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100話 タマの決意と剣聖の実力

 戦いは激化し、相当な時間が流れた――


「ぐっ……マナが尽きてきたか……っ」


 ジュリウス皇子が片膝をつき、地面にグレートソードを突き立てる。グレートソードの輝きも戦闘当初から比べれば弱々しいものになってしまっている。


 その横に、バックステップで後退してきたアリアも肩で息をしながらテンペストブリンガーを構え直す。


 そんな二人に向かって、オルトロスが顎門を広げながら突っ込んでくる。そんな敵に、タマも「ハッ……ハッ……」と息を切らしながら《属性咆哮》を喰らわせようと追い縋る。


 その隙に、アリアとジュリウス皇子はポーションで体力とマナを回復させ……たいところなのだが――


『顕現セヨ! 《ヘルランス》……!』


 ヴァルカンと交戦中のサイクロプスが、アリアとジュリウス皇子に向かって炎属性の投擲槍型上級魔法スキル《ヘルランス》を放ってくる。


 敵の連携は完璧だ。距離を置いた場所で戦っていても、タマたちと同じように連携し、アリアたちに回復のヒマを与えないのだ。


(く……っ、このままでは……!)


 アリアとともにサイクロプスの攻撃を躱しながらも、ジュリウス皇子は内心焦る。敵にいくつか有効打を与えることには成功した。しかし、こちらはそれぞれ体力やマナの限界を迎え始めているというのに、向こうにはその様子は見られない。


「タマ……お願い、もうやめて……!」


 アリアが悲痛な面持ちで声を漏らす。幼体の身で、とうに体力の限界を迎えているというのに、未だオルトロスに追い縋りボロボロになりながら《属性剣尾》や《属性咆哮》を駆使して戦い続けている……。


 タマを愛する彼女にとって、そんな姿を見ていることなどできようか……。自分も体力の限界だというのに、その場を飛び出すとテンペストブリンガーを駆使してタマを援護しようと再びオルトロスに接近する。


(やめろ、ご主人! その体では無理だ……!)


 再びオルトロスに仕掛けようとするアリアに気づいたタマ。体力もマナも底が見え始めた彼女を戦わせるわけにはいかない。


(こうなれば……!)


 接近するアリアに牙を向けるオルトロスを前に、タマはとうとう決意する。そして心の中で叫ぶ。少し前、彼のステータスに現れた文字の名を――!



「さて、そろそろですかね?」


 同時刻――


 アリーシャはアルフス王国にある件の遺跡の中を歩いていた。彼女は〝特殊な移動手段〟を有しているので、通常なら数週間かかる旅路も数日の内に踏破できるのだ。


 四魔族の復活により、遺跡の中は迷宮化していた。アリーシャの歩いたあとには強力なモンスターの死骸がいくつも散らばっている。もちろん全てアリーシャが一刀の下に斬り捨てたものたちだ。


 今のアリーシャは普段のメイド服姿ではない。蒼銀の戦闘装束を身に纏い、腰からは漆黒の刀と白銀の刀を下げている。


 機能的で露出が多い戦闘装束が彼女の神聖ささえ感じさせる美貌をより魅力的に演出させている。


 ……まぁ、そんなアリーシャの幻想的で美しい容姿も、ここにはモンスターしかいないので評してくれるものはいない。それに、誰かいたとしても彼女自身、愛するご主人様以外は眼中にないので関係あるまい。


 それはさておき。


 アリーシャの言葉だが……ここにきて嫌な気配を感じ始めた。恐らく四魔族のうちの一柱が近いのであろうと憶測を立てる。


「それにしても、この気配……どこかで覚えがあったような気がするんですよね」


 さらに歩きながら一人呟くアリーシャ。いったいどういうことだろうか……? そんな彼女の前に巨大な扉が現れた。


 巨大で重厚な造りをしている。これでは開けるのにも一苦労だろう……が、アリーシャは涼しい顔で腰の刀を抜くと……ズルリ――扉が斜め真っ二つに割れ、派手な音とともに地面に倒れていく。そして次の瞬間――


