160話 魔族の侵略
「んにゃあ……陛下、どうして陛下は魔王ベルフェゴールの件を知ってらっしゃるのですにゃん?」
タマを愛でるシュリを、ちょっと羨ましそうに見ながら、ヴァルカンが問いかける。
「お主は、確かヴァルカンといったか。妾には固有スキルがあっての、その名を《鬼神ノ千里眼》という。――効果はこの世界で起きる、もしくは起きた大規模な事件の事柄を断片的に知ることができるというものじゃ」
そしてその発動条件は、事件が起きた、もしくはこれから起きる事件のキーマンとなる人物が、スキルの効果の範囲内に現れること。
今回、タマやアリアたちがこの国の首都、サカズキに現れたことで、シュリの固有スキル《鬼神ノ千里眼》が発動したのだという。
(なるほど、それで魔王ベルフェゴールの件を知ることができた……というわけか)
シュリの固有スキルの説明を聞き終わり、タマは納得といった様子だ。
「魔王ベルフェゴールの件って、何かしらん?」
唐突に、アーナルドがそんな疑問を口にする。
その言葉を聞き、セドリックたちは「しまった……!」といったような表情を浮かべる。
魔王ベルフェゴールの件について、アーナルドは無関係だったからである。
このままでは、マイが言っていたパラドックスが起きてしまう……!
と思ったのだが――
「安心せい、その者がベルフェゴールの件を知ったところで、タイムパラドックスとやら起きぬと、妾の固有スキルで見通してある」
――シュリがそんな言葉を紡ぐ。
それ聞き、アリアたちはホッとした表情を浮かべ、話を円滑に進めるためにアーナルドに先の件を伝える。
それを聞いたアーナルドは、まさにビックリ仰天といった感じではあったが、大魔導士の娘が絡んでいると聞き、ある程度の納得してしまうのであった。
ちなみに、ステラ、リリ、フェリは難しい話に飽きてきたのか、三人で指遊びを始めている。
「しかし、どうしてわたしたちを呼び出したのですか?」
今度はアリアが、シュリに向かって質問をする。
一国の女王が、わざわざ労いの言葉をかけるためだけに、自分たちを呼び出したとは到底思えないからである。
「アリアよ、お主たちを呼び出したのは他でもない。この国に危機が迫っておりそれに立ち向かうために力を貸してほしいからじゃ」
「この国の危機……ですか?」
シュリの言葉を聞き、アリアが不思議そうな声を漏らす。
霧に覆われ、堅牢な守りを誇るこの島国に、いったいどのような危機が迫っているというのであろうか。
「お主たちが異界からこの世界に戻ってきた際、迷宮の中からベルフェゴールの封印されていた水晶の破片が全て消えてはいなかったかのう?」
「……! そこまでお見通しなのですね。たしかに、水晶の破片が消えていて、勇者シエル様も不思議に思っていました」
シュリの質問に、驚きつつも肯定するアリア。
異世界アークから帰還後、迷宮の中から水晶の破片が消えていたのは記憶に新しい。
しかし、それがどうしたというのだろうか。
「その水晶の破片だが……妾が《鬼神ノ千里眼》から得た情報では、とある魔族が回収していったようじゃ」
「魔族が、ですか……?」
いったい魔族が何のために水晶を……。
そんな疑問を抱きつつ、アリアたちはシュリに先を促す。
「魔族にはとある固有スキルを持つ者がいる。ベルフェゴールのエネルギーの残滓が残る水晶の破片、そしてこの都市の防衛機能を展開する核、〝鬼神ノ涙〟を固有スキルで合成し、七大魔王の一柱と近しい存在を創り出そうと画策しているようじゃ」
「「「……ッッ!?」」」
シュリの言葉に、タマを始めとした一同が驚愕に息を漏らす。
皆の反応を確認したところで、シュリは言葉を続ける。
「魔族たちは既に動き初めているようじゃ。そして魔族の軍勢がこの都市の核、鬼神ノ涙を狙って、盛夏祭の前日に襲ってくる」
あくまでシュリの固有スキル、《鬼神ノ千里眼》で見通せるのは断片的な情報であり、全てを見通すことはできないが、それだけは確実だ。
「なるほど、魔族からこの都市の核を守り通すために、わたしたちの力を借りたい……というわけですね」
「その通りじゃ、アリア。本来であればこの国の戦士たちを前もって配備したいところじゃが、それではタイムパラドックスとやらが起きてしまうのでな。この件は極秘裏に進めねばならぬ」
アリアの質問に、タマを胸に抱きつつも真剣な表情でシュリは答える。
「この国の危機、であればわたしたちは助力を惜しみません」
「にゃ〜ん(魔族絡みの事件であれば尚更だ)!」
アリアの言葉に、タマも可愛らしい声で鳴いて答える。
ヴァルカンを始めとした皆も、協力する意志を見せる。
「皆……感謝するのじゃ」
アリアたちの答えに、シュリは深く頭を下げるのであった。