103話 猫騎士のレベリング
(さて、では始めるとするか……)
ヴァサーゴの呼び出した召喚獣との戦いがあった次の日の夜――
タマはこっそりと家を抜け出し、迷宮の前まで来ていた。
その理由は〝経験値〟を溜めるためである。
つまり何が言いたいのかというと……それはタマのステータスを見てもらった方が早いだろう。
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名前:タマ
種族:ベヒーモス(幼体)
固有スキル:《属性咆哮》《スキル喰奪》《属性剣尾》《獅子王ノ加護》《属性弾》
喰奪スキル:《収納》《ポイズンファング》《飛翔》《ファイアーボール》《アイシクルランス》《アイアンボディ》《触手召喚》《粘液無限射出》《異種交配》《ドラゴンファング》《ドラゴンクロー》
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スキルの欄には変わりはない。しかし、進化の項目が以前のように消えてしまっているのだ。
(やはり、オルトロスとサイクロプスとの戦いで進化を使用してしまったからであろうな……。だが、進化の項目が現れる仕組みについては、おおよそ見当はついている)
以前、戦いを続けるうちにタマはベヒーモス第二形態に進化することが可能になった。そしてその後も、アンデッドドラゴンとの戦いを経てベヒーモス第三形態に進化できるように……。
技量を上げることも重要だが、モンスターとの戦いを経験し、その値が一定以上溜まると進化の項目が現れるようになるのでは……? それが、タマが導き出した答えだ。
だからこそ、夜中にこっそりアリアのベッドから抜け出し、迷宮で経験値稼ぎに来たわけである。
『ギギャ!』
『グギャギャ!』
タマがてちてちと迷宮に足を踏み入れたところで、二体のゴブリンが現れた。
「にゃん(《フレイムエッジ》)っ!」
タマは《属性剣尾》が一つを発動し、駆け抜ける。
すれ違いざまにゴブリン二体を一瞬の内に切り裂いた。
(今日はご主人たちはおらんからな。来るべき決戦に向けて、この迷宮のモンスターどもには我が輩の進化の糧になってもらう……!)
タマは可愛らしい瞳を鋭く細めると、迷宮の奥深くへと進んでいくのだった。
◆
『ゲバァァァ……!』
迷宮十五層目――
先日の激戦があった階層にたどり着いたタマ。
そんな彼の前に、一体の異形が現れた。
トロール――
以前アリアたちが連携で倒しきったAランクモンスターだ。
「にゃあ(ふんっ、経験値稼ぎにはちょうどいい……いくぞ)っ!」
トロールを見るや否や、タマは可愛らしい声で咆哮を上げた。
タマが選択したのは《属性弾》が一つ、《ウォーターミサイル》だ。
青き弾丸がまっすぐにトロールへと飛び出し、その腹に直撃する。
そして次の瞬間、トロールが水の牢獄に囚われた。
もがくトロール……さすがはAランクモンスターだ。
圧倒的パワーを以って、水の檻から逃れようとする。
「にゃん(《ウォーターハウリング》)……ッ!」
だが、みすみす敵を逃すタマではない。
今度は《属性咆哮》を放ち、水の檻から出てきたトロールの腕を撃ち抜いた。
激痛のあまり、抵抗の力を弱めるトロール。
そして叫びを上げようとしたのだろう、そのまま水を大きく吸い込んでしまう。
トロールの持つ再生能力により、みるみる内に腕の傷は回復していくのだが……次第に抵抗の力が弱っていく。呼吸ができない上に、水を飲み込んでしまえば当然である。
そしてついに……トロールは白眼を剥き、水の牢獄の中で息絶えた。
(よし、そろそろステータスを再確認してみるか)
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名前:タマ
種族:ベヒーモス(幼体)
固有スキル:《属性咆哮》《スキル喰奪》《属性剣尾》《獅子王ノ加護》《属性弾》
喰奪スキル:《収納》《ポイズンファング》《飛翔》《ファイアーボール》《アイシクルランス》《アイアンボディ》《触手召喚》《粘液無限射出》《異種交配》《ドラゴンファング》《ドラゴンクロー》
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(むぅ……トロールを倒しても進化の文字は現れぬか……。仕方あるまい、もう少しモンスターを狩るとしよう)
タマは少々落胆しつつも、次なる階層へと進んでゆく。
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『グルァァァァァァ――ッッ!』
迷宮二十層目――
岩肌で囲まれた空間に、大気を震わせるかのような咆哮が響き渡る。
(ほう、〝レッサードラゴン〟か。面白い、コヤツであれば一気に経験値を稼げるであろう!)
