130話 新たな戦いの予感
『来なさぁい……《イービルレギオン》ッ!』
禍々しい剣を天に掲げ、その名を口にするベルフェゴール。
するとベルフェゴールの前に、魔法陣のようなものが無数に浮かび上がる。
そしてその中から紫の光を放つ、リビングアーマーやアーマードウルフなどのモンスターが大量に現れた。
『グ、ゥ……ッ』
苦しげな声を漏らすベルフェゴール。
その瞳の端から血が流れ出る。
この状況を見るに、ベルフェゴールの手にした禍々しい剣は、彼女の生命力を使いモンスターの軍勢を生み出す効果があるようだ。
『ウフフフゥ……イキなさぁいッ!』
ベルフェゴールがモンスターの軍勢に向かって叫ぶ。
この世のものとは思えないような金切り声を上げ、一斉にモンスターたちが襲いかかってくる。
「にゃん《フレイムハウリング》ッ!」
モンスターの軍勢に向け、タマが炎の咆哮を放つ。
押し寄せるモンスターどもの戦闘部隊が、一気に炎に包まれる。
しかし――
『アハハハハァ――! 無駄よぉ!?』
――高笑いするベルフェゴール。
すると魔法陣の中から、さらにモンスターどもが這い出てきた。
「《八艘飛び》――ッッ!」
そう叫び、シエルが飛び出した。
とんでもないスピードでモンスターたちの隙間を縫って跳躍。
あっという間にベルフェゴールの懐まで接近してみせる。
単純な直線距離なら、アリアの《アクセラレーション》の方がスピードは上かもしれないが、跳躍を織り交ぜた今の動きなら、シエルが今使った移動スキル《八艘飛び》の方が上かもしれない。
シエルが言っていた、スピード重視の戦闘をするためにバニーガールの格好をしているという言葉……どうやらあれは本当だったようだ。
シエルが《セルシウスブレイド》を振り上げる。
だが咄嗟に、ベルフェゴールは《イービルスルト》を発動。
シエルに無数の魔剣が襲いかかる。
「《セルシウスプロテクション》――!」
シエルは氷の盾を展開し、攻撃を防ぎ着地すると、再び《八艘飛び》を使って後退する。
「くっ……モンスターの軍勢と魔剣による攻撃、厄介ですね……」
移動スキルを使った攻撃を仕掛けても失敗に終わった。
その事実に悔しげな表情を浮かべるシエル。
「タマ! 奥の手を使いましょう!」
「にゃん(了解だ、ご主人)!」
モンスターの軍勢に《属性咆哮》を放ち、足止めをするタマに、アリアが声をかける。
タマは最後にもう一発《属性咆哮》を放つ。
敵の先頭部分を焼き払ったところで、精神を統一……そして――
(いくぞ……ッ!)
――その力を解放する。
白銀の光に包まれるタマ。
光は輝きと大きさを増し、形を成す。
弩轟――――ッッッッ!
