１３５話 アークの迷宮
迷宮一層目――
『グルル……ッ！』
唸り声を上げ、数体のラプトルが襲いかかってくる。
「《アクセラレーション》――ッ！」
スキルを発動し、アリアが飛び出した。
軽い身のこなしと華麗なナイフ捌きで、通り過ぎ様にラプトルたちの喉笛や腱を切り裂いてみせる。
「さすがですね、アリア」
攻撃スキルやテンペストブリンガーの性能を使わずに、ラプトルを倒したことに、シエルが称賛の言葉を送る。
「勇者様に褒められるなんて、何だか照れてしまいますね……」
少し頬を染めながら、頬をポリポリとかくアリア。
やはりというべきか。
シエルが以前にここへきた時より、モンスターの量が増えているらしく、一層目でもかなりの数の敵と遭遇した。
皆で協力し、迷宮の中を進むこと少し――
迷宮二層目の入り口に差し掛かる。
そして足を踏み入れたところで『グォォォォォォン――ッッ！』という咆哮が響き渡る。
「……〝サイバテックR E X〟が二体ですか。皆、気をつけてください。この世界のAランクモンスターです」
皆に警戒を促すシエル。
その視線の先では二体のモンスターが唸り声を上げ、こちらを見つめていた。
姿形はノールやフレイヤたちT―R E Xに似ているが、その体は二回り以上大きく、体全体が金属の鎧のようなもので覆われている。
「面白いのだ！ 我が相手になるのだ！」
「それなら私もいくにゃん！」
ワクワクした様子で歩き出すステラ。
そしてそのあとを、ミョルニルで自分の肩を叩きながら、ヴァルカンがついてゆく。
『『グォォ……ッ』』
唸り声を揃え、二体のサイバテックR E Xが駆け出した。
見た目通りとんでもない重量を有しているようで、二体が駆けるだけで地面から振動が伝わってくる。
「まずはこれなのだ！」
体をドラゴニュート化させ、チャージアタックを仕掛けるステラ。
一体のサイバテックR E Xと、ステラのカラドボルグが激突する。
『グォッッ！？』
驚愕！ といった様子で喉から声を漏らすサイバテックR E X。
まさか巨体を誇る自分の体当たりが、人間の小娘に止められるとは予想していなかったのだ。
そして一方では――
「んにゃ〜！ 喰らうにゃんッッ！」
――裂帛の声を出し、跳躍するヴァルカン。
もう片方のサイバテックR E Xの脳天に、ミョルニルを叩き落とそうとする。
『グォッ！』
唸り声を上げるサイバテックR E X。
瞬時に体勢を変えると、その場で半回転しテールアタックでヴァルカンの攻撃を迎え撃つ。
ガキン――ッッ！
と、鈍い音が鳴り響く。
次の瞬間に『グオッ！？』と、驚愕の声を上げるサイバテックR E X。
自分の放ったテールアタックが、ヴァルカンの一撃に弾かれ、体勢を崩したからだ。
『グォ……ッ』
静かに唸り声を漏らし、バックステップで後退する二体のサイバテックR E X。
このまま逃げる……のかと思いきや、その瞳は鋭く細められ、ステラとヴァルカンを睨み付けている。
どうやら後退する気はないようだ。
ステラとヴァルカンが再び攻撃を仕掛けようと、武器を構え駆け出そうとした瞬間だった――
「何なのだ？」
「鎧部分が光っているにゃん！」
――二人は気づく。二体のサイバテックR E Xの鎧が淡い光を放ち始めたことに。
「気をつけてください、プラズマブレスが来ます！」
声を張り上げるシエル。
よく見れば、鎧だけでなく二体の巨大な顎門の中にも淡い光が灯っていく。
どうやらこのサイバテックR E Xは、ブレス攻撃が可能らしい。
「させません！ 《ブランチュウィップ》〜！」
ステラとヴァルカンの後方から、可愛らしい声が響く。
フェリがスキルを発動したのだ。
二体のサイバテックR E Xの足元から、木の鞭が伸びる。
そして二体の口周りに絡みつき、その顎門を閉じてしまう。
『『ッッ――――！？』』
パニックに陥る二体のサイバテックR E X。
今まさにブレス攻撃を放とうというのに、口を閉じられてしまってはたまったものではない。
そして、その隙をもう一人の妖精は見逃さなかった。
「いきなさい！ 《フェアリーバレット》！」
可愛らしい声で叫ぶリリ。
彼女の目の前の空間から、四発の光弾が飛び出した。
パニックに陥った二体の敵は、その攻撃に気づかない。
そして二体の両眼を、《フェアリーバレット》が見事に貫いた。
『『グオォォォォオオ――ッッ！？』』
突然眼を襲った激痛。そして視覚を奪われたことで、二体のサイバテックR E Xはとうとう甲高い悲鳴を上げ、その場でジタバタと暴れ出し、地響きを鳴らす。
「よくやったのだ！ リリ、フェリ！」
「ナイスサポートにゃん！」
駆け出すステラとヴァルカン。
ステラはクラウソラスで敵の首を真っ二つに叩き切り。
ヴァルカンはミョルニルで頭蓋を叩き割る。
（ほう……リリもフェリも、ずいぶんと成長したものだ！）
誰かに指示されることなく繰り出された、二人の的確なサポート攻撃を見て、タマも内心で称賛の言葉を送るのだった。
少し前まで、森林の迷宮で静かに暮らしていた二人が、よくぞここまで成長したものである。
