第三章「娼婦」3
レイルは死体を細かく肉片にまで切断すると、複数の桶に入れ子供たちと一緒に運んだ。
人目を阻み、こっそりそれを近くの川に捨てる。
その後、金貨も子供たちと家まで運んだ。
一部の子供はレイルの所に行くことを拒んだので、少量の金貨を持たせその場に置いてきた。
おそらくどこかへ逃げるだろう。
彼の元には三人の子供だけついてきた。
「レイル...その子たちは?」
帰るとロイが小さく驚きの声をあげた。
20番と呼ばれたおさげ髪の少女、彼女よりも少し幼い三つ編みの少女、一番小さいおかっぱの少女。
見知らぬ子供達を連れて帰ってきたのだ、驚くのも無理はない。
しかし彼女がびっくりしていたのもわずかな時間だった。
レイルが事情を説明する前に、ボロボロの布切れ同然のものを身に着けた少女たちをロイは、お風呂に連れていく。
やせ細った非力な少女三人だ。
ロイに危害は加えないだろう。
しかし20番という少女の事が心に引っかかっていた。
「もう安心よ。ここでゆっくり休んでね」
風呂から上がった少女達は、レイルが買ってきた子供用の服に着変えていた。
ロイは余っていた部屋に布団を敷き、子供たちを寝かしつける。
「ロイおねーちゃんだっこ」
一番小さいおかっぱの少女がロイに抱きつく。
「あらドロシー、おいで」
5才くらいのその少女は25番と名乗ったが、ロイがドロシーという名前を付けた。
他にも、すでに布団に入って寝息を立てている三つ編みの7才くらいの少女をジェニファーと名付けた。
ただ一人、ジェニファーの隣で同じく寝息を立てる20番だけは、名前を付けたがるロイを「20番でいい」とあしらった。
「ロイおねーちゃんおっぱい」
ドロシーがさらにねだる。
ロイは恥ずかしそうにこっちを向いたが、甘えるドロシーがかわいいのかドレスの襟元をゆるめ、胸をさらけ出す。
ドロシーがあらわになったそれに吸い付く。
そんな様子をレイルは部屋の入り口から眺めていた。
三人の子供の世話をするロイがまぶしく見えた。
「おやすみなさい」
腕の中で眠ってしまったドロシーを、ロイはそっと布団に入れた。
「まるで俺達に、子供ができたみたいだな...」
そんな彼女にレイルが歩み寄る。
「私達、まだ17才なのに...けどレイル、子供を助けてくれたなんて優しいね...ううん、優しいのは知ってたけど...」
戻そうとする襟元を、レイルの腕が止めた。
もう一度彼女の胸をさらけ出させる。
その柔らかい乳房に口元を寄せる。
「んっ...」
ロイが吐息を吐く。
「母乳...出ないよ...」
小さい腕が黒髪を撫で、そのまま彼の首筋の古傷も撫でる。
レイルが彼女を押し倒す。
衣擦れの音が室内に響き渡る。
動きが次第に激しくなる。
ふと、レイルは視線を感じた。
正確に言えば視線ではなく気配だ。
子供達の方を横目だけで見る。
こちらに背を向けさっきと同じ位置だが、20番が起きている事は分かった。
レイルはそっとロイから身を引いた。
「もう、寝よう...」
乱れた衣服を直し、子供達と彼女の間の布団に入る。
「レイル...」
ロイの物足りなさそうな声が小さくつぶやいた。
「これを...」
レイルは昨日買ったピンク色の宝石が散りばめられたネックレスを、ロイの首にかけた。
「わぁ...綺麗...」
髪と同じ色で首元が朝日に反射する。
「あと、これも着てくれ...」
そう言って今度は買ったばかりの新しいドレスを彼女に手渡す。
「これを...今...ここで...?」
ロイは恥ずかしそうに上目遣いに見つめてくる。
レイルがゆっくり頷く。
彼女は顔を赤らめながらも彼の前で、今着ているドレスをそっとほどきはじめた。
「ロイおねーちゃん!」
タイミング悪くドタドタと小さい足音がレイルの部屋にやってくる。
「お腹すいたー」
「ごはんまだー?」
ドロシーとジェニファーだ。
「よしよし、今作るからね」
ロイは緩めた衣服を直し、ドレスをベッドの上に置いて子供達と一緒に一階へ降りて行ってしまった。
レイルだけが取り残される。
二人の時間を邪魔され、彼はため息をついた。
「これ買ってきて」
朝食を終えロイがレイルにメモを手渡してきた。
「君たちも来るか?」
レイルは三人の子供に声をかける。
