175話 戦いの狼煙
城の地下施設――巨大な転送装置がある部屋へとやってきたアリアたち。
転送装置にメタルオーガナイトが入っていき、次々とその姿を消していく。
「さぁ、そなたたちも妾と一緒に」
そう言って、シュリが転送装置に向かって歩き出す。
彼女のあとをついていくアリアたち。
皆が転送装置の上に収まると、閃光とともに姿を消す。
◆
(ふむ、どうやら転送に成功したようだな)
遠くの方を見つめ、そう確信するタマ。
その視線の先には、土煙を上げてゆっくりと迫ってくる魔族とモンスターの軍勢が見える。
タマだけでなく、アリアたちも無事に転送に成功したようだ。
それぞれ、辺りを見渡した後に己の武器を手に取る。
後ろを振り返るタマ。
高い外壁の前に、次々とメタルオーガナイトたちが転送されてきており、布陣を展開していく。
「魔族の出現に合わせ、この都市の武者部隊も動き出しておるが、準備に時間がかかる。計画通り、それまで妾たちだけで対処するのじゃ!」
そう言いながら、シュリが胸の谷間から装飾された金属の扇のようなものを取り出す。
どうやらその扇こそが、彼女の得物のようだ。
ちょうどそのタイミングで、全ての転送を終えたメタルオーガナイトたちが布陣の展開を完了したようだ。
一糸乱れぬ動きで、ザッ! という音とともにそれぞれ武器を構える。
「よし、魔族どもが射程に入り次第、矢を放つのじゃ!」
シュリの号令で、遠距離型のメタルオーガナイトたちが弓を引き絞る。
◆
一方その頃――
『おい! どういうことだ、アモン!?』
『敵の部隊が既に展開されていますねぇ?』
魔界から転移を終え、王都サカズキに進軍する最中、ガープとザザンがアモンへと問いかける。
自分たちの襲撃を、鬼人族たちが予測するのは不可能なはずだった。
だからこそ、島国リュウドウを標的に選び、今回の作戦を実行した。
(なのに、これはいったいどういうことだ……!)
遠くの方に広がるメタルオーガナイトの部隊を見て、アモンは目を見開き絶句する。
これでは作戦の成功率が下がってしまう。
いったいどうしたものかと。
(いや、ここまで来たら作戦を実行する他あるまい。どちらにせよ、魔界に再転移するほどのマナを確保できていないのだからな……)
安全に撤退できないのであれば、このまま逃げる手段はない――アモンはそう判断する。
そんなことをすれば、後退中に後ろから追撃され、部隊が瓦解するのが目に見えているからだ。
『なぜ敵の部隊がこうも早く展開できたのかは不明だ。だが作戦に変更ない。このまま進軍し、攻撃を仕掛ける! 我ら魔族の力を鬼人族どもに見せつけるのだ!』
動揺する魔族たちに喝を入れるべく、アモンは声を張り上げる。
それに応えるように、魔族やモンスターたちが『ウォォォォォォォ――ッッ!!』と、雄叫びを上げる。
『チッ……』
『まぁまぁ、良いではありませんか。強化された私たちの力を、存分に振るうことにしましょう』
『肯定、楽しみ』
面白くなさそうに舌打ちするガープに、ヴィレとカイムがそんな風に声をかける。
二人とも涼しげな表情をしているが、その瞳からは凄まじい戦意を感じさせる、獰猛な光を放っている。
『まぁ、そうだな!』
『ええ、僕たちの力で鬼人族の国を蹂躙してあげましょぉ!』
ヴィレとカイムの言葉に、ガープとザザンはおぞましい笑みを浮かべ、そう答える。
(ふんっ、単純な奴らだ。……まぁ、その分扱い易くて助かるがな)
ガープたちのやり取りを見据えながら、小さく鼻で笑うアモン。
ベルフェゴールの水晶のカケラの力で強化されたことで、ガープたちは調子に乗っている。
せいぜいにいい気になって暴れてくれと、アモンはほくそ笑む。
『前衛部隊、突撃だ!』
敵部隊の射程と思われる距離に入る前に、アモンが大声で指示を飛ばす。
魔族、そしてモンスターの前衛部隊が、王都サカズキに向かって一気に駆け出す――。