タマを待ち受けていたモンスター……。
それはレッサードラゴンと呼ばれる、その名の通り下級のドラゴン族モンスターだ。
四足歩行で硬い鱗が全体を覆っており、ブレス攻撃をすることはできないが動きは俊敏。
Sランクのアースドラゴンほど巨大ではなく、体長は五メートルほどだろうか。
攻撃力も上位のドラゴンよりは劣るものの、トロールよりも上である。
ランクはAとSの間に位置し、A+とされている。
タマを見るや否や、レッサードラゴンは長大な尻尾を振り払ってきた。
「にゃん(当たるか)!」
騎士の経験、そしてベヒーモスの動体視力を生かし、タマは瞬時にレッサードラゴンのテールアタックを見切り、跳躍して攻撃を躱した。
そしてそのまま――
「にゃん(《飛翔》)ッ!」
――以前倒したワイバーンから得たスキル《飛翔》を使って、レッサードラゴンの頭上へと舞い上がる。
『グルッ!?』
見るからに弱そうな小動物が攻撃を避け、さらに翼を生やして飛び上がる……。
そんな予想外の出来事に、レッサードラゴンは驚愕の声を上げる。
「にゃあ〜(喰らえ、《ロックハウリング》)っっ!」
レッサードラゴンの頭上から、タマが地属性の咆哮を放つ。
こんな巨体をマトモに相手するなど御免だ。……というわけで、相手の攻撃が届かない位置から一方的に攻撃しようというわけである。
レッサードラゴンの頭に、《ロックハウリング》によって生み出された石飛礫が勢いよく襲いかかる。
一方的な攻撃に、レッサードラゴンはその場を逃げ出そうとするが……。
(逃がさん!)
……タマはさらに天井ギリギリまで飛び上がると、再び《ロックハウリング》を放つ。
さらに高い位置から放ったことにより、地属性の咆哮は先ほど以上に勢いを増す。
何度も頭に強打を喰らい、レッサードラゴンは……バタンッ! と、その場で意識を落とし、崩れ落ちるのだった。
(ふむ、気絶したな。今のうちにトドメを刺すぞ)
意識を失ったレッサードラゴンに、てちてちと近づくと、タマは《属性剣尾》が一つ《エーテルエッジ》を発動し、そのまま……斬――ッ! と、レッサードラゴンの目玉から脳天までを貫いた。
そして改めて、自身のステータスを確認する。
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名前:タマ
種族:ベヒーモス(幼体)
固有スキル:《属性咆哮》《スキル喰奪》《属性剣尾》《獅子王ノ加護》《属性弾》
喰奪スキル:《収納》《ポイズンファング》《飛翔》《ファイアーボール》《アイシクルランス》《アイアンボディ》《触手召喚》《粘液無限射出》《異種交配》《ドラゴンファング》《ドラゴンクロー》
進化可能:▷ベヒーモス第二形態
▷ベヒーモス第三形態
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(ほう、進化が二つも現れたか! 単純な破壊力なら第二形態、神聖属性と防御力を求めるなら第三形態といったところだが……。ご主人たちの前で第二形態を使えば、我が輩がベヒーモスであることがバレてしまうし、選択肢は一つであるな……)
進化に二つの選択肢が現れたことに歓喜するも、そもそもの選択肢が一つしかないので、若干落胆するタマ。
だが、当初の目的はこれで達成だ。
戦いで汚れた体をクシクシと猫洗いすると、そのまま――
「にゃ〜〜〜〜〜〜んっっ!」
――と、可愛らしい声で勝利の雄叫びを上げるのだった。