173話 戦いに向けて
翌日――
アリアたちは明日の戦いに向け、最後の準備をすべくシュリのもとに集まっていた。
「そういえば……陛下、この都市の核はどこにあるのですか?」
「アリア、この都市の核――鬼神ノ涙は城の頂上に設置されておる」
「え? アレってこの都市の核だったのですか!?」
シュリの答えを聞き、目を見開くアリア。
この王城の頂上には紫色の輝きを放つ、美しい宝石のようなものが嵌め込まれていた。
城全体の大きさから考えるに、核の大きさは大体三〜五メートルほどだろうか。
まさか都市の防衛機能を有する代物が、そのような場所に設置されていようとは……。
「仕方あるまい、あの位置でないと鬼神ノ涙は効果を発揮しないのじゃ。故に、今回の作戦はこの城を攻め落とされた時点でほぼ失敗確定となる。何としても都市の外側で決着を着けたいところじゃが……」
少々弱々しく言うシュリ。
敵が七大魔王に代わる存在を生み出そうと計画している以上、凄まじいほどの戦力を動員してくることは明らかだ。
しかし、こちらはシュリの操るメタルオーガナイトとアリアたちのみで、初動は対応せざるを得ない。
タイムパラドックスを起こさないためにも、他の国に救援を頼むわけにもいかず、そもそも島国のここリュウドウに、普通の移動手段ではそう早く辿り着けるものでもない。
「陛下、やはり魔族たちはこの王都の近くに転移してくると考えますが、いかがでしょう?」
「セドリック、恐らくそれで間違いないじゃろう。念のために機械兵を使って王都近郊を偵察させてみたが、魔族を見つけることはできなかったからの」
セドリックの問いに、机の上の地図を指差しながら、シュリはそんな風に答える。
彼女の指し示す場所に魔族の存在が確認できなかったとなると、この王都の近くに潜伏しているということはなさそうだ。
であれば、魔界から何かしらの手段で、かつての四魔族の一柱ヴァサーゴのように転移してくると考えて間違いないだろう。
(ふむ、ヴァサーゴの時のように召喚獣を使ってくることはないと思うが、王都を陥落させようと考えるくらいだ、それ相応の覚悟を決めねばなるまい)
アリアたちの会話を聞きつつ、タマはそう考える。
召喚獣はいなくとも、何かしら強力な戦力を揃えて襲撃してくる可能性が高いと。
それだけ魔族という種族の戦力、そして技術力というのは未だに未知数なのだ。
「陛下、これを渡しておきます。――タマ、お願いします」
「にゃ〜ん(了解だ、ご主人)!」
アリアの声に応え、タマが可愛い声で鳴きながら《収納》スキルを発動する。
すると机の上に、何本かの小瓶がパッと現れたではないか。
「この蒼の輝き……ま、まさか!?」
小瓶の一つを手に取りながら、瞳を大きく開くシュリ。
そんなシュリに、アリアは「そうです、エリクサーです」と静かに答える。
「なんと、まさかこのようなものを所持していようとは……。む? となると、リリとフェリはただの妖精族ではなく、かなり高位の妖精族なのか?」
シュリはそう言いながら、リリとフェリの方を見つめる。
エリクサーの存在とリリたちの存在を瞬時に結びつけるあたり、かなりの切れ者だ。
「そうよ! 私はハイピクシーなの!」
「私はハイドライアドです〜!」
少し自慢げな様子で、「えっへん!」と胸を張るリリとフェリ。
なんとも可愛らしい仕草だ。やはり、まだまだエリクサーを創り出してしまえる、特別な存在だという自覚がないようだ。
無邪気なリリとフェリの様子に、シュリは思わず苦笑してしまうのであった。
「魔族が転移してきた際、どのように布陣を展開するつもりですにゃ?」
地図を覗き込みながら、ヴァルカンがシュリに質問を投げかける。
戦いにおいて、初動が何よりも大事だからだ。
「この城にはロストテクノロジーで造られた転送装置がある。それを使えば、メタルオーガナイトたちを外壁の外側に瞬時に配置することが可能じゃ」
魔族が転移してきたとともに、まずはメタルオーガナイトたちを配置して防衛に備えることができる。
今回の戦いにおいて、これは大きな利点となりそうだ……と、タマは考える。
タイムパラドックスを起こさないためにも、魔族の襲撃に備えて大胆に動き回ることはできない。
しかし、魔族が現れるとともに戦力を展開できる装置があれば、タイムパラドックスを回避しつつ、ある程度有利に動くことができるだろうと。
「ぐふふ……魔族との戦い、腕が鳴るのだ」
久々の戦いに、ステラは静かに闘争本能を燃やしている様子だ。
「ところでアリア、一晩タマを貸してくれぬか? 絆を深めたいと思っての」
ある程度作戦と詰め終わったところで、シュリがそんなことを言い出した。
白い頬をほのかにピンク色に染め、悩ましげに太ももを擦り合わせている。
「ダメです」
タマを胸に深く抱きながら、アリアはとても冷たい声で、シュリの言葉を跳ね除ける。
シュリは不満そうに、「むぅ……」と声を漏らす。
「うふふん、モテる男はツライわねん♪」
タマに向かってアーナルドが、バチン! とウィンクを飛ばすのであった。