177話 強化魔族①
「ちぃッ、なんだあのふざけた戦力は……!」
次々とやられていく前衛部隊、そして遠距離攻撃さえを無効化されていくのを目の当たりにしてアモンが悪態を吐く。
だが――
「まぁいいだろう、我々が直接叩けばそれで済む話だ」
悍ましい笑みを浮かべながら前衛へと駆けていく。
「グハハハ! 力を存分に試すのが楽しみになってきたぜ!」
「ガープ、うるさいすよ? まぁ気持ちはわかりますがねぇ」
ガープ、ザザン、二人の強化魔族がそんなやり取りを交わしながらアモンのあとに続く。
そんな二体をヴィレとカイムはどうでも良さそうな目を見ながら並走するが……その口の端はわずかに吊り上がっている。どうやらこちらも力を試す……否、人族を蹂躙するのが楽しみで仕方ないようだ。
◆
「フェアリーバレット!」
「ブランチュウィップ〜!」
敵の前衛を次々とスキルで蹴散らしていくリリとフェリ、そんな時だった。
「フェリ!」
「リリ! なんだか変な波動がを感じます〜!」
揃って声を上げる妖精二人、その顔は困惑の表情に染まっている。
妖精族である二人は気配などに敏感である。そして二人は気配……否、今まで感じたことのない波動のようなものを感知し困惑しているのだ。
そして次の瞬間――
バリバリバリバリバリッッ!!
何かが激しく弾けるような音が鳴り響く。
かと思えば敵の前衛部隊が奥の方から紫色の雷のようなものに飲み込まれていくではないか。
「フェリ!」
「リリ! あれをやります〜!」
両手を前に突き出す二人、そのまま声高らかに叫ぶ。
「「《ユグドラシルシールド!!》」」
次の瞬間、二メートルほどの半透明色をした花の結晶のようなものが現れる。
今まさに二人と二人を守っていたメタルオーガナイトを飲み込もうとしていた紫色の雷のようなものを何とか防いでみせる。
複合派生スキル《ユグドラシルシールド》――
二人はベルゼビュートとの修行でそれぞれスキルを強化することに成功した。
しかし二人はそれで満足することなく、さらに自主的にスキルの研究・鍛錬を進めた。
そしてつい最近になって二人で協力して発動するこのスキルを会得したのだ。
「ほう、魔王ベルフェゴール様の力の一端によって強化された私のスキル……それも不意打ちだというのに防ぐとは、面白い妖精族ですねぇ。もしかしたらただの妖精族ではなく高位の存在なのでしょうか?」
そんな声とともに、ブーツをカツカツと鳴らしながら一体の魔族が現れた。その額には水晶の破片が埋め込まれている。
「フェリ、あいつ……」
「リリ、波動の正体はあいつです。でも他にも似た波動が……」
目の前の魔族を見据えながらやり取りを交わす二人の妖精。
彼女たちの会話を聞き、魔族は意外そうな表情を浮かべながら再び口を開く。
「なんと、さすがは妖精族ですねぇ。まさか体の内か発せられる波動をだけで私たちの存在を感じ取り、その異質ささえも判別できるとは……。なるほど、今の攻撃を防ぐことができたのは異質な波動を感じ取り警戒を強めていた、というわけですねぇ」
狂気を感じさせる笑みを浮かべながらリリとフェリを舐め回すように見る魔族、妖精二人はさらに警戒を高めいつでも術を発動できるように構える。
周りのメタルオーガナイトたちも二人をやらせまいとそれぞれ槍の鋒を魔族に向ける。
「面白い、私の新たなる力を存分に試す最初の相手として不足はないでしょう。さぁ、楽しませてくださいねぇ……!」
リリたちが構えたのを見て、魔族が懐から短杖を取り出し――
「《ベルフェグライトニング》ぅッッ!」
鋭い声で叫ぶ。
短杖の先から紫色の雷が飛び出し凄まじいスピードで二人に迫る。
「「《ユグドラシルシールド》!!」」
咄嗟に防御スキルを発動するリリとフェリ。
ギリギリのタイミングではあるが何とか魔族の攻撃を防いでみせる。
「ほう、これも防ぐのですねぇ! いやぁ素晴らしい判断力だ。……ですが、足元がお留守のようですねぇ?」
「「……っ!!」」
魔族の言葉を聞き思わず息を飲むリリとフェリ。
彼女たちの足元には紫色の魔法陣が展開していた。
そして敵の反対の手には禍々しい光を放つもう一本の短杖が――
タンっ!!
咄嗟にバックステップするフェリ。
リリも一緒に後方へとバック飛行する。
その刹那、魔法陣の中から「グハハハァ!!」という声とともに全身を鎧に包んだ魔族が現れた。その額には同じく水晶のようなものが嵌め込まれている。
(くっ!)
(間に合いません!)
咄嗟に回避行動はしたものの、予期せぬ敵の出現にリリとフェリは回避距離を伸ばすことができなかった。
魔法陣の中から現れた魔族、禍々しい紫色のガントレットに包まれた巨大な拳が凄まじいスピードで二人に襲いかかる――!