156話 異国の料理を堪能しましょう
宿で小休憩したあと、アリアたちは昼食を取るために大通りを歩いていた。
「ほんとに綺麗な都市ですね……」
「にゃ〜ん」
改めて景色を見渡し、思わず吐息を漏らすアリアと、それに可愛らしい声で鳴いて応えるタマ。
「たしかこの都市は、地球の日本という国にある〝京都〟って都市の文化を色濃く反映されているって聞いたことがあるね」
仲睦まじいアリアとタマを微笑ましく見つめながら、セドリックが言う。
(京都か……異世界にも色々な種類があるのだな。アークの景色とは大違いだ)
セドリックの説明を聞き、タマは魔王ベルフェゴール討伐のために向かった異世界、アークのことを思い出すのであった。
そんなこんなで、タマとアリアたちは繁華街へとやってきた。
どの店からもいい匂いが漂っている。
「ここなんかいいんじゃないかしらん?」
そう言って、アーナルドが一つの店を指差す。
なかなか趣があり、格式高そうな食事処だ。
店の看板には〝料亭アラシヤマ〟と書いてある。
「たしかに、ここなら期待出来そうですね」
「ぐふふふ……どんな美味いものが出てくるか、楽しみなのだ!」
趣のある店構えを見て、期待に胸を高ならせるアリアとステラ。
その後ろではリリとフェリもキャッキャッとはしゃいだ様子を見せている。
昼時から少しずれていたということもあり、アリアたちは個室に案内される。
外観と同じく、個室も和の趣を感じられる造りだ。
席は座敷となっており、アリアたちは初めての様式に戸惑いながらも、これも旅行の醍醐味の一つとしてすぐに楽しみだす。
皆で席に着くこと少し、着物姿の店員が注文を聞きにきた。
この国に来て初めての食事、できれば存分に楽しみたいと、アリアたちは店員におすすめの料理を持ってきてほしいと注文する。
「せっかくの旅行だからお酒も飲むにゃん♪」
「あ、いいですね、ヴァルカンさん」
ヴァルカンの提案に賛成の意を示すアリア。
そんなわけで、アリアを始めとした大人組は酒も注文する。
皆で談笑すること少し、料理が運ばれてきた。
この地域特産の牛ステーキや、これまたこの国の郷土料理である魚の煮付け、野菜の漬物の盛り合わせ、そして近海で漁れた生魚の刺身などなどだ。
「それじゃあ、楽しい旅行の幕開けに乾杯よん!」
「「「乾杯っ!!」」」
アーナルドの音頭で、グラスをぶつけ合うアリアたち。
アリアとヴァルカンは果実酒、セドリックとアーナルドはこの国名産の米酒、ステラとリリ、フェリは果実水で、タマはミルクを用意してもらった。
「あ、この果実酒、美味しいですね」
「ほんとにゃ! たしかザクロ酒って名前だったにゃ?」
「うん、米酒もアルコールが強いけど美味しいね」
「おつまみが進んじゃいそうだわん♪」
酒を飲んだアリア、ヴァルカン、セドリック、それにアーナルドがそんなやり取りを交わしている。
その横ではステラたちもザクロの果実水を飲み、満足げな表情を浮かべている。
「タマ、この国のミルクはどうですか?」
「にゃ〜ん(うむ、濃厚で美味いぞ、ご主人)!」
アリアの質問に満足げに鳴いて応えるタマ。
普段の飲むミルクよりも濃厚な味わいに彼もご満悦顔だ。
「で、では……さっそく食べてみましょうか……」
恐る恐る、といった様子で鯛という名の生魚の刺身に箸を運ぶアリア。
生の魚をそのまま食べるという経験が初めてなので、おっかなびっくりといった様子だ。
刺身をひと切れ、慣れない箸で掴み、店員に勧められた通りに醤油という調味料につけて、口に運ぶ。
「……ッ! これは、美味しいですね……」
刺身をゆっくり咀嚼し、大きく瞳を開く。
朝漁れたばかりの鯛の身は引き締まっており歯応えがいい、それでいて甘みもあり、それを醤油の味わい深い塩気がさらに引き立てる。
「んにゃ! 本当に美味しいにゃん!」
アリアに続き、ヴァルカンも刺身を堪能する。
セドリックとアーナルドも美味しそうに刺身を食べている。
「タマ、あ〜んです♡」
刺身にほんの少しだけ醤油をつけ、タマに刺身を差し出すアリア。
大きな口を開け、もっきゅもっきゅと刺身を堪能するタマ。
「ふふっ……どうやらタマも気に入ったようですね」
タマの様子を見て、アリアがうっとりした表情で話しかける。
ごくんっと刺身を飲み込むと、タマは「にゃ〜ん」と愛らしい声で応える。
その横ではステラがステーキにかぶり付き、「脂身が多くてジューシで美味いのだ!」と、幸せそうな表情を浮かべている。
リリとフェリは何やら野菜の漬物が気に入ったようだ。
二人して大根のたくあんと呼ばれる漬物を、ポリポリポリポリと食べている。
そんなこんなで、タマとアリアたちはこの国に来て初めての料理を大いに堪能し、楽しく食事の時を過ごすのであった。