127話 V Sギュドラ
『シュルルル……ッ!』
唸り声を上げながら、セドリックに急接近するギュドラ。
三つの首のうち、中央の顎門から炎のブレスが吐き出された。
「まったく、さすがはSランクモンスターだね」
広範囲を焼き尽くすブレス攻撃を、セドリックは大きくサイドステップすることで躱してみせる。
だが、ギュドラの攻撃は終わらない。
三つの首のうち、今度は左の顎門から氷のブレスを吐き出し、セドリックの着地点を狙う。
「ならばこうだ!」
セドリックは長剣を振り上げると、義弟である大魔導士舞夜に施された闇の力を解放――白銀の剣身が漆黒色に染まる。
迫りくる氷のブレスに向かって、漆黒に染まった長剣を振り抜くセドリック。
するとどうだろうか。
剣身と衝突した氷のブレスが、みるみるうちに霧散していくではないか。
『シャァァァァ……ッッ!?』
三つ首を揃えて、驚愕の声を上げるギュドラ。
たった一人の人間ごときに、Sランクモンスターたる自分の攻撃が防がれた……。
その事実が信じられないといった様子だ。
闇属性の特性は〝奪う〟だ。
セドリックの長剣に付与された闇魔力は、触れた相手の生命力を奪う能力以外に、相手のエネルギー攻撃を奪う能力を秘めている。
「さぁ、次は僕の番かな?」
涼しげな表情で言うセドリック。
そして再び、長剣を振り抜いた。
(何かわからないが、このままではマズい……ッ!)
そう判断したギュドラは、咄嗟に中央の顎門から炎のブレスを吐き出した。
そしてその判断は正解だった。
セドリックが振り抜いた長剣――その剣身から、氷のエネルギーが奔流となった発射されたからだ。
炎のブレスと氷の奔流――
二つのエネルギーがぶつかり合ったことで、小規模な爆発が起きる。
爆風で奥まで吹き飛ばされるギュドラ。
対し、セドリックは予めバックステップすることで、爆風を活かし綺麗に着地してみせる。
「やっぱり闇の魔力は素晴らしいね」
長剣を軽く構え、涼しげな表情で言うセドリック。
そう、今の攻撃も闇魔力によるものだった。
闇魔力の特性を使い、ギュドラによる氷のブレスを奪い、そのまま剣身に吸収して放ったのだ。
闇魔力の性能が絶大であることと、セドリックの卓越した身のこなしと剣の実力、そして敵の攻撃に臆することなく立ち向かう胆力があって、初めて実現できる戦闘スタイルである。
『シュルルル……ッ!』
唸り声を漏らし、六つの眼でセドリックを見つめるギュドラ……。
一撃必殺の威力を誇る攻撃、ソレが二回とも防がれたことで攻めあぐねいている様子だ。
「そっちが動かないなら、こっちからいくとしよう」
長剣をクルクルと回しながら、ギュドラに向かって歩き始めるセドリック。
先ほど攻撃を吸収されたせいか、ギュドラはブレス攻撃を仕掛けてこない。
近づいてきたセドリックを噛みちぎろうと、顎門を大きく開けて牙を剥く。
「いくらSランクといえど、やっぱりモンスターだね」
呆れたような口調で言うとセドリックは、牙による攻撃を、ステップを織り交ぜた前進移動で回避してみせる。
そしてすれ違い様に、今躱したギュドラの首に闇魔力を宿した刃を突き立てる。
『ギュルアァァァァァァ――ッッッッ!?』
凄まじい悲鳴の声を上げるギュドラ。
激痛の他に、生命力を直接奪われる言いようのない感覚に、恐怖を覚えてしまったようだ。
このまま次の攻撃を……。
セドリックが剣を引き抜き、更なる斬撃を放とうとしたその瞬間だった――
『ギュルルルルルァァァァァァァ――ッ!』
雄叫びを上げ、三つ首のうちの最後の一つ、右の顎門からブレスを放つギュドラ。
セドリックはソレを大きくサイドステップすることで回避する。
するとどうだろうか。
セドリックが先ほどまで立っていた場所が、パキパキ……ッと音を立て、石化していくではないか。
「よし、これで君が持つ属性を全て知ることができたよ」
『ギュル……ッ!?』
セドリックの言葉に、またもや驚愕の声を漏らすギュドラ。
奥の手を見せたことで、相手は警戒を強め、攻撃の手を潜めるとギュドラは思っていた。
しかし、そんな予想とは裏腹に、セドリックはしてやったりといった表情を浮かべている。
ギュドラは、個体ごとに操る属性が違うことで知られている。
なので、迂闊に手出しができないと、Sランクモンスターの中でも厄介とされている存在だ。
だからこそ、セドリックは待っていたのだ。
目の前のギュドラが、全ての属性を晒し尽くすその瞬間を……。
「操る属性が全部わかれば、さっきまでみたいに様子見しながら戦う必要はないからね」
そう言って、言葉通り……先ほどまでとは比べ物にならないほど真っ直ぐな足取りで駆けるセドリック。
闇魔力を宿した長剣を横薙ぎに払い、斬撃を放つ。
喰らってなるものか!
先ほどの攻撃で、セドリックの長剣の力を思い知ったギュドラは、真の力を解放する。
ギュドラの体が一瞬だけ光る。
するとその背中に、紫色の翼が生えたではないか。
この姿は、生命の危機を迎えた時に、ギュドラが解放する姿だ。
ギュドラは一回だけ大きく羽ばたくと、高い天井スレスレまで飛び上がり、そのままセドリックに向かって三つの顎門から三種類のブレスを放つ。
空中からの攻撃、そして三種のブレスを発射――
いくらセドリックといえども反応できまい……そう思っての攻撃だった。
しかし――
「ここだね……!」
――そう言って、セドリックはその場から大きく跳躍した。
そのまま炎のブレスを見事に回避。さらに空中で身を捻ることで、氷のブレスの回避に成功する。
残りの石化のブレスは、長剣をぶつけることで消滅させてみせる。
そして――
「喰らうといいよ!」
――そう言って、ギュドラに向かって斬撃を放つ。
剣身から今まさに奪い取った石化のブレスが発射され、ギュドラの左翼へとヒットする。
片方の翼が石化されたせいで、ギュドラはそのまま地面に叩きつけられてしまう。
苦悶の声を漏らすギュドラに、セドリックが――
「さぁ……いい声で鳴いてくれよ?」
――実に楽しそうな笑みを浮かべながら、剣身を突きつけるのだった……。
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