大気を震わせる咆哮が響き渡る。
光の中から、雄々しくも美しい純白の獅子が現れた。
ベヒーモス第三形態に進化したタマだ。
『聖、獣…………!?』
目を見開くベルフェゴール。
驚くのも当然だ。
今のタマの姿は、かつて初代勇者とともに魔神を封印した聖獣そのものなのだから。
「グルッ(一気に焼き払う)!」
唸り声を漏らすタマ。
そしてその巨大な顎門を開け、神聖属性を帯びた《フレイムハウリング》を放った。
一瞬のうちに焼き払われるモンスターたち。
タマの攻撃の勢いは凄まじく、ベルフェゴールが生み出した魔法陣ごと焼き尽くしてゆく。
『クゥゥ……ッ!? よくも……よくもッッ!』
命を削ってまで発動したスキルを破壊されたことで、血涙を流しながら呪詛を吐くベルフェゴール。
そんなベルフェゴールを、ギンッ! と鋭い瞳で睨みつけるタマ。
するとベルフェゴールが『クッ……!?』と、一瞬だけ怯んだ様子を見せる。
だが――
『いいわぁ……最後の手を使わせてもらうからぁ……』
――冷静な表情に戻り、そんな言葉を紡ぐベルフェゴール……。
その手の中で、禍々しい剣が紫の光を放つ。
そして、ベルフェゴールの竜の顎門の中に同じ色の光が灯っていく。
「……ッ! ブレス攻撃が来ます! 全力で迎え撃ってください!」
敵の攻撃を予知したシエルが、皆に叫ぶ。
ベルフェゴールの顎門からは膨大なエネルギーを感じる。
防御スキルを使ったところで、防ぎようがないだろう。
ならば、こちらも全力のエネルギー攻撃で対抗するしかない。
『喰らいなさぁい! 《イービルバースト》……ッッ!』
ベルフェゴールが竜の顎門から禍々しく光るブレス攻撃を放つ。
――《フレイムハウリング》ッッ!
「エクス……キャリバァァァァァァァ――ッ!」
タマが神聖属性を帯びた《属性咆哮》を、アリアが奥の手である聖なる剣を放つ。
「お父さま、お母さま、力を借りるの! 《ケイオスカリバーン》ッッ!」
マイが錫杖を前に構え、目の前の空間から神聖属性と闇属性を高圧縮した、エネルギー攻撃を放つ。
「私も奥の手を使います! 開け異界の門……《セルシウスバスター》――ッッ!」
最後に、シエルが頭上に〝ゲート〟を開き、神聖属性と氷属性を秘めたエネルギー攻撃を放った。
激突するベルフェゴールと、アリアたちの攻撃――
威力は互角。
攻撃は拮抗し、あとはエネルギーが切れた方が敗北する――そう思われたが……
――《属性操作砲》、発動ッッ!
タマが《フレイムハウリング》を発動しつつ、さらに四つの《属性操作砲》を発動。
並列操作し、ベルフェゴールに向けてそれぞれのビットから属性攻撃を放った。
『ガギャァァァァァァァ――ッッッッ!?』
予期せぬ攻撃に襲われ、悲鳴を漏らすベルフェゴール。
思わずブレス攻撃をやめてしまい、皆の攻撃に飲み込まれていく――
「やり……ましたね……」
「ええ、お疲れ様です」
アリアが漏らした言葉に、静かに頷いて応えるシエル。
タマも「グルっ……」と、鳴いて、安堵した表情を見せる。
マイも「疲れたの〜!」と、声を上げ、その場に寝そべってしまう。
未来からやってきたベルフェゴールは、タマたちの攻撃によって跡形もなく消えた。
これで一件落着……誰もがそう思った時だった――
『ウフフゥ……』
――そんな声が響き渡る。
声のした方向を一斉に見るアリアたち。
するとこの時代のベルフェゴールが封印された水晶が、音を立てて砕け散ったではないか。
『ウフフ……未来のワタシのおかげで外に出られたわぁ……』
水晶の中から、封印されていたベルフェゴールが出てきた。
そして――
『さようならぁ……ウフフゥ……』
――そんな言葉を残すと、その場から浮き上がる。
「《黒ノ魔槍》ッッ!」
咄嗟に闇魔法スキルを放つマイ。
しかしベルフェゴールはそれを躱すと、シエルが攻撃を放つ際に開いたゲートの中に消えていってしまったではないか。
「そんな!? く……っ、迂闊でしたッ!」
青ざめた顔で、シエルがゲートを睨みつける。
「現代のベルフェゴールが復活してしまいました……。それに、あの先に何が……」
茫然とした様子で、シエルと同じくゲートを見つめるアリア。
そんなアリアに、シエルは言う――
「あのゲートは異界へと通じています。ベルフェゴールは……異界、アークへと転移したのです……ッ!」