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117話 女勇者の経歴

「うわ〜!」


「とっても速いです〜!」


「海の旅は楽しいの〜!」


 船上で、リリとフェリ、マイが全身に風を受けながら、キャッキャッとはしゃぐ。


 キングに引っ張られて進む船は。シエルの言っていた通りとんでもない速さで海の上を進んでいく。


 風はもちろんのこと、波しぶきも凄まじく、ほとんどのメンバーは船の中で待機しているのだが……リリとフェリ、そしてマイはそれを楽しんでいる。


「すごいですね。これだけの速度で進んでいるのに、中はほとんど揺れを感じません」


「んにゃあ、異世界の技術は凄まじいにゃん!」


 船の中で、アリアとヴァルカンがそんなやり取りを交わす。


 異世界――アークで造られたこの船は、特殊な素材と技術が使われており、外からの振動をほとんど感じないようになっている。


 それだけではない。


 中は船の中とは思えないほど、快適な空間が広がっていた。

 広々としたリビングに、いくつかの寝室、その他にシャワールームやトイレまで付いていたのだ。


「シエル様、アークとはどのような世界なのですか?」


「アリア……そうですね、何というか奇妙な世界でした。人間とモンスターが共存し、この世界とは比べ物にならないほど、魔道具の開発技術が進んでいたのです」


「それは……確かに奇妙な世界ですね」


(モンスターをテイム……つまり手懐けているのもそうだが、キングクラーケンほどの巨大な生物を収納できるマジックアイテムを開発するような技術もある……想像もつかない世界だな)


 シエルの話をコクコクと頷きながら聞くアリアの胸の中で、タマもそんなことを思う。


「シエル様、私からも少し質問してもいいにゃん?」


「何でしょう、ヴァルカン?」


「シエル様って一体何歳にゃん? 見た目は十八歳くらいに見えるけど……さっき、アークに行ったのは昔って言ってたにゃん」


 もっともな質問をヴァルカンが問いかける。


 そんな彼女に、シエルは――


「私は今年で百十一歳です。二十年前にアークに転移して、十五年前にこの世界に戻ってきました」


 ――と答える。


「にゃ!?」


 と、ヴァルカンが驚いた声を上げるも、シエルは淡々と説明を続ける。


「私は兎耳族の中でも少々特殊な体質をしてまして、通常よりも寿命が長いのです。まぁ、この特殊な体質のおかげで異世界への旅にも耐えられたわけですが……」


「んにゃあ……やっぱり、勇者として称えられるだけのことはあるにゃん」


 マイが未来人であるということは相当なインパクトだったが、目の前の異界帰りの女勇者も相当な人物であるという事実を、アリアとヴァルカンは思い知るのであった。


 ……ちなみに、ステラはこの部屋のソファーで昼寝しており、セドリックは「女性と長い時間同じ空間にいるのは耐えられないよ☆」と言って、入船して早々に他の部屋に移ったのだが……それはさておく。


 そんなこんなで、船の中で過ごすこと数時間経った頃だった――


【グォォォォォォォォン……】


 と、外から唸り声のようなものが響いてくる。

 それとともに、僅かに伝わってきていた船の振動も止まった。


「そろそろキングのスタミナが切れる頃ですね、少し休憩させてあげましょう」


 そう言って、シエルは席を立つと甲板へと向かっていく。

 彼女の後についていくアリアとタマたち。

 甲板に出ると、穏やかな潮風が彼女たちを包み込む。


 シエルの言っていた通り、スタミナ切れを起こしたのだろうか?

 船に固定した足は離していないものの、キングは他の足で伸びをするかのように、ゆったりと海の上に浮かんでいる。


「そういえば、そろそろお昼ですね。せっかくなのでここでお昼を食べませんか?」


「それがいいにゃん! 料理も色々持ってきたし、潮風に当たりながら食べるにゃん!」


 アリアの提案に、笑顔で応えるヴァルカン。


 その声を聞いたのか、船の中からステラとリリ、フェリス、マイが出てくる。


「料理……? どういうことですか? アリアたちの荷物は最小限に抑えられているようですが……」


 不思議そうな表情で問いかけるシエル。


 そんな彼女に「まぁ、見ていてください」と言いながら、アリアはタマに視線で合図を送る。


「にゃ〜ん(任せろ、ご主人)!」


 可愛らしい鳴き声で答えると、タマはスキル《収納》を発動する。

 すると、何もないはずの甲板の上に、パッといくつもの鍋や容器の他、皿などの食器が現れた。


「すごいの! これってまさかタマちゃんのスキルなの!?」


 興奮した声で、マイがアリアに問いかける。


「驚きました。アークボールなどの魔道具を使わずに、これだけの容量を収納できる生物がいるなんて……」


 シエルも目を見開いて、タマを見つめている。


 そんな二人の反応に、タマはアリアの胸の中で「ドヤっ」とした表情を浮かべる。


 ちょうどそんなタイミングで、セドリックも甲板に出てきた。


 潮風に吹かれながら、未来を決する戦いに選ばれし者たちは、食事をともにし……絆を深める。

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