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126話 原初の息吹

「《黒ノ魔槍(ブラック・ジャベリン)》……っ!」


 マイが叫ぶ。


 彼女の頭上からベルフェゴールに向け、漆黒の魔力の槍が飛び出した。


 《黒ノ魔槍》――


 凄まじい速度と破壊力を持つ、そして標的の生命力を奪い取る、闇魔法スキルだ。


『フフフゥ……無駄よぉ……?』


 妖しい笑みを深めるベルフェゴール。

 彼女の角と、背後の水晶の柱がまたもや禍々しい光を放つ。


 そして《黒ノ魔槍》がベルフェゴールに当たる、その直前だった――


 パァンッ……!


 ――そんな乾いた音が響き渡る。


 そして音とともに、《黒ノ魔槍》が砕け散ってしまったではないか。


「ッ!? 最強の属性を持つ闇魔法スキルがかき消された……っ!?」


 シエルが驚愕のあまり、目を見開く。

 アリアとタマも同様だ。


「その障壁……厄介なの」


 ベルフェゴールを見据えながら、静かに声を漏らすマイ。


 そんなマイに対し、ベルフェゴールは――


『びっくりしたわぁ……まさか大魔導士以外に、闇属性を使えるものがいるなんてねぇ……。もっとも、その力は大魔導士の〝劣化版〟みたいだけど』


 ――クスクスと笑いながら、マイを見下した視線で見据える。


 そんなベルフェゴールに、マイは唇を噛み、悔しげな表情を浮かべる。

 そしてベルフェゴールと、その背後にある水晶の柱を交互に見る。


『フフフ……理解したようねぇ。ワタシの力の秘密を……』


「ええ、理解したの。ベルフェゴール、お前の力が強化されていたカラクリ、そしてその障壁のカラクリを」


 普段の幼い様子からは一転、冷静な表情でマイは続けて言う――


「封印された自分自身のマナを使って、お前はその力を使っているの!」


 ――と……。


『ウフフフ……その通りよ、お嬢ちゃん。よくわかったわねぇ』


 面白そうに笑うベルフェゴール。

 そしてもう一人の自分が封印された水晶にそっと手を当てる。


「なるほど、もう一人の自分が持つ膨大なマナを使っていたわけですか。だから昔よりもスキルの威力が上がっていたわけですね……」


 ベルフェゴールとマイの会話を聞き、シエルもそれを理解する。


『素晴らしい力でしょう? この力があればスキルの威力は上がるし、あらゆる攻撃スキルを無効化する障壁も生み出せるのよぉ……?』


 妖艶な喋り方で、自慢げに言うベルフェゴール。


「「……っ!」」


 タマとアリアが、思わず息を漏らす。

 もしそれが本当なら、タマの固有スキルや、アリアの《エクスキャリバー》さえも無効化されてしまうことになるからだ。


「こうなれば、純粋な戦闘技術で戦うしかありません……!」


 そう言って、《セルシウスブレイド》を構えるシエル。


 そんなシエルに、マイが「待ってなの!」と、制止の声をかける。


「マイ、一体どうするつもりですか?」


 マイに何か考えがあることを見抜いたシエル。


「みんな、マイの後ろに移動してなの!」


 そう言いながら、マイは自分の襟元に手を入れ、とある首飾りを取り出す。


『ウフフフ……魔導具かしら? 何をするつもりかわからないけど、マナで構成された攻撃は無効化するわよぉ……?』


 ニタニタと余裕の笑みを浮かべるベルフェゴール。


 そんなベルフェゴールに対し、マイは……


「その余裕もここまでなの!」


 ……と、こちらは自信溢れる笑みを浮かべる。


 そして――


「インペリアル様、力を借りるの!」


 この時代にジャンプする際に、インペリアルから受け取った魔導具――原初の首飾りを天高く翳す。


 するとどうだろうか。


 マイの目の前に、バチッ……バチバチッ……! と、雷が走り始めたではないか。


 紫電は大きさを増し、やがて巨大なゲートのようなものを作り出す。


(アレは、マズいわ……ッ!)


 マイの前に現れたソレに、ベルフェゴールは本能的に危機を察知した。


 そしてそのままやらせはしまいと、先ほどと同じように《イービルスルト》を発動。


 無数の紫の魔剣が、マイに向かって襲いかかる。


「させません! 《セイクリッドブレイド》――ッッ!」


 マイの隣に高速移動し、アリアが聖なる刃を放つ。


「にゃん(《フレイムハウリング》)ッッ!」


 アリアとともに、炎の咆哮を放つタマ。


 タマの放った炎がアリアの聖なる刃と合わさり、ベルフェゴールの放った魔剣を次々と飲み込み、消滅させていく。


 そして次の瞬間――


「いっちゃえなの! 《アトミックブレス》……ッ!」


 ――高らかに叫ぶマイ。


 そして彼女の目の前に現れたゲートから、闇色の奔流が凄まじい勢いで放たれた。

 その威力はドラゴン族モンスターなど比にならないほどだ。


『クゥ……っ!?』


 苦しげな声を漏らすベルフェゴール。


 彼女の前に、先ほど同じく障壁が展開する……が、みるみるうちにソレがすり減っていく。


 マイの放った《アトミックブレス》……そのあまりに勢いに耐え切れないのか、ベルフェゴールの角と、背後の水晶が激しく点滅をしている。


 そして《アトミックブレス》がその勢いを潜めるのと同時だった。


 パキン……ッッ!


 そんな音とともに、ベルフェゴールの構築した障壁が砕け散ったではないか。


『いったい……何をしたっていうのかしらぁ……? ワタシの障壁はマナで構成された攻撃スキルを全て無効化するっていうのに……!』


 語尾を強めながら、マイを睨みつけるベルフェゴール。


 そんなベルフェゴールに対し、マイは――


「簡単な話なの! この攻撃……《アトミックブレス》は、マナじゃなくて〝魔力〟で構成された異界の攻撃術なの!」


 ――と、自信を感じさせる笑みを浮かべて答えてみせる。


 魔力――マナとは別の、この世界に存在するエネルギー体の名称だ。


 この世界の人々は通常マナを消費してスキルを成すが、中には魔力を使ってソレを成す者がいる。

 そんな存在が、大魔導士舞夜であったり、彼の伴侶の一人であるインペリアルだったりする。


 そしてそのインペリアルから受け取った魔導具――原初の首飾りから放たれた《アトミックブレス》は魔力で構成された攻撃スキルなのだ。


「さすが、大魔導士の血筋に連なる者は計り知れませんね……」


 マイの言葉を聞き、シエルは思わず声を漏らす。


「お前の生み出した障壁は、展開するのにかなりの時間とマナを消費するはずなの! そう簡単には再び展開することはできないの!」


『ク……ッ!?』


 マイの言葉が通りだったのか、悔しげに声を漏らすベルフェゴール。


「さぁ、これでお前を守る力はなくなりました!」


「にゃん(覚悟しろ)っ!」


 アリアとタマも、再び攻撃態勢に入る。


『クッ……仕方ないわねぇ、こうなればワタシの〝もう一つの姿〟を見せてあげるわぁ……!』


 忌々しげに言うベルフェゴール。


「皆、気をつけてください! 変身するつもりです!」


 警戒の声を上げるシエル。


 そして次の瞬間……ベルフェゴールの体が、禍々しい紫の光に包まれた――

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