第七章「破滅」1
どのくらい廃墟を回ったのだろうか。
覚えていない。
一月以上は飲まず食わずだが、空腹感が全くない。
次の街にたどり着いた。
そこも生きている人間はいなかった。
「ここも駄目か...」
レイルは虚ろな表情のままつぶやいた。
濃い霧の中、かまわず廃墟の中を歩く。
ふと遠くに人影が視界に入った。
生きている人間がいる。
久々の生存者に、レイルは死んだような表情から息を吹き返し、そこに向かう。
人影がはっきりと見えてきた。
長い銀髪、黒いローブ。
「エレ...ナ...」
彼のつぶやきに彼女は振り返った。
レイルは新たな家で調理した食事を皿に盛りつけ、運ぶ。
新たな家の一室のベッドにエレナがローブを着たまま横たわっている。
サイドテーブルの上に皿を置くと、彼女はゆっくりと起き上がった。
食事が終わると彼女は立ち上がり、部屋を出ていった。
「どこに行くんだ?」
「体を清めてくる」
玄関ドアを開けながら、レイルの問いに彼女は答えた。
この家に風呂は付いていない。
レイルもずっと体を清めていないことを思い出し、彼女の後を付いて行った。
まだ新しい死体の中を歩く。
エレナは豪勢な屋敷の前に着くと、そのままドアを開け入っていった。
風呂くらいありそうな屋敷だ。
エレナが風呂に入っているであろう間、レイルは殲滅されたばかりの街で食料を探す。
殺された住人の家へ無断で入り、パンや野菜、肉、薪も手に入れ、新たな拠点に持っていく。
さっきエレナが食事をしていた部屋で、彼女の帰りを待ちながら思考する。
ロイがエレナに殺されたのは、俺が間に合わなかったわけでも、時間の問題でもない。
急ごうが、すぐに生き返ろうが、どっちにしろ彼女は殺されていた...
そこまで考えてレイルはあることが心配になった。
急いでさっきの屋敷に向かう。
脱衣所のドアが開けっ放しになっている。
いないっ!エレナがっ!
屋敷を出る。
急いで街の門に向かう。
そこに人影が映る。
エレナだ。
彼女は街を出ようとしていた。
「待て!エレナ!」
レイルの呼びかけに彼女は振り返る。
「どこにいくつもりだ?」
彼女の目の前でレイルは立ち止まる。
「決まっているだろう?皆殺しに行くのだ」
エレナはいつもの冷たい瞳で答える。
「なんで、大鳥国の命令でもないのに...」
「私がそうすると決めたからだ」
「じゃあなぜ、俺は殺さない?」
「お前は私の次に強い。いざという時使えると思ってな。お前も手伝うか?」
そんな彼女の腕をレイルはつかむ。
「いや、手伝わない。どこにもいかないように、この腕は離さないでおく。どこかに行くなら俺に一声かけろ...」
そう言うと彼女の腕をつかんだままきびすを返す。
意外とエレナは大人しく付いてきた。
部屋に戻るとエレナはベッドの上に寝転がった。
さすがにレイルは腕を離す。
「腕は離さないんじゃなかったのか?」
布団に潜り込みながら、いつもの低い声が問いかける。
「私は体調がすぐれない。もう寝る」
しばらくすると、彼女の寝息が聞こえてきた。
レイルも床に座り壁に寄りかかって目を閉じた。
「レイル」
自分と同じ黒いローブを着た黒髪の青年に呼びかける。
この男は自分に従順だ。
死ねと言ったら自ら命を絶ち、全裸になれと言ったらためらいなくそうするだろう。
だからこそ危うい部分もあった。
「レイルお前、私が私を殺せと言ったら、ためらいなくそうしろ」
そう言うと黙って彼はうなずいた。
「それと...」
そんな彼の首に腕を巻き付ける。
唇に自身の唇を重ねる。
舌で無理やり彼の唇をこじ開け、そこに入れる。
彼が苦しむのが腕を通して伝わってくる。
お互いの喉仏が大きく上下する。
唇を離すと、無表情な顔でハアハアと呼吸を整える彼の姿が目に映った。
「お前の体内にも魔中を仕込んだ」
銀髪を整えながら彼にそう言う。
「私が殺そうと思えば、その魔獣がお前の体内を喰らうようになっている」
確かめるように自身の体を触る黒髪の青年に、手を差し伸べる。
「立て、次の首都を滅ぼしに行く」
レイルははっと目を覚ました。




