174話 行動開始
翌日、夜明け前――
(ふむ、そろそろ起きるとするか)
城の客室にあるベッドの中でタマが目を覚ます。
魔族の軍勢の襲撃に備え、昨日はシュリの提案で城に泊まらせてもらったのだ。
「おはようございます、タマ」
タマの横から透き通った優しい声がする。
どうやら、アリアも起きたようだ。
それに続き、ステラたちも起き出す。
リリとフェリも普段はお寝坊だが、今日の戦いに赴く自覚はしっかりあるようで、真剣な様子で自ら身支度を始めている。
部屋に備え付けられた洗面所で、アリアも顔を洗い準備を始める。
白のベビードールを脱ぎ、ヴィブラウム合金で出来たビキニアーマーへと着替え、自身の得物であるアーティファクト――テンペストブリンガーを腰に差す。
「さぁ、タマも着替えましょうね」
「にゃん!」
アリアに手伝ってもらい、タマも騎士装備を身に着ける。
ステラ、ヴァルカン、リリ、フェリも準備を終えたようだ。
そんなタイミングで、アリアたちの部屋の扉がノックされる。
アリアが扉を開けると、そこには騎士装備のセドリックと、長杖を持ったアーナルドが立っていた。
今回の戦いにはセドリックはもちろん、アーナルドも参加することになっているのだ。
シュリの見立てでは、なぜかアーナルドはタイムパラドックスに干渉することなく、今回の件に関われるらしい。
「みんな準備はできているようだね」
「はい、あとはシュリ陛下の指示を待つだけですね」
セドリックの言葉に、小さく頷くアリア。
外壁には普段からメタルオーガナイトが等間隔で配置されており、何か異変が起きれば城に伝わる仕組みになっている。
魔族が転移してきた位置が分かり次第、アリアたちはメタルオーガナイトとともにその場所へと転送してもらう手筈になっている。
戦いに前ということもあり、しっかりと食事を取ることはしない。
アリアたちはあらかじめ用意していた携帯食料と水で、簡単に食事を済ませると、いつでも出撃できるように待機する。
(ふむ……皆、緊張しているな)
皆の顔を見渡し、そんな感想を抱くタマ。
今回は特に、敵がどのような戦力を以って攻めてくるかわからない。
その上、タイムパラドックスを起こしてはならないという制約があるため、情報を知っていても事前に動けないのが歯痒い。
この様子だと、唯一救援を出すことができた氷の女勇者シエルも間に合わないだろう。
……様々な条件が重なって、皆の表情は硬い。
「にゃ〜ん」
タマはそんな声を出すと、ベッドの上に座るアリアの腕に、するりと頭を擦りつける。
「ふふっ……タマってば、心配してくれているのですか?」
タマの気持ちに気づいたアリア。
そのまま彼を持ち上げ、胸の中に優しく抱擁する。
「むむ! アリアばかりずるいのだ!」
「私も抱っこしたいです〜!」
タマたちの様子を見て、自分も自分もとアリアの隣に腰掛けるステラとフェリ。
リリは「私も混ぜて〜!」と、タマの体とアリアの胸の間にダイブする。
「んにゃ〜、タマちゃんはほんとに賢いにゃん」
「そうだね、おかげで少し緊張がほぐれたよ」
タマの気遣いに、称賛と感謝の言葉を送るヴァルカンとセドリック。
アーナルドも「ナイスムーブよ、タマちゃん♪」と、タマに向かってウィンクする。
(ふむ、どうやら皆の緊張も少しは解けたようだな)
アリアたちの顔を見渡しながら満足げに頷くと、タマは喉をゴロゴロと鳴らす……その時であった――
「入るぞ」
――そんな声とともに、部屋の扉が開かれた。
現れたのはシュリだった。
女王である彼女自ら、アリアたちに現れた……ということは――
「敵が現れましたか」
「ああ、都市の西側に魔族とモンスターの軍勢が転移してきたのを確認したのじゃ。既にメタルオーガナイトたちの転送作業を始めておる、そなたたちも急いでくれ」
アリアの言葉に、状況説明を踏まえて答えるシュリ。
彼女の言葉に頷くと、アリアたちは城の転送装置のある場所へと移動を開始する。