162話 よもやよもやだ
(い、異種交配!? ま、まさか、シュリ陛下が我が輩をそのような目で見ていたとは、よもやよもやだ……)
若干……というか、思いっきりドン引きしながら、タマはシュリの胸の中から抜け出そうとする――のだが……
むにゅん!
そんな感触とともに、シュリはさらに胸の中に深くタマを抱き込んでしまう。
「んにゃ〜!?」
予想外のシュリ行動に、思わず鳴き声を上げるタマ。
見てられません! とばかりに、アリアが近づいてきた。
そしてそのまま――
むにゅにゅんっっ!
――シュリの胸の中に収まるタマを、反対側から自分の胸でサンドしてしまう。
「さぁ、タマ! こっちへ……!」
「んにゃ(ご主人)〜!」
シュリとアリアの豊かな胸にサンドされながらも、何とかアリアの胸の谷間の方へと移動するタマ。
その際に、シュリとアリアが「あんっ♡」「ん……っ♡」などと、艶かしい声を漏らすのだが、タマはそれどころではない。
「ふふふっ、タマを誘惑しようとしても無駄ですよ、陛下? タマはわたしのおっぱいが好きなんです♡」
タマを自分の胸の谷間に収めて、余裕の表情を浮かべるアリア。
シュリは「くぅ……! ならばせめて子種だけでも!」などと、危険な発言をしている。
どうやら割と本気でタマを狙っていたようだ。
――タマ! 我にもお前の子種を注ぐのだ!
――ええい! 黙ってろ、ステラ! これ以上ややこしくするな!
突然念話を飛ばしてきたステラに、タマは鋭いツッコミを入れるのであった。
ただでさえややこしい状況なのに、これ以上荒らされては溜まったものではない。
「あははは! やっぱりタマはモテモテね!」
「子種って何なのです〜?」
アリアたちのやり取りを見て笑い声を上げるリリと、とんでもない単語に興味を持つフェリ。
それを聞いて、ヴァルカンたちがギョッとするも、アーナルドが「フェリちゃんにはまだ早いわよん♪」と、彼女を嗜めてくれる。
そんなタイミングで、シュリがそういえば……と、話を再開する。
「今回の襲撃に備えて、氷の勇者シエルにも救援を出したいと思う」
「そうですね、シエル様がいれば百人力です!」
「シエル様なら今回の件に関わっても、マイちゃんの言ってたタイムパラドックスも起きないはずにゃん! まぁ、距離的に間に合うか微妙にゃけど……」
シュリの言葉に、アリアとヴァルカンがそんな風に答える。
魔王ベルフェゴールの件で、戦いを共にした彼女が参戦してくれれば心強いばかりだ。
シュリの持つマジックアイテムを使えば、明日にはシエルのもとに救援のメッセージを届けられるとのことだ。
しかし、シエルの移動手段である異世界のモンスターを使っても、戦いに間に合うかどうか微妙な距離である。
作戦を講じる際は、最初から彼女を戦力として数えないほうが無難であろう。
「陛下、航空戦力は出てきた場合はどうしますか? この都市の守りは堅牢ですが、上空からの攻撃には脆いと思われます」
セドリックがシュリへと問いかける。
この都市は高い外壁に覆われており、地上からの攻撃には強い。
しかし、観光性の高いこの都市の構造的に、上空からの攻撃に対する対策が疎かに思えたのだ。
「セドリックよ、この城には都市全体にエネルギーフィールドを展開する防御システムが搭載されておる。物理攻撃は防げぬが、魔法系スキルも中級程度であれば防ぐことができる」
「なるほど、さすがは鬼人族の誇る王都です。それもロストテクノロジーというやつですか?」
「そのとおりじゃ」
セドリックの質問に、大きく頷いて肯定するシュリ。
(ふむ……万一、魔族の軍勢が航空戦力を持っており、尚且つ中級以上の魔法スキルを放ってくる、もしくは物理攻撃を放ってくる者がいれば、その時は我が輩が第三形態へと進化し、対処する必要があるな)
シュリとセドリックの会話を聞きながら、タマはいざとなれば再び進化することを決意する。