが壮絶な笑みを浮かべる。その鎧にはバチバチと紫電が走っている。