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105話 ルミルスに向けて

「んにゃ〜! 船旅なんて久しぶりにゃん!」


 翌日――船の上でヴァルカンが伸びをして全身に風を受ける。


 今、アリアたちは迷宮都市近郊の港から船で旅立ちを終えたところだ。

 目的地はもちろん、ヴァサーゴが現れるとされているエルフの里ルミルスだ。

 ルミルスは山脈を越えた先にあるゼハートという国にあるのだが、この時期は潮の流れの関係で船を使って回り込んだ方が早く着けるのである。


「私、海なんて初めて見たわ!」

「お水がいっぱいですぅ〜!」

「なんだか不思議な匂いがするのだ!」


 初めて見た海の存在に、リリとフェリは大興奮。ステラは海水に含まれる塩の匂いに興味津々といった様子だ。


「ジュリウス殿下、体調は大丈夫ですか……?」


 船のデッキの隅で、目を瞑ったまま風を受けるジュリウス皇子に、アリアが心配そうに声をかける。


 ヴァルカン同様に、ジュリウス皇子も今回の戦いに参戦することが決まった。しかし、その表情は優れない。前回の戦いでの疲労がまだ残っているのだろう。


「大丈夫だ、アリア。大暴れする……ことは難しいかもしれんが、部隊の指揮くらいはとってみせる」


 アリアの問いに、ジュリウス皇子は頷きながらそう答えるのだった。


 ジュリウス皇子に、こっそりエリクサーを所持していることを伝え、体を治してもらおうとアリアたちは考えたのだが……ジュリウス皇子の体の不調は、何年も勇者の力を使いすぎた後遺症のようなものであり、エリクサーでも治せないとのことだった。


 ちなみに、この船に乗っているのはアリアたちとアリーシャ、ジュリウス皇子……。

 そのほかにもダニーを始めとした騎士たちと、十数人の冒険者たちが乗っている。


 騎士たちは任務で、そして冒険者たちは自ら志願して今回の戦いに参加した。


 迷宮でヴァサーゴの生み出した召喚獣を倒してくれたアリアたち……。彼女たちがいなければ迷宮都市は滅んでいたかもしれない。

 そんなアリアの故郷が危機に晒されている……それを聞いた腕の立つ冒険者たちが「今度は俺たちがアリアちゃんたちを助ける番だ!」と、名乗りを上げてくれたのである。


「引退した身だけど、まだまだ戦えるところを見せてあげるわん♪」


 アリアの隣で、ギルドの受付嬢……アーナルド・ホズィルズネッガーさんが呟く。

 元Bランク冒険者である彼女も、少しでも力になれればと、個人的に力を貸すと今回の戦いに参戦することを決意してくれたのだ。


(相手は四魔族ヴァサーゴの率いる軍勢……しかし、こちらにはこれだけの戦力が揃っており、さらにルミルスの戦士たちの協力を得ることができる。セドリック殿も現地で合流予定、そう簡単に敗れるわけはないであろう)


 アリアの胸に抱っこされながら、タマは頭の中で状況を再確認する。


 敵が軍勢で攻めてくるのであれば、こちらも数を揃えて対抗するまでだ。

 アリーシャの情報では、恐らくヴァサーゴは力を完全に取り戻し、戦力を整え次第、転移のスキルを使って軍勢ごと攻めてくるであろうとのことだった。

 ルミルスには賢者ノ石による結界があるため、里の中に転移することは不可能。……すなわち、里の近郊に転移してくるだろうと予想されている。


「なぁ、アリア。久しぶりにタマちゃんを抱っこしていいかい?」

「私も抱っこしたいのですぅ」


 タマを胸に抱きながら、緊張した面持ちでデッキの上で遠くを見つめるアリアに、騎士隊の二人……ケニーとマリエッタが話しかけてくる。

 単純にタマを抱っこしたいという欲求もあったのだろうが……それとは別に、アリアの緊張をほぐそうと気遣ってくれたようだ。


「もちろんです! タマ、ケニーさんとマリエッタさんに抱っこしてもらいましょうね?」

「にゃ〜ん(了解だ、ご主人)!」


 アリアに元気に応えるタマ。

 主人であるアリア以外の女性に抱かれるのは、騎士として遺憾ではあるが、主人の命令であれば仕方あるまい。ビキニアーマーの女騎士二人の胸に、ぽよんっ! と抱かれるのであった。


「やっぱもふもふ可愛いな〜!」

「ですぅ! ツヤのある毛並みも気持ちいいのですぅ!」


 ケニーが胸にタマを抱っこし、マリエッタがその体を撫でる。

 実はベヒーモスとはいえまだ幼体であるタマは、その心地よさに思わず目を細め眠たげな表情を浮かべる。


「あ! ずるいのだ! 我もタマを抱っこするのだ!」

「私もタマをもふもふしたいわ!」

「私もです〜!」


 ケニーとマリエッタがタマを甘やかしていると、ステラにリリ、フェリの三人が、私も私も! と群がってくる。


 ステラをライバル視しているアリアによって、ステラの抱っこだけは阻止されようとする……のだが、結局取り合いが始まり、いつも通りタマはアリアとステラの胸の間で猫乳はさみされてしまうのだった。


(んにゃ〜……聖獣に変身したタマちゃん、カッコよかったにゃあ……)


 タマが揉みくちゃにされる光景を眺めながら、ヴァルカンはそんなことを思う。

 威風堂々とした佇まいの白き獅子――戦いの中だというのに、その姿に見惚れてしまったほどだ。


 試しに、アリアたちはアリーシャにタマが変身したことを伝え、何か知っている情報はないかと聞いてみたのだが、返ってきた答えはわからないというものだった。


(ふふふ……タマちゃん、前よりも強くなってますね)


 アリアとステラの豊満バストの中で「うにゃ〜〜〜〜!?」と、声を上げるタマを見つめながら、アリーシャは静かに微笑を浮かべるのだった。


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