第五章「記憶」1
そっと目を開ける。
真っ暗闇が広がっている。
真っ暗な地面に手をつき、レイルは立ち上がった。
ここは...どこ...だ...?
たしか俺は...エレナと戦っていた...はず...
なら、俺は...死んだ...のか...?
なら、ここは...地獄...
ふと、背後から彼を照らす光が視界に入った。
さっきそこを見た時には無かったはずだが。
レイルは引き寄せられるように光源の元へ向かった。
光の束は粒の集合体になっており、その中に見知った存在が浮かび上がっていた。
自分と同じ黒ローブを着た女エレナ、金髪の羽根刃シェル・イロスなど。
レイルの視線はある所に釘付けになった。
ピンク色の髪の少女...ロイ。
束になった発光体の一つに映っている彼女は、レイルと同じ黒いローブを見にまとっていた。
羽根刃の衣装の彼女は、地面に倒れている。
そんな少女に向かって兵士が剣を振り下ろす。
ロイが目を閉じると同時に、兵士の首が見えない刃に切断された。
首が落ちると同時に、目の前に黒い人影が着地する。
ピンク髪の少女と同じ黒ローブをまとう黒髪黒目の青年、自分だ。
「あのっ!ごめんなさい、私、人殺せなくて...いつも、レイルに助けてもらって...」
「立てるか?」
光の中に登場したレイルは、ロイの言葉にかまわず手を差し出す。
少女がおずおずと彼の手を取ろうとするその前に、彼女の腕が引っ張られる。
レイルは有無を言わさず少女を抱き寄せると、横っ飛びに跳躍した。
彼らが一瞬前にいた地面に深々と亀裂が走る。
「その女、殺した方がいいのではないのか?」
レイルが鋭く視線を向ける先に、バサッと銀髪の女がローブを羽ばたかせ着地した。
「ロイは俺が使えるようにする、絶対に、だから、それまで待ってくれ...」
レイルは背後にピンク髪の少女をかばい、エレナと対峙した。
銃声が鳴った。
驚いて別の発光する光に目を向けると、そこに銃口を向ける黒髪黒目の青年が映っていた。
彼は涙を流していた。
ビルの屋上を背景に立つスーツ姿の青年の足元には、頭から血を流し倒れているピンク色の髪の少女の姿があった。
ビル、銃、どちらもレイルの世界には存在しないものだが、名称と用途が頭の中ですんなり理解できた。
ガシャン
何かが割れるような音に、別の光に視線を移す。
白髪の青年がガラス製の家具を床に倒しているのが映った。
「なんでだよっ...!なんでっ...この世界はこんなに汚いんだよっ!」
マスクを着け、前髪の左右一部が青色に染まった青年。
「食いもん食っても排泄物が出ない設定になるまで、俺はなにも食わないっ!」
机の上にあったカードの束を手に取り、ビリビリとそれを破る。
「世の中の人間が全員性格のいい美形に入れ替わって老廃物が一切出ない設定になるまで、俺は何も飲まない!」
皿やコップを全てごみ袋に入れ、扉や窓の鍵を全て閉めはじめる。
「虫、土、埃、カビ、汚れ、俺が嫌いなもの全ての存在が完全消滅するまで、俺は外に出ない!」
パソコンの電源が勝手に入る。
非常ベルがひとりでに鳴る。
がさっと勝手に袋が落ちる。
「不幸の中に幸福がないと幸せ味わえないとか、もっといい方法があるからそっちに誘導させるために嫌な事起こすとか、そんな設定いらねーんだよ!ずっといいこと起きてても俺だけは幸せ感じるように設定しなおせ!俺が選ぶこと全て正解になるよう書き換えろ!俺の気を紛らわすために嫌な事起こすな!いいこと起こして気をそらせろ!」
パソコンの電源を叩いて切る。
非常ベルも叩いて切る。
落ちた袋を蹴る。
「前の俺が作った邪魔な制限、不都合な設定は全て書き換える!」
「なにしてんだよ」
背後から澄んだ声がかかる。
レイルが後ろを振り返ると、今さっき映像に映っていた白髪の青年とまったく同じ青年がそこに立っていた。
一つ違うのは、マスクをしていないこと。
もう一度光に目を向ける。
しかし光の帯は、まるで最初から存在していなかったかのように消えていた。
代わりにとでもいうように、白髪の青年が手のひらに大きい発光体を出現させる。
その中に、中世ヨーロッパの街並みを歩く銀髪の女の姿が浮かび上がる。
彼女が道を行くのは、ロイが隠れている倉庫の近くだ。
レイルははっとした。
白髪の青年は口を開く。
「さっさと戻れ、クソ天使」




