151話 旅行に出かけましょう
ベルフェゴールとの戦いから一週間後の、とある日――
(ふむ、こういう日々も悪くはないな)
アリアの胸に抱かれながら、そんなことを思うタマ。
さすがにあの激戦の後なので、アリアたちはこの一週間、冒険者としての活動を休んでいた。
今は昼の買い出しのために、ステラとリリ、フェリを連れて商業区を歩いているところだ。
季節は初夏、爽やかな風が頬を撫で、リリとフェリは気持ちよさそうに目を細める。
ステラは露店で売られる食べ物をキョロキョロと興味深げに眺めている。
そんな時だった――
「なぁ、そういやもうすぐ〝リュウドウ〟で盛夏祭が開かれる時期じゃないか?」
「あぁ……もうそんな時期か。行きたいけど船代が高いからなぁ……」
――通り過ぎた露店の店主たちが、そんな会話をしているのが聞こえてきた。
「ねぇねぇ、アリア」
「セイカサイって何なのでしょう?」
初めて聞く単語に、首を傾げながら尋ねるリリとフェリ。
そんな二人に、アリアはこう答える。
「リリちゃん、フェリちゃん、盛夏祭とは、鬼人族の女王様が治める国――リュウドウで、一年に一度開かれる大きなお祭りのことです」
――と……。
「まつり……? なんなのだそれは、美味いのか?」
「ステラちゃん、お祭りとは、簡単に言うと踊って歌って、美味しいものを食べて、みんなで楽しむイベントのようなものです」
「美味いものが食べられるのか!」
「お祭り!」
「なんだか楽しそうです〜!」
ステラ、リリ、フェリが、瞳をキラキラさせながら、興味津々! といった様子で反応を示す。
「そうですね……ずっと戦い続きでしたし、たまには旅行もいいかもしれませんね。たしかリュウドウには船で、一週間くらいで着いたはずですし……」
ワクワクした表情のドラゴン娘と妖精娘たちに、アリアはそんなことを考える。
(ふむ、リュウドウか……。我が輩も行ったことはないな)
アリアの胸の中で、尻尾をゆっくり揺らしながら、タマも興味を抱く。
リュウドウは鬼人族と呼ばれる種族が主に暮らす島国だ。
大昔に、地球と呼ばれる異世界からやってきた種族たちが起源とされており、その血筋や文化などが色濃く残っていると、アリアは聞いたことがある。
盛夏祭も、もともとは異世界――地球で行われていた大きな祭りが起源だとされている。
リュウドウはかつて、地球の特殊な技術の数々を持った国であったが、今はそれらのほとんどがロストテクノロジーとなっており、数百年前に王都も別の場所に移遷している。
「ふふっ、タマもお祭りに興味があるみたいですね?」
興味を抱いたタマの様子に気づいたのか、彼の頭を優しく撫でながら、微笑みを浮かべるアリア。
そうと決まれば、アリアたちはリュウドウへ旅行に出かけるための準備を始める。
◆
一時間後、武具店ヴァルカンズにて――
「んにゃあ! 旅行なんて素敵だにゃ! 私もご一緒していいにゃん?」
旅行へ誘いにきたアリアたちに、嬉しそうな声で応えるヴァルカン。
旅行に出かけるとなると、また少しの間店を閉めなければならないので、断られるかもしれないとアリアは思っていたが、その辺は既に開き直ってしまっているのか、ヴァルカンは乗り気のようである。
「それでは、ヴァルカンさんの分も船のチケットを用意しますね! 出発はいつにしましょう?」
「アリアちゃん、それなら来週がいいにゃん! そうすれば予約をもらってる鍛冶仕事が終わるにゃん!」
ヴァルカンの返事を聞き、いくつかのやり取りを終えると、アリアたちは船のチケットを確保する……前に、ギルドにさらに少しの間、冒険者業を休む旨を伝えに行く。
別にフリーの冒険者なので報告する義務はないのだが、真面目なアリアとしては受付嬢のアーナルドに伝えておきたいのだ。
◆
ギルドにて――
「あらん、リュウドウの盛夏祭に出かけるなんて素敵じゃない! 私も行きたいわ〜ん♪」
アリアの報告を聞き、可愛らしい笑顔()を浮かべるアーナルド。
タマは(いつ見ても凄まじいビジュアルだ……)などと、感想を抱くのだが、決して彼女(?)を嫌ってはいない。
アーナルドはこの都市における、アリアの姉のような存在であり、その人格も素晴らしい人物であるからだ。
「ふふっ……アナさんも一緒にどうですか?」
「まぁ! アリアちゃんたちと一緒に旅行に出かけられるなんて素敵ね! 少しセドリックちゃんと相談してみようかしら……?」
冗談めかしたアリアの誘いに、割とガッツリ食いついてきたアーナルド。
仲の良いアリアたち、そして恋人のセドリックとの旅を想像して、ときめいてしまったのだろう。
前回、セドリックは事情が事情だったので、アーナルドに何も言わずにベルフェゴール討伐の旅に出てしまったので、余計に彼と一緒に過ごしたいという気持ちもわからないでもない。
「では、セドリック様が休みを取れるか確認して頂いて、それがO Kであれば明日にでも船のチケットを買いに行きましょう!」
「うふふん♪ 一緒に旅行できると嬉しいわん♪」
アリアはそんなやり取りをアーナルドと交わすと、ギルドを後にする。
そして翌日、アーナルドからO Kの返事が来た。
どうやらセドリックの方も、休みを確保するのに成功したようだ。
来週頭に出航する船のチケットも、人数分確保することができ、これで完全にリュウドウへ旅行することが決まった。
「お祭り!」
「楽しみです〜!」
「美味いものをいっぱい食べるのだ!」
リリ、フェリ、ステラは今から大はしゃぎだ。
「タマ、たくさん楽しみましょうね♡」
「にゃ〜ん!」
アリアの胸に抱かれながら、タマも可愛らしい鳴き声で返事をする。