165話 階層変化型の迷宮
(これは……どういう構造になっているのだ?)
シュリの胸の中で、疑問を抱くタマ。
迷宮の最初の階層へと降りてくると、そこには薄く霧が立ち込める森林が広がっていたのだ。
「不思議そうな顔をしておるの、タマよ? この迷宮は階層変化型じゃ。階層によって異なる環境が広がっておるから、覚悟して進むのじゃぞ?」
タマをゆっくり下ろしながら、そんな説明をしてくれるシュリ。
彼女の言葉を聞き、タマは(なるほど……)と納得する。
階層変化型の迷宮――
それはシュリの言っていたとおり、階層によって洞窟、遺跡、火山、草原、森林など、様々な姿を持つ迷宮の総称だ。
階層によって環境が違うので、攻略するのにはそれ相応の準備が必要だ。
タマには固有スキル《獅子王ノ加護》があるので、ある程度は問題ないだろう。
(しかし……)
タマはふと思う。
攻略難度が高い迷宮を攻略するとわかっていながら、シュリはたった一人でタマの元に現れた。
一国の女王が、少々迂闊ではなかろうか、もしくは彼女自身も強大な戦力を有しているのだろうか、と――。
「さて、妾も戦う準備を始めるかのう」
そう言って、シュリが自分の胸の谷間に指を入れた。
すると中から、紫色に輝く宝石のようなものを取り出したではないか。
「出でよ、メタルオーガナイトたちよ!」
そう言って、手のひらの宝石を掲げるシュリ。
宝石は紫色の閃光を放った。
すると光の中から、四つの巨体が現れたではないか。
(なるほど。あの宝石は自律戦闘メタルオーガナイトを召喚、もしくは収納するマジックアイテムであったか)
現れた四つの巨体――シュリが城で紹介してくれたメタルオーガナイトの姿を見て、タマは理解する。
メタルオーガナイトは槍を持った近距離型が二体、杖を持った中距離型が一体、弓を持った遠距離型が一体、揃っていた。
機械兵たちはすぐさま動き出し、シュリを守るようにフォーメーションを組む。
なかなかに練度が高い……というより、自律の名の通り、そのように動くようセッティングされていると考えた方がいいだろう。
(ふむ、護衛がいれば幾分か安心か。我が輩も彼女のこと気にしつつ、モンスターどもを狩るとしよう)
シュリが護衛のメタルオーガナイトを連れてきたことで、少しホッとした表情を見せつつ歩き出すタマ。
タマの表情を見て、「なんじゃ、妾のことを気遣ってくれておったのか? 本当に賢く、優しい子猫じゃのう」などと言いながら、メタルオーガナイトたちとともに、シュリがあとに続く。
迷宮を歩くこと少し――
木の影からいくつかの異形が現れた。
灰色の毛並みに、四つの細い脚、そして鋭い牙と二メートルほどの体長を持つ狼型のモンスターだ。
名はビッグファング。
階級はBランクであり、連携を得意とする厄介なモンスターである。
そんなビッグファングが五体、それぞれタマを睨みつつ、後ろに控えたシュリとメタルオーガナイトを警戒した様子を見せる。
どうやらメタルオーガナイトこそが脅威であり、子猫の姿をしたタマ自体は餌程度にしか思っていないようだ。
(ふむ、ちょうどいい。さっそく狩らせてもらうとしよう!)
身を屈め、尻尾をフリフリと揺らして構えるタマ。
「魔王を倒した英雄が、どれほどの戦いを見せてくれるのか、楽しみなのじゃ」
後ろの方から、シュリのそんな声が聞こえる。
ならば見せてやろう、力の一端を!
「にゃあ(《ウンディーネハウリング》)――ッッ!」
可愛らしい声で鳴き声を上げるタマ。
その口の中から、高圧縮された水の咆哮が飛び出した。
タマは首を左から右に一気に振ると、木々も一緒にビッグファングどもを一瞬のうちに横真っ二つに切り裂いてしまう。
一瞬の出来事で、ビッグファングどもは断末魔の鳴き声さえ漏らすことも許されなかった。
「こ、これは、まさかここまでとは……。それに、あれだけの大技を放ったにも関わらず、消耗した様子もない。さすがは魔王を倒しただけのことはあるのじゃ!」
タマの活躍、一瞬の出来事を目の当たりにし、興奮した声を上げるシュリ。
タマの実力に、ご満悦な様子だ。