132話 恐竜型モンスターをテイム
歩くこと数十分――
「すごいですね、そこら中に巨大なモンスターが闊歩しています……」
アリアが感嘆の声を漏らす。
ここまでの道のりで、先程の首長竜と似たようなモンスターが何体も確認できた。
そしてそのどれもが、シエルの言う通り襲ってくることはなかった。
ちなみに、シエルの持つ馬車は道が悪すぎるので使うことができない。
とここで、シエルの表情が真剣なものに変わる。
「皆、気をつけてください。肉食恐竜モンスターを発見しました」
そう言って、右手の中に《セルシウスブレイド》を呼び出すシエル。
彼女の視線の先……遠くの方に、シエルが従えていたT―R E Xの、ノールとフレイヤと似た姿を持つモンスターの影が確認できる。
「肉食ってことは……」
「襲ってくるってことなのだ?」
首を傾げるヴァルカンとステラ。
そんな二人に、シエルは「ええ、その通りです」と短く答えると歩き出す。
モンスターもこちらの存在に気づいていたようだ。
まっすぐアリアたちに向け、猛スピードで近づいてくる。
「〝アクロカント〟ですか。皆、ここは任せてください」
そう言って、外套を脱ぎ捨てバニーガールの姿になると、シエルも一気に駆け出した。
『グルァァァァァァァ――ッ!』
雄叫びを上げるモンスター……アクロカント。
巨大な顎門を開き、シエルに襲いかかる。
「恐竜型モンスターとの戦い、懐かしいですね」
珍しく微笑を浮かべながら、攻撃をサイドステップで躱すシエル。
するとアクロカントは体勢を変え、尻尾による攻撃を繰り出してきた。
しかし、そんな攻撃を喰らう女勇者ではない。
今度は軽やかにバックステップすると、その攻撃すら躱してみせる。
そして攻撃が空振った一瞬の隙を突き、アクロカントの頭上に一気に跳躍。
その脳天に《セルシウスブレイド》の腹を叩きつける。
『グ、ル……ッ!』
苦悶の声を漏らし、その場に崩れ落ちるアクロカント。
そんなアクロカントに、シエルが胸の谷間から取り出したポーションを頭からかけた。
いったい何を……!? といった様子で、驚愕するアリアたち。
ポーションで回復して立ち上がるアクロカント。
すると、シエルの前で屈んだ状態になり、自分の頭を彼女に差し出した。
その姿は、まるでペットが主人に恭順するかのように皆の目に映った。
「テイム成功ですね。お前の名前は今日から〝ナツ〟です」
そう言って頭を撫でるシエル。
するとアクロカント――否、ナツは『グルッ!』と元気に鳴いてみせた。
(ほう……モンスターを手懐けてしまったのか。さすがは異世界だ)
目の前の光景を見て、アークは人間とモンスターが共存する世界だとシエルが言っていたことを、タマは思い出す。
「いや〜すごいね」
「モンスターをテイムするなんて信じられないの!」
セドリックは興味深げに、マイは興奮した様子で声を上げる。
アリアやステラたちも同様だ。
「出てきなさい。ノール、フレイア」
シエルは腰に装備したアークボールを手に取り、二体のT―R E Xを召喚する。
突然の行動に、首を傾げるアリアたち。
そんな彼女たちにシエルが「ここからはこの子たちの背中に乗って移動しましょう」と言う。
なるほど。恐竜型モンスターが三体いれば、全員その背中に乗って移動できるというわけだ。
シエルの指示に従って、それぞれ恐竜モンスターの背中に乗るアリアたち。
決していい乗り心地とは言えないが、歩くスピードを考えればこちらの方が断然いいだろう。
「それでは行きましょう」
シエルの掛け声で、走り出す恐竜モンスターたち。
アリアやヴァルカンは強張った表情を浮かべるが、ステラや妖精二人、それにマイは楽しげだ。
◆
数十分後――
「皆、着きましたよ。ここが〝イブラ村〟です」
ナツの上から地面へと降りるシエル。
その先には小さな村が広がっていた。
村の中には人の他に小型の恐竜モンスターがいくつか確認できる。
中には恐竜モンスターと一緒に駆けっこする子どもの姿も……。
アリアたちの想像以上に、深く共存しているようだ。
ノールとフレイヤの上から降りるアリアたち。
そんなタイミングで、一人の人物が声をかけてきた。
「え……? うそ、シエル様ですか!?」
「あなたは……もしかしてハナですか?」
思い出すように問いかけるシエル。
すると、声をかけてきた女性が「そうです! ハナです! 覚えててくれたんですね!」と興奮した声を上げる。
どうやら以前にこの世界に転移した時の知り合いのようだ。
「でも、どうしたのですか? シエル様は元の世界に帰られたんじゃ……」
「それに関して、かなり複雑な事情があります。村長のもとに案内してもらえますか?」
シエルの言葉に、ハナは何かを察したようだ。
真剣な表情になり一言「わかりました」と言うと、村に向かって歩き出した。
「まずは村長に、皆を連れ再びこの世界に転移してきた事情を説明し、ベルフェゴールに関する情報を得ようと思います」
アリアたちにそう説明すると、ハナのあとを歩き出すシエル。
それに従い、皆も村の中へと足を踏み入れるのだった。