第一章「陰謀」4
大鳥国首都の路地裏。
一部の人間しか知らない闇市場へ続く階段が、ぽっかりと暗い口を開けていた。
階段を降りると錆びた鉄のドアが姿を現し、その向こうからざわめき声がかすかに聞こえる。
ドアノブをひねるとオレンジ色の灯りと人だかりが出迎えた。
人だかりが注目するのは壇上にいる数人の女達。
金髪で肌が小麦色の女、ロングの茶髪の女、人種は様々だがその中でもひときわ目立っていたのは、ピンク色の髪の女だ。
華奢な体、色白の肌、髪よりも少し紫に近い青ピンク色の瞳。
女というよりは少女といったところだろうか。
まだ幼さの残る素顔は、沢山の好奇の視線にさらされ暗い影を落としていた。
ピンク色の髪の少女も含め、女たちは全員露出度の高い服を身に着けており、ここがどんな市場であるかを物語っていた。
「さぁて皆様!商品の目星はつきましたでしょうか!」
髭を生やした中年の司会者が壇上の上から観客に声をかける。
「今日の目玉はこの少女!大鳥国にはいない珍しいピンク色の髪をしております!しかもなんと!処女!」
ほうっと観客の視線がさらに少女に注ぐ。
胸のふくらみに腰のくびれに。
彼女達は、腕で体を隠すことは許されていない。
隠したくても、それをやった別の女がひどい仕打ちを受けていたからだ。
「それでは売買スタート!」
司会者が観客に向き直る。
しかしさっきまでざわめきだっていたそこは、別の空間のように静まり返っていた。
「え?」
司会者が目を見開く。
観客が全員倒れていた。
胴体から上がなく、辺り一面に赤黒い血が流れ...
「きゃあああっ!」
壇上の女達が悲鳴をあげる。
ピンク色の髪の少女も異変に気付く。
物言わぬ死体になった観客席で唯一、仁王立ちで立っている人影があった。
死神のような黒いローブ...長い銀髪の羽根刃の女。
「ひっ...なっ...なんでっ...はね...ばがっ!おおとり...こく容認のはずっ!」
「治安維持のため排除するそうだ」
目を離した一瞬の隙に、銀髪の羽根刃エレナが司会者の背後に立っていた。
「安心しろ。いずれ私が大鳥もろとも全て滅ぼすから、遅かれ早かれみんな死ぬ...」
そう言うとエレナは、見えない刃で司会者の首を刎ねた。
「エレナ殿、さっきの言葉は...」
彼女の近くにいた別の羽根刃がいぶかしんだ視線を向ける。
「なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
それでも遠慮なくエレナがそう言い放つと、生真面目そうな短髪の男の羽根刃は口を開きかけたが、何も言わずにその場から去っていった。
女たちが逃げ惑う。逆立てた金髪の羽根刃の男が女の一人を捕まえる。下品ににやけた顔で女を壁に押し付け乱暴にドレスを破る。
「いや...」
その光景を遠巻きから目にし、ピンク色の髪の少女の口から震えた声が漏れる。
金髪の羽根刃がその少女に気付く。
今犯そうとしている女よりもピンク髪の少女の方が気に入ったのだろう。彼は手を素早く払い女の首を刎ね、少女の方にゆっくりと近付いてくる。
「あ...」
少女は地面に尻をつく。
「おいおい、さっさと逃げろよー。逃げてくんねーと追いかけがいねーだろー?なんならオレが立たせてやろっか?」
目の前にやってきた金髪の羽根刃が冗談めかして手を差し伸べてくる。
「ひっ!」
少女は地面に手をつき、よろよろと立ち上がり歩を進める。
ゆっくりと近づいてくる背後の金髪の羽根刃の気配を振り払うかのように、やっとの思いで角を曲がった。
ドサッ
何かにぶつかった。
目の前に黒い布があり、気付いたらそれを握っていた。
恐る恐る顔を上げると、黒髪の若い羽根刃の男がそこに立っていた。
生気のない無感情な黒い瞳と、怯えた青ピンク色の瞳が交差した。




