157話 初めての浴衣
「料理、美味しかったですね〜」
「ほんとにゃ! ちょっと酔っ払っちゃったにゃん♪」
ほろ酔い気分のアリアとヴァルカンが、そんなやり取りを交わしながら繁華街の通りを歩く。
アリアの胸の中で、タマは気持ちよさそうに丸くなっている。
その隣ではセドリックとアーナルドが手を繋いで仲睦まじく歩いている。
「お漬物、また食べたいわね!」
「ポリポリしてて美味しかったです〜!」
「やっぱり我は肉なのだ!」
リリとフェリ、ステラが、後ろの方でそんなやり取りを交わしている。
どうやら、よほどこの国の料理が気に入ったようだ。
「あ、アレって、着物屋さんですかね?」
歩くこと少し、アリアがとある方向を指差す。
そこには色とりどりの和服が飾られたショーウィンドウが目立つ店舗が立っていた。
「そうみたいねん♪ せっかくだから、みんなで浴衣を買って着替えるのはどうかしらん?」
「んにゃ! それは素敵にゃ、この国にいる間は浴衣で過ごすのも悪くないにゃん!」
アーナルドの提案に、ノリノリといった様子で喰いつくヴァルカン。
アリアとしても、浴衣や着物が気になっていたので大賛成だ。
さっそく皆で店の中に入ることとする。
「うわぁ〜、色んな種類のお着物がありますね!」
店に入り、飾られている着物の品々を見て、アリアにしては珍しく興奮した声を漏らす。
「いらっしゃいませ。御試着もできますので、どうぞごゆっくりご覧ください」
奥ゆかしい雰囲気の着物姿の鬼人族が、丁寧にアリアたちを出迎える。
しっかりとした着物も素敵だが、まずは普段使い出来そうな浴衣を眺める。
(ほう、これなどご主人に似合いそうだな)
タマが店の中をてちてちと歩いていると、とある浴衣が目に留まった。
白と淡い色の青を基調とした涼しげな印象を与える浴衣だ。
せっかくなので、タマは「にゃ〜ん」と声を上げ、アリアを呼んでみる。
「どうしました、タマ? ――あ、とっても素敵なデザインですね!」
鳴き声に呼ばれて移動してきたアリア。
タマが前足で指す浴衣を見て、瞳を大きく開く。
どうやら彼女も、この浴衣のデザインが気に入ったようだ。
「タマ、もしかして、わたしのために浴衣を探してくれてたのですか?」
「にゃ〜ん!」
「ふふふっ、ありがとうございます。ではこれにしましょう♡」
タマの返事を聞き、アリアはうっとりとした表情を浮かべると、さっそく店員に試着をお願いする。
アリアの白磁の肌、プラチナの髪、そしてアイスブルーの瞳が、浴衣の涼しげな色合いと相まって、彼女の美しさを引き立てる。
「とってもお似合いです、お客様!」
試着を終えたアリアの姿を見て、鬼人族の店員が両手を合わせて興奮した声を上げる。
まさに、お世辞抜き、といった様子だ。
「にゃ〜(よく似合っているぞ、ご主人)!」
「ふふっ、タマも気に入ってくれたようですね♪」
タマの反応に、さらに嬉しそうな表情を浮かべるアリア。
その様子はまさに乙女といった感じだ。
「む! アリアだけずるいのだ!」
「タマ! 私のも選びなさいよ!」
「私のもお願いします〜!」
喜ぶアリアの姿を見て、ステラ、リリ、フェリもやってきた。
彼女たちにお願いされたのでは仕方ない。
いささか女性の服を選ぶのに自信はないが、タマは彼女たちの服も選んでやる。
ステラは白と赤を基調としたもの、リリは淡い桃色のもの、そしてフェリには淡い緑のものをチョイスしていく。
さすがは観光地、フェリの子どもサイズのものだけでなく、まさかのリリの小妖精族サイズの浴衣まで置いてあった。
「ぐふふふ、タマに選んでもらったのだ!」
「不思議な着心地だけど悪くないわね!」
「なんだか新鮮で楽しいです〜!」
タマに選んでもらった浴衣を着て、ステラたち三人娘はご満悦顔だ。
「にゅふふ、私はこれにするにゃん♪」
機嫌良さ気な様子で試着室から出てくるヴァルカン。
彼女は浴衣ではなく、甚兵衛をチョイスしていた。
そんなタイミングで、セドリックとアーナルドも選び終わったようだ。
セドリックはヴァルカンと同じく甚兵衛、アーナルドは白を基調とした浴衣を着ている。
予定通り、皆は浴衣を着て店を出ることにするのだった。