第五章「記憶」2
見慣れた街並みが視界に入る。
エレナの攻撃で所々えぐれた地面、彼女に殺された人々の死体。
そんな中、死んだはずの自分がそこに立っていた。
両腕を目の前にかかげる。
片方エレナに切断されたはずなのに、両方ある。
「そうだっ!ロイはっ!」
疑問に思っている暇はなく、レイルは我に返り静まり返った街の中を駆けだした。
「ロイっ!」
倉庫が見えてくる。
と同時に長い銀髪も。
嫌な予感がした。
鼓動が高鳴る。
足が重い。
すぐそばのはずなのに、全力疾走をしているはずなのに、スローモーションのように世界が動く。
銀髪の女がゆっくりと振り向く。
彼女の足元に何かが倒れている。
首のない、ドレス。
そばに落ちる、ピンク色の髪。
ズザっと、足を止める。
ロイは物言わぬ亡骸に変わっていた。
「どう...して...」
レイルの唇から小さく洩れる。
「なん...で...」
目を閉じる。
そこから涙が伝う。
「ロ...イ...」
「レイル」
そんな彼の目の前にエレナが向き直る。
その顔が驚きに変化していく。
「なぜ...お前が生きているのだ...?」
彼女は、うつむき涙を流す彼の顔を覗き込む。
「お前はたしか...私が殺したはず...」
しばらくの間、彼女は物珍しげにレイルを眺めていた。
どのくらい経っただろうか、そばに化け物がいてもレイルはそこから動こうとはしなかった。
むしろ自分も殺されてもかまわないと思っていた。
エレナが動く気配。
しかし彼女はレイルを殺さず素通りし、ゆっくりと街中を歩いて行ってしまった。
レイルと物言わぬ亡骸だけが残される。
レイルはそっと愛する者のそばに寄り、慎重に首を抱き寄せた。
ロイの遺体を抱き、自宅へ戻る。
彼女と同じ生気のない表情で、いつもとは打って変わった覇気のない動きで階段をのぼる。
彼女の部屋につくと、胴と首をベッドの上に横たわらせた。
割れた窓から冷たい外気が入る。
泣きはらしたからか、今は何も感じていなかった。
大切な者がいなくなったというのに、その事実よりも何も感じない自分にショックを受けた。
彼女の後を追わずに、まだ生きているということにも...
俺は...彼女を...愛していなかったんだろうか...
俺の愛は...偽物...だったんだろうか...
カタンと小さい物音が聞こえ、レイルは我に返った。
自分の部屋からだ。
レイルはのそのそと立ち上がり、自室に向かった。
キイとドアを開ける。
自室のベッドの布団から、何かがはみ出ていた。
銀色の長い髪だ。
レイルは近付きそれに手を伸ばした。
手が触れる前に布団のふくらみが動き、冷たい表情の女が顔を出した。
エレナだ。
あまりにぼうっとしすぎて彼女の魔力に気付かなかった。
レイルは手を引っ込めると、まじまじとそれを見つめる。
彼女も布団に身を包んだまま、鋭い眼光でレイルを見つめてくる。
沈黙を破ったのは、ぐうぅという腹が鳴る音だった。
自分の腹が鳴ったのではない、エレナだ。
腹が鳴っても彼女はぴくりとも動かなかった。
レイルは立ち上がると、習慣づけられたように一階の台所に戻り、スープとパンを皿にのせ戻ってきた。
それをベッドのサイドテーブルの上に置く。
少し離れた所で様子をうかがっていると、もそもそと布団からエレナがテーブルに寄り、パンを手に取った。
彼女はパンをちぎって口の中に放り込む。
その動作を何度か繰り返し、パンが無くなくなると今度はスープを手に取り少しずつ飲み始めた。
レイルは物珍しそうに、それを眺める。
まさか彼女が、自分たちと同じように普通に食事や睡眠をとるなんて想像していなかった。
任務の時しか目にしていないから無理もないが、それだけ彼女は他の羽根刃と比べても常軌を逸した存在だった。
エレナは食事を終えると、すぐにベッドの中にもぐりこんだ。
次の日、レイルはロイを庭に埋葬した。
20番が彼女を好かなかったことを思い出し、元ある墓とは離れた場所に埋める。
ジェニファーとドロシーの遺体も回収し、それをロイの近くに埋めた。
ふとレイルは、白髪の青年の事や、発光体に映っていたロイと自分のことを考える。
ただの夢では片づけられない。
自分は以前も、ロイと出会ったことがあるのだろうか。
だから彼女に惹かれたんだろうか。
しかし今考えても、分からないものは分からない。
そもそも、短期間でいろんなことが起こりすぎ、精神的に今の彼には余裕がなかった。
レイルは新たに三人分の花を添えた。




