172話 魔族の動向
魔族の繁栄する地……魔界、そこに聳えるとある城にて――
『どうだ、お前たち、適合は成功したか?』
一人の魔族の男――〝アモン〟が四人の魔族に問いかける。
『どうやら成功のようですね』
『肯定、体の底から膨大なマナが漲ってくる』
アモンの問いに、そんな風に答える女魔族が二人、名は〝ヴィレ〟と〝カイム〟という。
そんな二体の額には、水晶のカケラのようなものが嵌め込まれている。
『こっちも成功したみたいだぜ』
『そうですねぇ、今までにない全能感ですよ』
続いて、二体の男魔族が答える。
名は〝ガープ〟と〝ザザン〟という。
他の二体と同じく、その額には水晶のカケラが嵌め込まれている。
『よろしい。これにて我らは魔王ベルフェゴール様の力の一端を体に入れることができた、というわけだ』
四体の魔族の言葉を聞きたところで、自身の額に嵌め込まれた水晶のカケラを撫でながら、満足そうに頷くアモン。
『しっかし、とんでもねーことを思いついたもんだぜ、アモンよ』
『本当ですね、まさか氷の勇者が不在にしているうちに、ベルフェゴール様が封印されていた水晶の破片を奪い、我らを強化する素材にするなんてね』
面白そうに笑みを浮かべながら、そんな風にアモンへと語りかけるヴィレとガープ。
そんなヴィレとガープに対し、アモンは――
『ふんっ、我らの戦闘力の強化はあくまで〝アレ〟を創造するための副産物だ』
――鼻を鳴らしながら、そんな風に答える。
『肯定、私たちの目的は七大魔王様に匹敵する新たな存在を創り出すこと』
『えぇ、そうですとも。そのために鬼人族国の王都にある核が必要なんですよねぇ?』
アモンの言葉に頷きながら、カイムとザザンが確認の言葉を口にする。
『その通りだ。過去の大戦で、憎き大魔導士たちによって、七大魔王様たちは討滅・封印されてしまった。今の我らには圧倒的に戦力が足らず、魔界の領域も縮小するばかり……だからこそ、我らには新たな戦力が必要なのだ』
拳を握り締めながら、静かに語るアモン。
その瞳は怒りに揺れている。
アモンは四魔族ヴァサーゴの血に連なる、魔族の中でも高位の存在だった。
そんな彼は、ヴァサーゴ復活の報を聞いた時、歓喜に震えた。
しかし喜ぶのも束の間、ヴァサーゴは一人の少女と聖獣に倒されてしまったという。
彼は悟った。
やはり人間族に対抗するには四魔族程度では太刀打ちできない。
であれば、新たなに強大な存在を創り出すしかない……と。
そのチャンスは意外にも早く訪れた。
アモンは普段から特殊なマジックアイテムで、各地の勇者、そして封印されている七大魔王の反応を観測し続けていた。
そんなある日、魔王ベルフェゴールと氷の女勇者シエルの反応が消えたのだ。
突然の出来事で混乱するアモンだったが、冷静になった時に、とある案を思いつく。
『魔王ベルフェゴール様の封印されていた媒体には、膨大な力が蓄積されているのでは……?』
――と。
アモンの行動は早かった。
さっそく魔王ベルフェゴールの封印されていた迷宮に忍び込み、目的の封印媒体――水晶の破片を入手することに成功したのだ。
それらを素材に、七大魔王にも匹敵するような新たな存在を創造する計画を進めた。
だがその途中で、それを成すためには膨大なさらにエネルギーが必要となることが判明した。
そこで目をつけたのが、人間都市の防衛機能としての役割を為す核の存在だ。
しかし、核を手に入れるのは至難の業だ。
何せ都市の防衛機能を突破しないと手に入らないのだから。
どこの都市の核を狙うべきか考えた末に、アモンは鬼人族の国・リュウドウにある核を奪うことに決めた。
リュウドウは島国であり、他国への救援要請も難しいだろうと考えたからだ。
『アモン、モンスターどもの強化はどうなんだ?』
『ガープ、そちらも万全だ。水晶のカケラで強化したモンスターの量産にも成功したからな。どのモンスターも今までとは桁違いの戦闘力を有している』
『フハハハ! そりゃ楽しみだ!』
アモンの答えに、愉快そうに笑うガープ。
新たな戦力を創り出す過程で、アモンはその副産物としてモンスターの戦闘力の強化に成功した。
そしてその技術を応用して、今度は自身を含む魔族の戦闘力強化の実験を行い、たった今成功したのだ。
ガープは力に特化した強化、ザザンは術に特化した強化、ヴィレは速さに特化した強化、カイムには武器の扱いに特化した強化……そして、アモン自身はエネルギー攻撃に特化した強化を施した。
『さすがの聖魔王も、ただの魔族である我らの動向を予言することはできないだろう』
『肯定、ヴァサーゴ様は聖魔王の予言によって襲撃の対策をされたせいで敗北した』
『聖魔王……あの裏切り者がッ!』
アモンの言葉を肯定するカイムと、怒りを吐き出すガープ。
聖魔王――ベルゼビュートが予言できるのは、四魔族や七大魔王の復活や大きな動きだけだ。
だからこそ、今回のアモンたちの作戦は通常の魔族やモンスターのみによるものであり、予め察知されることはないと踏んでいるのだ。
『さぁ、最後の準備を整えるとしよう。魔族に反抗する人間どもを、根絶やしにする聖戦を始めるのだ!』
四人の魔族に向かい、アモンは高らかに宣言する。