167話 女王の力の片鱗
一層目の中を、モンスターを狩りつつ進むことしばらく――
二層目へと続く階段が現れた。
(ふむ、次はどのような階層が広がっているのだろうか)
警戒しつつ、それでいてどこかワクワクした様子で階段を降りていくタマ。
その後ろを、メタルオーガナイトに護衛されたシュリがついていく。
(これは、どういうことだ……?)
迷宮二層目へと足を踏み入れたタマ。
目の前に広がる景色を見て、不思議そうに首を傾げる。
広大な空間に、廃墟のようなものがどこまででも広がっているのだ。
一層目よりもさらに深い霧が立ち込めており、どこか薄ら寒い印象を与える。
周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩き始めるタマ。
すると廃墟の一つ、その扉が軋むような音を立ててゆっくり開く。
その中から、幾体ものスケルトンが現れたではないか。
(なるほど、今度はアンデッドが出る階層というわけか!)
次々と現れるスケルトンを見て、そのことを理解するタマ。
その間に他の廃墟の扉が開き、さらにスケルトンどもが溢れ出してくる。
スケルトンはEランクのアンデッドだが、数が集まれば驚異となる。
上の階層でもビッグファングなどが出現したのを考えるに、やはりこの迷宮の難度はなかなかに高いのだろう。
(このまま囲まれるのは得策ではない、ここは一気に数を減らすとしよう!)
シュリを守るような位置取りをして、タマは「にゃあぁぁぁ!」と可愛らしくも雄々しい声で鳴く。
するとその口の中から、地獄の業火を彷彿とさせるような、赤黒い炎のブレスが勢いよく飛び出したではないか。
異世界アークで、炎の精霊の加護を受け進化した、《イフリートハウリング》だ。
猛ける精霊の業火が、凄まじい熱量をもってスケルトンどもに襲いかかる。
たった一度の攻撃で、スケルトンはその数を半分にまで減らされてしまう。
「な、なんと、そのような攻撃スキルまで所持していようとは……!」
後ろの方から、驚愕したかのようなシュリの声が、タマの耳に聞こえてくる。
さすがにここまで強力な攻撃手段を持っているとは思っていなかったようだ。
「よし、ここからは妾たちも手を貸すとしよう。メタルオーガナイトよ、やるのじゃ!」
シュリが高らかに指示を飛ばす。
するとシュリを守っていた中距離型のメタルオーガナイトが杖を構え、『《フレイムランス》――』と、機械的な声でスキルの名を紡ぐ。
その頭上に赤熱色の魔法陣が展開され、その中から炎の魔槍が勢いよく飛び出した。
炎の魔槍はスケルトンたちの中心に着弾。
何体かのスケルトンを、焼き尽くし無力化することに成功する。
(ほう、火属性の中級魔法スキルか。なかなかやるではないか)
感心した様子で、中距離型のメタルオーガナイトを横目で見るタマ。
中級の魔法スキルを使えるだけでなく、その狙いも正確で戦闘判断力もなかなかのものだ。
一国の女王が、タマの力を見るためだけに、一人で城を抜け出してきただけのことはある。
その後も、中距離型のメタルオーガナイトは連続で《フレイムランス》を放ち、残りのスケルトンを殲滅してみせた。
連続で中級魔法を放ったというのに、消耗した様子は全くもって見られない。
一体どうして……そもそも、機械の体でどうやってスキルを放っているのだろうか?
「ふふふ……っ、どうしてメタルオーガナイトがスキルを使えるのか、不思議なようなじゃの?」
タマが疑問に思っていることに気づいたのか、シュリがそんな風に問いかけてくる。
それを肯定するように、タマは「にゃん!」と鳴いて、首を縦に振ってみせる。
「答えは簡単じゃ、メタルオーガナイトたちは妾のマナを使ってスキルを発動しておるのじゃ」
「にゃ!?」
シュリの答えに、驚いた様子で鳴き声を上げるタマ。
自身のマナを他の者に分け与える、そんな技術があったとは……と。
それと同時に、タマは不安を覚える。
先ほど、メタルオーガナイトは中級魔法スキルを連発していた。
かなりのマナを消費したはずだが、シュリの体は大丈夫なのだろうかと。
「ふふっ……心配そうな顔をするでない。鬼人族の女王である妾は、この体に膨大なマナを秘めておる、中級スキルくらい何百発でも放てるのじゃぞ?」
心配そうな表情を浮かべるタマに、妖艶な……それでいて少々自慢気な表情で答えるシュリ。
それは聞いてタマはホっとした表情を浮かべるも、シュリの持つ膨大なマナ、そしてそれを使って凄まじい数のメタルオーガナイトを操れることを改めて想像し、戦慄の感情を覚えるのだった。