131話 異世界へ
「どうやら、何かよくないことが起きたようだね……?」
上の階層から降りてきたセドリックが、アリアたちの表情を見てそれを察したようだ。
その後ろに、ヴァルカンたちも続いて降りてくる。
「セドリック、問題が起きました。未来からやってきたベルフェゴールの討伐には成功したのですが、この時代のベルフェゴールが復活し、異世界アークへと転移してしまったのです。私はそれを追います」
セドリックにそう言うと、ゲートに向かって歩き出すシエル。
そんな彼女にアリアが待ったをかける。
「シエル様、わたしも行きます!」
「グルッ(もちろん我が輩もいくぞ)……!」
それはタマも同様だ。
「アリア、タマちゃん……。このゲートは普通の人間や動物には超えることはできません。特殊な力を秘めてないと、体が壊れてしまいます」
気持ちは嬉しいが、ここで待っていると言うシエル。
しかし、アリアはとある方法を思いつく。
「タマ、バフスキルをかけてください!」
(……! そういうことか! よし、《獅子王ノ加護》発動!)
アリアの考えを理解したタマは、それを発動する。
その場にいる全員が、黄金色のオーラに包まれる。
第三形態に進化したタマの加護の力は、進化前とは比較にならないほど絶大だ。
タマの加護を受け、シエルが「これは……!?」と、驚愕に目を見開く。
「なるほど、これだけのバフ効果が……」
自分の体から湧き上がる力を感じ、静かに言葉を漏らす。
そして――
「わかりました、一緒にアークへと行きましょう。何としてもベルフェゴールを討伐します」
――そう言って、アリアの瞳を見つめる。
「ちょっと待ってにゃん!」
「そうなのだ! 我も一緒に行くのだ!」
「留守番なんて退屈だもの!」
「異世界に行くなんてワクワクします〜!」
ヴァルカンにステラ、それにリリとフェリも行く気満々のようだ。
「もちろんマイも行くの! 今回の件が解決するまで、みんなと一緒に頑張るの!」
元気な声で錫杖をブンブンと振り回すマイ。
「まったく、可愛い姪っ子を放っておくわけにはいかないからね、僕も行くよ」
やれやれといった様子で、マイの頭にポンっと手を置くセドリック。
ここ数日間で、完全に父性に目覚めてしまったようだ。
そんなセドリックに、マイが「ありがとうなの、伯父さま! 嬉しいの!」と言って、彼の腕に抱きつく。
「……結局全員ですか。しかし、感謝します。ともにベルフェゴールを倒しましょう」
皆を見渡すシエル。
そんな彼女に、アリアたちは大きく頷く。
「さぁ、行きましょう」
そう言って、バチバチと紫電が飛び散るゲートの中に、シエルが飛び込んだ。
それに続き、アリアたちも一斉に飛び込んでいく。
「くっ……これはなかなかキツいですね……ッ」
苦悶の声を漏らすアリア。
ヴァルカンたちも同様だ。
ゲートに入ると視界は真っ暗に染まり、三半規管が大きく揺さぶられるような感覚に陥る。
「うえぇ〜」
「気持ち悪いです〜」
リリもフェリも、初めての感覚に思わず声を漏らす。
次の瞬間だった。
皆の体に、突如急落下するような感覚が襲う。
そして――
「にゃあ? ここは……」
「草原なのだ……」
呆然と声を漏らすヴァルカンとステラ。
シエル以外の皆も同様だ。
「アレは……!」
そんな中、後ろを振り返ったアリアが思わず声を漏らす。
そしてその視界の先には、巨大な体と長い首を持つ生物が映し出されていた。
「アレは首長竜という種類に分類される、恐竜型のモンスターです」
アリアの肩に手を添え、シエルが言う。
そして皆に向かって、さらに言葉を紡ぐ。
「どうやら無事に転移は成功したようですね。ようこそ、ここが異世界――アークです」
――と……。
「異世界……まさか本当に来ることになるとはね」
そんな言葉とともに苦笑するセドリック。
英雄である彼を以ってしても、やはり目の前に広がる光景は異質なものなのだろう。
「シエル様、早くここを移動した方がいいのではないですか?」
「そうにゃね、あのモンスターが襲ってこないとも限らないし……」
遠くにいる首長竜モンスターを見ながら、シエルに問いかけるアリアとヴァルカン。
そんな二人に、シエルは大丈夫だと答える。
「この辺にいるモンスターはほとんどが草食ですから、人を襲わないのです」
(人を襲わないモンスターか……。何とも不思議な世界だ)
転移中に元の姿に戻ったタマが、アリアに抱っこされながらそんなことを思う。
「ん〜ダメなの! ベルフェゴールの反応が感知できないの!」
コンパス型の魔道具を見ながら、残念そうな表情を浮かべるマイ。
どうやら、既にベルフェゴールは他の場所へと移動してしまったようだ。
「ひとまず移動しましょう。私の知り合いがいる村があるので、まずはそこで情報収集をするのがいいかと」
「そうだね、ここはこの世界に詳しいシエルさんに従うとしよう」
シエルの言葉に頷くセドリック。
シエルに従い、歩き出す一行。
アリアとタマ、ヴァルカンは真剣な表情で。
ステラとリリ、フェリはどこかワクワクした表情で。
マイはセドリックの手を握り、セドリックはどこか優しげな表情で、村を目指す。
こうして、ベルフェゴールを討伐するための、異世界での新たな旅が幕を開けるのだった――