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106話 女騎士とエレメンタルキャット

「ここがエルフの里ルミルスなのだ?」

「何だか思ってたのと……」

「イメージが違います〜」


 ステラ、リリ、フェリが、目の前の光景を眺めながら、疑問と感想を漏らす。


 一日の船旅、そしてもう一日の馬車の旅を経て、アリアたちはルミルスへとたどり着いた。

 ルミルスは草木に覆われた緑溢れるエルフたちの楽園……そんな想像をしていたのだが、実際に着いてみれば高い金属製の外壁に囲まれ、中の様子を見ることができない状態だ。


 要塞――とまではいかないが、それを思わせるような外観をしている。


「前まではこんな外壁はなかったのですが、数年前に賢者ノ石を狙った魔族の軍勢の襲撃があったので、この外壁が建設されたんです」


 外壁を見上げるステラたちに、アリアはそう言って説明をする。

 その顔色は優れない。きっと襲撃された時の記憶が蘇ってしまったのだろう。


「まずは中に入ってこの里の戦力との統合を図るぞ。既に皇帝陛下から書状が届いているはずなので、話は早いだろう」


 ジュリウス皇子が皆を連れ、巨大で重厚な扉の前へと進んでいく。


 扉の前には騎士甲冑姿の女エルフが一人、そしてその隣に一体の大型のネコ科動物が佇んでいた。

 女エルフがジュリウス皇子たちに気づき、居住まいを立たす……が、その途中でその瞳を大きく見開く。


 そして――


「アリアちゃん! アリアちゃんじゃないの……!?」


 ――驚いた様子で、アリアに向かって声を上げる。


 するとアリアも「あ! 〝フィオーネ〟お姉さん! それに〝レオ〟くんも!」と、表情をパッと輝かせて、タマを抱っこしながら駆け出した。


「久しぶりじゃない、アリアちゃん!」

「にゃおおおん!」


 エルフの女騎士が、嬉しそうにアリアに言葉をかける。

 その隣で、大型のネコ科動物も同じように嬉しそうな鳴き声を上げる。


「本当にお久しぶりです、フィオーネお姉さん、レオくん!」

「それにしてもアリアちゃん、ずいぶんと立派な装備をつけてるのね。抱っこしてるのはエレメンタルキャットの赤ちゃん? ……それに後ろの方たちは、まさか……」


 アリアと言葉を交わしたところで、エルフの女騎士――フィオーネはタマと、そしてジュリウス皇子たちへと視線を向ける。


「この子はタマ。私のペットで、パートナーです! そして後ろの方たちは……」

「その様子なら話は聞いているようだ。俺から説明しよう。俺の名はジュリウス・アウシューラ、勇者と帝国の第一皇子をやっている。そして後ろの皆は、騎士と今回の戦いに志願してくれた冒険者たちだ。」


 フィオーネの口ぶりに、ヴァサーゴの情報が彼女のような騎士たちにも伝わっているのだと理解したジュリウス皇子が、簡単に説明を為す。


 やはり、ジュリウス皇子の思った通りだったようだ。フィオーネは静かに頷くと「お待ちしておりました。ジュリウス殿下」と、深く礼をする。


 そしてそのまま「私はフィオーネ。この里の騎士隊の副隊長をやっております。そしてこの子は私の戦いのパートナーである、エレメンタルキャットのレオです。お見知り置きください」と軽く自身と、隣に佇んでいる大型のネコ科動物の紹介をする。


(ほう、やはりエレメンタルキャットであったか!)


 エレメンタルキャット――レオの紹介を終えたところで、タマは興味津々といった様子で、アリアの胸からピョンっと降りると、レオに近づいていく。


 するとどうだろうか――


「に、にゃおぉぉぉぉぉ〜」


 ――レオは戸惑ったような声を上げると……そのまま地べたに寝転び、タマに向かって腹を見せる動作をした。


「う、うそ……っ、プライドの高いレオがこんな赤ちゃんのエレメンタルキャットにお腹を見せるなんて……!」


 レオの行動に、フィオーネが驚いた声を漏らす。


 エレメンタルキャットの習性として、自分より強者と認めた相手には腹を見せて敵対する意志はないと知らせるという行動があると言われている。

 成体であるエレメンタルキャットのレオが、幼体であるタマに腹を見せた事実を、フィオーネは信じられないのだ。


「お前たちはどういう関係なのだ?」


 と、ここで、ステラが会話に割り込んで質問をする。

 アリアと親しげに話すフィオーネのこと、そしてレオのことが気になったようだ。


「ステラちゃん。フィオーネお姉さんとレオくんには、わたしが小さい頃よく遊んでもらっていたんです。遊んでもらった以外にも色々ありましたけどね……」

「懐かしいねぇ。アリアちゃんが人攫いに襲われているときに、たまたま散歩してたレオが助けに入ったんだよね」

「レオくんがいなければ、今頃わたしは人攫いに売られて奴隷になっていたでしょう。レオくんには感謝しかありません」


 過去を振り返るように、アリアとフィオーネがそんなやり取りを交わす。


 それを聞いたタマは――


(なんと! このエレメンタルキャットはご主人の命の恩人(猫)であったか! ならば我が輩も礼を尽くさねば……!)


 ――と目の前のエレメンタルキャット、レオに感謝の念を抱く。


 そのまま、自分もレオと同じように地べたに寝転がり、彼に向かって腹を見せるのだった。


「にゃおおお〜……?」

「にゃ〜ん!」


 野生の勘で、タマが格上だと判断したレオ。

 だが、タマが腹を見せたことに困惑した声を漏らす。


 そんなレオにタマは、よろしくな! とでも言いたげな様子で元気な声を上げる。


 レオは恐る恐る立ち上がり、タマの頭に自分の頭を差し出す。

 そしてタマもそれに応えるように立ち上がり、自分の頭を、レオの頭にスリスリと擦り付ける。


 二匹のネコ科動物――まぁ、タマはベヒーモスなのだが……――が戯れる姿に、皆はほっこりした気分になり、リリとフェリに至っては「私たちも混ぜて〜!」と、タマとレオに突撃し、モフモフしまくるのだった。


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