15話 ふわふわのぷにぷに
「それじゃあ、アリアちゃん。受付カウンターに場所を移しましょうか。ゴブリンの討伐報告をしにきたんでしょう?」
「あ、そうでした。すみません、つい興奮してしまって……」
胸もとに小さく収まるタマを、熱っぽい視線で見つめていたアリアに、アーナルドが話しかけると、アリアはようやく視線をアーナルドへと戻す。
その代わりといった感じで、タマの頭をゆっくりゆっくりと撫でつける。
心なしか、その手つきは昨日よりも愛おしげだ。
(ご主人よ……先ほどの言葉は、そういう意味なのか? いや、ご主人のような、いたいけな少女に限ってそんなはずは…………クソ! “にゃんにゃん”とはいったいどういう意味なのだ!?)
タマはタマで、アリアの「わたしの初めてを……」という発言に。
心の中でウンウンと自問自答を繰り返していた。
「それじゃあ、討伐の証を提出してちょうだいな」
「はい。よいしょっ……」
タマが悶々としている間に。
受付カウンターへと移動した2人が、クエストの達成確認の作業に入る。
アリアは革のポーチから、ゴブリンから剥ぎ取った耳を並べていく。
「2、4、6……オーケー。確かに10枚、五体分確認したわ。これでクエストは完了よん。今から状態を鑑定して報酬を用意するから、いつもどおりベンチか奥の酒場で時間を潰していてちょうだいな」
「了解です。アナさん」
アーナルドにニッコリと返事をするアリア。
ところで、アーナルドの状態の鑑定という言葉だが。
持ち帰ってきたモンスターの部位によっては、討伐報酬の他に、素材の買取報酬を得られることがある。
モンスターの皮は日用品の加工に使われ。
肉も種類によっては食肉として扱われる。
中には、回復薬の素材になるものまで様々だ。
そして、今回の場合。
素材として扱われるのは耳の皮部分だ。
ゴブリンの皮は、サイフや武器の持ち手、鞘に使われるなど、用途様々なのである。
鑑定とは、ギルドの裏方である鑑定士が、持ち込まれた素材が市場に出回せられるに値するものかどうか判断する作業のことだ。
「さて、鑑定が終わるまでどうしましょうか? そろそろ、おやつの時間ですし、酒場で少しゆっくりするのも悪くないですが……」
アリアは下唇に指をあて、「う〜ん」と悩んだ様子を見せる。
そんな時だった……
「あ、アリアちゃん、良かったらオイラたちと飲まねぇか?」
「へへっ、一杯おごってあげるからさ〜」
そう言って酒場で飲んでいた冒険者の男どもが、エールの入ったジョッキ片手に、アリアへと群がってくる。
(はぁ……またですか。クエスト終わるといつもこれです)
内心ウンザリといった様子で、バレないようにため息をつくアリア。
アリアはこのギルドに併設された酒場の料理を気に入っている。
クエストが終わったら毎日でもありつきたいほどにだ。
しかし、このところアリアは酒場で食事をできていない。
アリア狙いの男どもが、彼女を口説こうと毎回群がってくるようになってしまったからだ。
「すみません。せっかくのお誘いですが、今日はこのあと用事があるので……」
もっともらしい言い訳で。
男どもの誘いをやんわりと拒否する。
「そ、そうか。それじゃあまた……」
男たちも、そうしつこくせまってこない。
受付には、最強のガチムチ受付嬢(混沌)がいるし。
先ほどのカスマンの哀れな姿を見た直後であれば尚のことだった。
(ふむ。どうやら我が輩の存在は、ご主人に寄りつくゲスどもの抑止力にもなるようだ。これからも露払いに励むとしよう)
アリアの胸もとから、睨みを利かせていたタマは、男どもがビクついた様子を見せていたことに満足げに頷く。
「しかたありません。今日もベンチで待つことにしましょう。……ふふっ、でも今日からはタマがいてくれるからさみしくありませんね?」
「にゃお〜」
残念そうな様子を見せるも、胸もとのタマを見るとすぐさま笑顔を浮かべるアリア。
タマは、「もちろん! ご主人を寂しがらせたりさせるものか!」と元気に鳴くのであった。
◆
「それそれ〜!」
「にゃお〜〜(や、やめるのだ、ご主人)!!」
ベンチに座ったアリアの膝の上。
タマは仰向けにさせられ、ふわふわの腹を、こちょこちょとくすぐられ放題されていた。
「ふふっ……お腹もふわふわでかわいいですが、こっちも柔らかそうです……」
「に゛ゃ(ちょっ! ご主人そこは)……!?」
「それ、ぷにぷに〜!」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
タマの絶叫が、ギルド中に響き渡る。




