第六章「設定」4
夢を見る。
自分の腕の皮を、興味本位で引きちぎっていく。
夢を見る。
刺激を求め、自分の眼球を抉り出し口の中に頬張る。
夢を見る。
グロテスクなものと認識できず、異形な生物と交配する。
夢を見る...
悟理は諦めきった表情で暗闇の中たたずむ。
そんな彼の背後に、いつものように黒髪の天使が現れる。
「今の俺が美しいと思ってるものでも、次の俺になって進化したら、汚いものになるのかな?」
「それは分からない」
「もしストレスを正常に判断できなくなったら、あの夢のような俺になるの?」
「分からない」
はぁ...と悟理はため息をつく。
「まだあきらめるのは早い」
「え?」
天使の言葉に悟理は顔をあげる。
「お前がここまでがんじがらめな制限になっているのは、なぜか分かるか?」
「そりゃ、前の俺がそう設定したからだろ?」
「ある方法で強制的にその制約を頑強に作った前のお前がいたからだ」
「ある方法?」
「ああ、幸いその制約は、作った本人の魂が消滅していれば、同じ方法で宇宙の設定や制限を変えることが可能になっている」
「ほんとかよ!で、その前の俺の魂は消滅してんの?」
「ああ、俺以外すべて消滅している」
天使が言った方法は単純だった。
「んーと、まず、虫全て。俺を含むすべての生き物の排泄物。すべての生き物の老廃物。俺以外の生き物の唾液。全ての人間の脇毛、すね毛、腕毛、ムダ毛、陰毛。汚れ。カビ。俺以外のすべての生き物のちんこ。おなら。臭いもの全般。ほこり。染み。内臓。俺以外の生き物の体液。深海魚。俺が今少しでもグロテスクだと感じる生き物。肛門。ブサメン。ブス。おっさん。おばさん。老人。蓮の種。土。爬虫類。食用以外の卵。俺が嫌いな食べ物飲み物。抜け落ちた髪。衣服から抜けた繊維」
悟理は白い紙に言葉を並べていく。
彼が今書いているのは、この世界から完全消滅してほしいものだ。
「お前の知り合いはどうする?いきなり顔を変えたら判別出来ないだろう?」
「生理的に受け付けない奴は消滅させちゃって。俺の所要範囲内なら美形に変えといて、分かるように最初に名前名乗るようにして」
悟理の言葉に天使はうなずいた。
「分かった。この紙に書かれたものは今後お前が刺激を求めようが考えが変わろうが、いっさい出現しないように設定する。次の設定付けにうつろう」
「俺はストレスが無くなっても新たなものをストレスに設定しない。生き物が食べたり飲んだりしたものは排泄物として出ず、完全消滅する。食べ物や飲み物を口に含んだらいっさいそれを出さない。生き物が死んでも腸とか血とか体液とかでないで即、骨になる。怪我をしたらその部分だけ赤くなる。衣服の繊維や破片は本体から離れたら即、消滅する。髪の毛、眉毛、まつ毛も抜けたら消滅する。染みも付かずに消える。木や野菜とかは地面には生えず、必要な分だけ空中に出現する。出現する際、俺と重なって出現しない。俺は怪我をしない。俺は病気をしない。俺自身は完全に守られる。俺の大切なものも完全に守られる。俺がやることは全て成功する。俺は億万長者になる。俺が嫌いな人間、俺が気に入らない人間、少しでも俺に悪意を抱いた人間は拷問虐殺される」
「待て」
設定付けに入った悟理に、天使が制止をかける。
「怪我をしたらその部分が赤くなる。内臓がない。本当にそれでいいのか?それだと、お前が嫌いな人間を拷問しても意味がないんじゃないか?」
「うーん...苦しんでるって分かれば...」
「いや、お前はそれだけでは満足しない。この部分は重要な部分だ。考えて設定しろ」
「うん」
「あと、小説や漫画、映画などのフィクションの中でだけは、グロテスクなものを残しておけ、あれはお前が安全な所から刺激を得られる便利なツールだ」
黒髪の天使の言葉に、悟理ははっとひらめいた。
「それなら、もっといい方法があるよ!」
彼がひらめいた方法、それは、
アセンションとディセンション。
天使とこうやって会話できるようになる前、アセンションという言葉を目にしたことがあった。
アセンションとディセンションによって地球が二つの次元に分かれると。
悟理はそれを利用し設定することにした。
まず、アセンション先の宇宙を、さっき彼が設定した完璧な美しい世界にする。
そこには悟理はもちろん、彼にとって好意の持てる人間だけ、彼に一切の悪意を向けたことのない人間だけにし、周りには都合のいい人間のみを配置する。
そしてディセンション。
この次元の宇宙は汚れをそのまま残すことにした。
そして悟理にいっさい干渉できないようにする。
そこに凶悪犯罪者と、彼にとって気に入らない人間、不快な人間を全員放り込む。
そいつらには、悟理のように魂をあえて与えてやる。
しかし、悟理や天使のような創造能力や設定変更能力はいっさい持たせない。
ただひたすら拷問や性悪同士つねに争うよう仕向ける。
虐殺されたらまた魂を復活させ、永遠に苦痛を与え続ける。
悟理が人生を堪能し尽くし、満足して死んだとしても、ここはそのまま変えないよう設定する。
その他にも設定付けをした後、悟理自身に起きていいとする全ての出来事、彼の宇宙に起こっていい全ての現象と、絶対に起きないようにする現象を書き出す作業を開始した。
何度も何度も天使と相談し、修正を加える。
使用した紙の数は数万枚にもおよんだ。
彼は全てを設定し尽くすと仕上げに、今後彼の心情が変化しようが、それ以外の設定、出来事を起こらないよう制限をし、新たに未知のものを創造できないよう設定した。
こうして悟理達也の宇宙は完成した。




