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羽根刃  作者: 蒼赤羽根
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第三章「娼婦」1


背の高い建物が並んでいる。

その中に薄汚れた繫華街の地域がある。

そこの路地裏のどこかから、少女の歌声が流れてきた。


神様は尊くも美しくもない


私たちを創ったのは悪魔


サディストな悪魔


悪魔は退屈だから人間を欲深くし争い好きにしました。


人間の苦痛


拷問・レイプ・虐殺


その他、いろんな苦痛を上から見物することが


悪魔にとって最高の娯楽


窓の下にピンク色の髪の少女と黒髪の青年の姿が見えた。

黒髪の青年はどこかから聞こえてくる歌声が気になったのか足を止め、建物を眺めた。

目が合ったような気がした。

こっちに気付いたんだろうか。

けど関係なく言葉を続ける。


じゃあどうすればいいの?


どうすれば私たちは悪魔が創った地獄から解放されるの?


それは死ぬしかありません


それは魂の完全消滅しかありません


でも無理


人は死ぬことに恐怖するようになってるから


死ぬときに苦痛を感じるようになってるから


悪魔がそう創った


「娯楽の素材を簡単に死なせないために」


歌い終わり、ふうと息をつく。

左右に束ねたおさげ髪が揺れる。

粗末な衣服から伸びた細すぎる腕が窓の扉を閉める。

閉める際、小さく見える黒髪の青年が、まだこっちを見ていた。

「なに?あの男、私たちを買いにきたの?けど...女連れだった...」

そうつぶやいた少女はあまりにも幼かった。

10才...いや、もっと幼い。

「まぁいいや、今日はいい日だし」

小さい窓からしか明かりが差し込まない薄暗い中、汚れが目立つ小さな部屋の小さな机の上に置いてある瓶を手に取る。

その中には数粒の薬が入っていた。

瓶の蓋を開ける。

薬を取り出す。

「これでやっと、この地獄から解放される...」


その時、部屋のドアが開き少女よりも少し年上の女の子が入ってきた。

「20番?!まさかっ!駄目よっ!」

薬を口に含んだ少女にかけより、強引に吐き出させようと背中を叩く。

「げぇっ...!」

20番と呼ばれたその少女は咳き込み、さっき飲み込んだばかりの薬を床に落とした。

そんな彼女の様子を確認し、短髪の少女は瓶を取ると素早く逆さにした。

「ああっ...くすりっ...くすりっ...!」

床に散らばる粒を必死に拾おうと、小さい手を伸ばす。

目の前に足が現れそれが踏みにじられる。

「ああ...やっと死ねると思ったのに...こんな生活おわると思ったのに...」

「20番、あなたの気持ちはよく分かるわ、けど死んだらそこでおしまいよ」

短髪の少女はテキパキと粉になった薬を雑巾で拭き取り、それを窓から投げる。

「この商売だって神様がくれた試練だと思うの、だから耐えるのよ。耐えていればいつかきっと幸せになれるから...」

短髪の少女は自分よりも幼い20番の肩にポンと手を乗せる。

20番はうつむいたままだったが、しばらくしてゆっくりと顔をあげた。

「分かった、わたし...頑張って生きるね...助けてくれてありがとう」

か細いその声に、短髪の少女はほっと安堵の笑みを浮かべた。

「おねーちゃん、お礼に渡したいものがあるの、来て...」

「あら、なにかしら?」

もらえるものはもらっておこうとでも言うように、短髪の少女が顔を覗き込む。


ザッ!


その顔に鋭い痛みが走った。

「っ!」

短髪の少女は顔を押さえる。

近くにぼとっと何かが落ちた。

ぺらっとしたその塊は肌色で、ピンク色の裏側がかすかに覗いていた。

20番のほうを見るとニコニコとした笑顔のまま右手にナイフを握っていた。

「ねぇ、鏡見て」

まだ何が起こったのか理解していない短髪の少女を見かねて、20番が机の引き出しから鏡を取り出し、こっちに向ける。

血が垂れ剥き出しになった肉色が視界に入る。

鏡に映った驚いたような少女の頬は、一部がベロっと剥がれ落ち、整った顔の表面とは違うグロテスクな裏側が、彼女の本心を物語っていた。

「なにこれ...わたし...?いやあああああっ!」

泣き叫ぶ少女の肩にポンと手が乗っかる。

「あら大変!すぐに手当てしてもらいましょ」

急いで去っていく20番の後ろ姿に憎しみが浮かぶ。


なんてことしてくれたのよ!せっかく助けてやったのに!


これでは客は取れない。

客が取れなくなった娼婦がどんな末路をたどるのか、どんな生き地獄を味わうのか、短髪の少女は知っていた。

20番にも自分と同じ運命をたどらせようと少女はナイフを探したが、見当たらなかった。

20番がしっかりと持って行ったのだ。

そうこうしているうちに彼女が店の管理人の男を連れてやってきた。

「なっ!5番がっ!クソっ!これじゃ商品にならねぇっ!」

「止めようとしたけど5番が、自分の顔をっ...」

20番の言葉に短髪の少女5番が目を見開く。

「嘘つかないで!20番がやったのよ!20番が悪いのよ!」

「うるせぇ!ちと黙ってろ!あーこれじゃ客は取れねーな...元金取るにゃあの変態に売らねーと...」

男の言葉に5番は絶望する。

「いや!あたしはあんな変態のとこには行きたくない!死んだほうがマシ!」

5番は舌を噛み切ろうとするが男に阻まれる。

「おい!手伝え!」

男が5番を取り押さえながら、通路で見ていた別の男に大声を出す。

口にさるぐつわを噛まされ、両腕を縛られ手当される5番を、20番の冷めた瞳が見下ろした。

「これもきっと、神様が与えた試練なんじゃない?」

5番は横目で彼女を睨みつける。


「耐えて頑張って生きて。生きてればいつかきっと幸せになれるから」


20番の口がそうつぐむ。

はっとした。

その言葉はさっき5番が彼女に言ったものと同じだった。

20番は気付いていた。

命を助ける良い人を演じ、少女の地獄を延長させた5番の悪意に。

自分と同じ不幸な人間を失うものかという、5番自身も見て見ぬふりをしていたその本心に。

そういえば、と5番は薄れゆく意識の中で思い出す。


20番が男に殴られていても首を絞められていても、助けずじっとその様子を見てたっけ...

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