第五章「記憶」3
肌寒い。
レイルは一階の暖炉に火をつけた。
エレナも寒いのか、二階から音もなくリビングのソファに座った。
窓から外を見ると雪が降っている。
「大鳥国には報告しなくてもいいのか?」
レイルはコップにココアを注ぎ、エレナの目の前の机に置きながらたずねる。
よくロイや三人の子供達が飲んでいたココアだ。
「大鳥にはずっと帰っていない」
エレナはコップに口を付けたが、熱いのかすぐに離す。
「そういえば大鳥に反発していたな」
「ああ、大鳥も滅ぼすつもりだ」
「滅ぼしてどうするつもりだ?俺も...殺すの...か?」
この家の住人のうち、三人を亡き者にした彼女にそうたずねる。
エレナは表情一つ変えずじっとこっちを見つめていたが、ふと自身の長い髪の毛をいじりだした。
「何をしてるんだ?」
「毛づくろいだ。暇だからな」
ココアが冷まるのを待っているのだろうか。
なんとなしにエレナのそばに座り、自分も長い銀髪を手に取る。
手入れの必要のない美しいそれを、彼女の真似してレイルもいじりだした。
その後も彼女との奇妙な生活が続いた。
食料が尽きそうになったので、レイルは街の外に出た。
不思議なことに、エレナが廃人同然にしたこの街に、人っ子一人来ないどころか、隣町ですら噂一つたっていない。
しかしレイルは気にならなかった。
気にするほど精神はまだ安定していなかった。
慣れた手つきで、カードの束をシャッフルする白髪の青年。
シャッフルしながらマスクの下から声を出す。
「たまに起こるデジャヴは俺の過去性の記憶ですか」
ぱっとカードを引く。
大きい刃に首元を突き付けられた黒髪黒目の青年のイラストが描かれたカードが出る。
解説書には《常識を破壊する》
と書かれていた。
《常識を破壊する》
意味・答えに近いが正解ではありません。
今までの生活で練り固まった価値観、常識をいったん破壊し、もっと広い視野で物事を見ましょう。
それを見た白髪の青年は少し考え、もう一度カードをシャッフルする。
「俺に過去性はない。俺が考えてるような過去性、周りが言う過去性、地球で死んでまた魂がこの宇宙に生まれ変わるっていう過去性はない。けど、別の魂が混ざった別の俺が、別宇宙に存在してたことはありますか」
カードを引く。
宇宙を背景にボロボロのローブを見にまとった黒髪黒目の青年が、地球を手のひらにのせているイラストのカードが出る。
《悟り》
意味・正解です。その事についてあなたは悟りました。
おめでとうございます。
青年はじっとそのカードを見つめる。
また、カードをシャッフルする。
「俺はこの宇宙に一人だけですか」
「周りの人間は俺が作ったものですか」
「この質問に答えてるのは別の魂が混ざった前の俺ですか」
質問ごとにカードを引く。
すると全て《悟り》のカードが出た。
きちんとシャッフルしているはずなのに、何十枚もあるうちたった一枚しか入っていないこのカードが連続で出る。
ふと、カードの裏に妙な染みが付いていることに気が付いた。
一枚だけではない。
全てのカードの同じ位置に同じ染みが、まるで初めからそこにあったかのように絵柄になじんで付いていた。
「この染みは最初から付いていましたか」
ケータイがチカチカ光る。
メールが届いている。
件名を見ると「いいえ」と書かれていた。
「俺が一度捨てたから出たんですか」
机の上に置いてある紙束のうち一枚が床に落ちる。
拾い上げる。
紙に「はい。そうです」と書かれていた。
「このカードに染みが付いたことによって、この世界に存在する同じカード全てに同じ染みは付きましたか」
「はーい!」
青年が質問したと同時に、外から子供の声が返ってきた。
「ついたよー!ついたついたっ!」
白髪の青年は目を見開いた。