『ま、まさか……貴様は……貴様はぁぁぁぁぁぁッ!』


 ――扉がなくなった部屋の奥から、驚愕と怒りが入り混じったような声が響いてくる。その声を聞き、アリーシャは「そうですか、どこかで感じた気配だと思ったら……復活した四魔族というのは、あなただったのですか……〝レヴィ〟」と言いながら不敵な笑みを浮かべる。


 レヴィ――赤銅色の肌に緑の髪、執事服を身に纏った男装の麗人という言葉が相応しい容姿をしている。魔王マモンに仕えし四魔族が一柱であり、魔神の黄昏が起きるよりも少し前に、アリーシャによって討伐された過去を持つ者だ。


 アリーシャが浮かべた笑みを見て、レヴィは思わず「ひ……っっ!」と悲鳴を漏らす。恐らく、アリーシャによって倒された時の記憶が呼び戻ったのだろう。


 アリーシャはレヴィを、とある理由により口にするのも憚られるような残忍な方法で過去に討滅した。それを思い出せば悲鳴くらい漏れて当然かもしれない。


「ふふっ……今度はどうやって殺してあげましょうか、レヴィ……?」

『ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! あ、あの時のワタクシと一緒と思うな! ワタクシは復活すると同時に、マモン様の加護によって大幅に強化されている。いくらお前でも倒すことは不可能だ!』


 微笑を浮かべながらのアリーシャの言葉に、レヴィは恐怖を振り払おうとするかのように叫び声を上げる。


 そしてその瞬間だった。レヴィの体を毒々しい紫色のオーラのようなものが包み込んだ。オーラは急速に大きくなり、そのまま霧散する――そして、そこには五メートルほどの〝ドラゴン〟が立ち誇っていた。その体からは膨大な量のマナ、そして圧倒的なプレッシャーが迸っている。


(あら、本当に魔王の加護を受けているのですね。このプレッシャー……言うならば準魔王級といったところでしょうか?)


 準魔王級――剣聖たるアリーシャがそう判断するほど、ドラゴン化したレヴィの放つプレッシャーは凄まじい。アリアたちがグラッドストーンで討伐したアンデッドドラゴンの比ではない。


『クヒャヒャヒャヒャヒャ! 見るがいい、アリーシャ! これがマモン様の加護を得たワタクシの姿だ! この力で貴様を八つ裂き――――に……?』


 体を変異させ、勝利を確信し大笑いするレヴィが言葉の途中で不思議そうな声を漏らした。今まで目の前にいたアリーシャの姿が忽然と消えたのだ。かと思えば、レヴィの見えている視界が急に下へと落ちていく。


 ――レヴィの視界が地面と天井を交互に映し出す……。


 レヴィは最後に見た。首から先がなくなった自分の体が音を立てて崩れ落ちていく光景を……その背後で、哀れんだ表情で自分を見つめながら、刀を鞘に収めるアリーシャの姿を。そして、彼女の片方の瞳に灯る真紅の輝きを――


「レヴィ、いくら強くなっても、わたしの速さを認識することは不可能です。あなたが魔王の加護を受けたように、わたしはご主人様からの加護を賜わっているのですから。ふふふっ……」


 たった一歩の踏み込みで準魔王とも言える強さを手にしたレヴィの背後に回り込み、そのまま彼女の首を刎ね飛ばすという神業を成し遂げたアリーシャ。愛する主人を想うその表情は蕩けきり……恋する乙女そのものであった……。


「さて、こちらは片付いたことですし、この程度の強さであればセドリック様の方も問題ないでしょう。アリアちゃんたちは少し心配ですが……〝あの状態〟のタマちゃんがいれば大丈夫ですね♪」


 一瞬だけアリアたちの身を案じるアリーシャであったが、すぐにそのことを思い出し、いつもの微笑を浮かべるのだった――

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