144話 精霊の巫女
「試練の祠は、この里から北東に進むとあります。そこまで私が案内します」
「それでは、私たちは平原でベルフェゴールとエレボル族を迎え撃つ準備を始めましょう」
アリアとタマが覚悟を決めると、シエルとミナが今後についてやり取りを交わし始める。
どうやらミナは、アリアたちが契約に失敗、もしくは戻ってくるのが遅れたとしても、ホロの民を率いてベルフェゴール軍と戦う覚悟を決めたようだ。
「アリアちゃん、タマちゃん、気をつけるにゃよ?」
「我はお前たちが力を手に入れて戻っていることを信じているのだ!」
ヴァルカンとステラが、アリアとタマに声をかける。
「アリアとタマならきっと大丈夫ね!」
「もっと強くなって、帰ってくることを祈ってます〜!」
リリとフェリも、アリアたちに激励の言葉を送る。
「アリアお姉ちゃん、タマちゃん、頑張ってなの!」
「精霊の試練……想像もつかないけど、二人なら乗り越えられる……そんな気がするよ」
マイとセドリックも、信頼の眼差しでアリアとタマに言う。
「さぁ、いきましょう」
「はい!」
「にゃん!」
シエルのかけ声に、アリアとタマは元気よく返事をすると、プテラに乗って試練の祠を目指す――
◆
プテラを飛ばすこと少し――
「あそこが試練の祠です」
小さな洞窟を指差すシエル。
そのままプテラを降下させ、アリアたちとともに着地する。
「試練を受けられるのは精霊との契約を望む者のみです。私はここで引き返し、ベルフェゴール軍との戦闘に備えます」
「わかりました。必ず精霊と契約し、里に戻ってきます!」
「にゃん!」
シエルの言葉にそう答えると、アリアとタマは洞窟の中に入ってゆく。
二人を見送ったところで、シエルは里へと飛び立つ。
◆
「……くっ!? なんて温度でしょうか……ッ」
試練の祠に入って少し、アリアが思わず声を漏らす。
中はマグマの川が流れており、灼熱地獄と化していた。
「にゃん(《獅子王ノ加護》)ッ!」
このままではマズい!
そう判断したタマは、固有スキルを発動し、炎熱耐性をアリアと自分に与える。
「ありがとうございます、タマ!」
「にゃあ!」
気にするな! とでも言いたげな表情で、アリアの言葉に応えるタマ。
そんな時だった――
【……そのスキル、迷路の試練は意味を為さないわ、ね……】
――そんな声が響き渡った。
「「……ッ!?」」
空間に響き渡る声に、咄嗟に身構えるアリアとタマ。
すると周囲の景色が歪み始めたではないか。
景色は、ただの洞窟へと変化した。
そして、アリアとタマの視線の先には、一人の少女が立っていた。
桜色の長髪と瞳、白の肌、そして白と赤を基調とした巫女服のようなものを着た少女だ。
「……ッ!」
少女の姿を見た途端、アリアは息を漏らす。
(この乙女、只者ではない……ッ!)
タマは心の中で、それを察する。
目の前の少女――
その体の内から、アリアとタマは膨大なエネルギーを感じ取ったのだ。
「あなたはいったい……」
警戒心を高めながら、アリアが少女に問いかける。
【……私は〝巫女〟……。六大精霊を鎮める役割を果たす、者……】
静かに、少し辿々しい言葉で答える少女……。
その桜色の瞳はどこまでも澄んでおり、何を考えているのか見当もつかない。
「わたしの名前はアリア、この子の名前はタマといいます。精霊と契約するために、この祠へとやってきました」
真面目なアリアは、こんな時でも律儀に自己紹介する。
そんなアリアに、巫女と名乗った少女は【……知ってる】と、短く答えた。
「えっと……」
意外な答え、そしてどうしていいかわからず、戸惑うアリア。
そんなアリアに、巫女は静かに語り出す。
【……本当は、火・水・風・土・光の迷路を、あなたちに、は、乗り越えてもらうはず、だった……。でも、その猫ちゃんのスキルはそれらを無効に、する。だから……最初から、私と戦ってもらうこと、に、する……】
そんな言葉とともに、両腕を左右に広げる少女、巫女――
すると彼女の体の隣の空間が歪み、何やら形を成そうとする。
歪みが収まると、もう一人、全く見た目が同じ少女が現れたではないか。
【アリア、タマ……あなたたち、には、一対一で私と戦ってもら、う……】
【……それが、精霊と契約する、第一の条、件……】
静かに言葉を紡ぐ、二人の巫女。
その言葉を聞き、アリアとタマは静かに見つめ合い、ともに頷いてみせる。
【……良い、覚悟】
【……それじゃあ、戦いの、儀を始め、る……】
そんな言葉とともに、巫女の体が淡い光を放ち始めた。
光はその輝きを増し、アリアたちを飲み込んでゆく――
「……ここは――」
光が止んだところで、アリアが静かに声を漏らす。
辺りを見渡せば、何もない空間がどこまでも広がっている。
そして、アリアの直線上に、巫女が一人佇んでいる。
【……さぁ、戦いの儀を、始め、る……】
そう言って、巫女は右手を天に突き上げる。
その手の中に、光り輝く美しい剣が現れた。
「では、いきます……《アクセラレーション》――ッ!」
スキルの名を叫び、アリアは飛び出した。