ドロシーがそっぽを向いた。
ジェニファーはロイに抱きつきっぱなしで彼の言葉を聞こうともしない。
この二人はロイになついてもレイルにはなつかなかった。
「わたし行く!」
ただ一人、20番だけがレイルになついていた。
買い物をすませレイルと20番は荷物を持って帰路につく。
「そういえばこの街の娼館が襲われたらしいわよ」
主婦らしき人々の会話にレイルは耳を傾ける。
「子供を売ってた娼館らしいわ」
「あらやだ、そんなとこあったの?まだ子供なのに売られるなんて可哀想ねぇ~」
「そんな店、全部潰れちゃえばいいのにねぇ~」
「数人だけ連れ去られたらしいわ」
「店から出ても同じような所に連れ去られたんじゃねぇ~」
「もっと酷いとこに行ったかもしんないわよ」
レイルと20番は、そんな噂話の間を進む。
「あの人たちのこと、なんて言うか知ってる?」
20番が荷物を持ってこっちを向かないままレイルに話しかけてきた。
「偽善者。同情する良い人を演じて、人の不幸話を楽しんで安心してるの。自分はああならなくて良かったって、自分はまだマシってね」
「・・・」
レイルは黙っている。
「そんなとこあったの?だって、笑っちゃう。本当は知ってたくせに。そんな店つぶれちゃえばいいのに~だって、本当につぶれてなくなるよりも、もっとひどい目にあった方がうわさ話に花が咲くくせに。あいつら、わたし達の話が古くなったら、また新たなネタ探すんだろうね。ハイエナみたいに」
20番は言葉を続ける。
「あいつらあんなこと言って一度だってわたしみたいな子供を助けようとはしないんだ。あんな性根の腐った奴らより、わたし達を助けてくれた羽根刃さんのほうがずっと、話題にする権利がある」
レイルは黙って20番の話を聞いていた。
彼女が偽善者だと言う同じ娼婦の短髪の少女の事。
その少女に自殺を止まられた事。
「あいつが勝手にゴミみたいな汚い客の相手することが神様の試練だなんだ言って、その人生を歩み続けるのは止めないけど、わたしまで一緒にされるのが許せなかったの。私の命も体もあいつのものなんかじゃない!私のものなんだから!もし本当に私のことを思ってるなら私が自殺しようとした原因になったあの店とクソ親を、自殺を止めたくらいの行動力で殺せばいいのに!苦しめて殺せばいいのに!」
レイルはなにも言えなかった。
ただ、この少女が危ういのは確かだった。
今にもすぐに壊れそうだ。
夕食が終わり、ロイがドロシーとジェニファーを風呂に入れている間、レイルは食器を洗っていた。
20番はロイと一緒に入りたがらなかった。
そのほうがいいとレイルは思った。
「羽根刃さん」
例の少女が台所にやってきた。
「わたし達が寝てる部屋で、ロイおねーちゃんとなにしようとしてたの?」
「・・・」
レイルは無言で皿を洗い続ける。
「子供、作っちゃダメだよ」
20番のその言葉にレイルは手を止めた。
「羽根刃さんロイおねーちゃんが一番大切でしょう?子供ができてもロイおねーちゃんが一番でしょう?だからダメ。子供はね、その子を一番愛せる人しか産んじゃいけないの。大切にできる人しか作っちゃいけないの。じゃないとすぐこわれちゃう。ほら、この世界の人間、どこか壊れたやつらばっかでしょう?そう思うと、あの噂話して楽しんでたクソ達も、かわいそうな人たちなのかもねぇ~」
20番がにたぁと笑みを浮かべる。
「ロイおねーちゃんだって、あいつらみたいな偽善者かもしんないよ」
「ロイはっ・・・そんなこと・・・」
レイルは珍しく動揺した声を出す。
自分の古傷を優しく撫でる彼女。
愛おしく舌を這わせる彼女。
「さあ、どうでしょうねぇ~」
20番はレイルの顔を覗き込む。
幼い少女を前に羽根刃であるレイルが目をそらした。
ロイはドロシーとジェニファーに抱きつかれ寝息をたてていた。
20番の姿はない。
彼女はロイ達と同じ部屋で寝るのを嫌がったので、別の部屋に寝床を移していた。
「ロイ・・・」
レイルはロイのそばに膝をつき、ピンク色の髪をそっと撫でる。
と、小さい気配が近付いてきた。
部屋の出入り口に20番が立っていた。
様子がおかしい。
何かを隠し持っている。
レイルは警戒する。
「羽根刃さん、頼みたいことがあるの」
少女はレイルの方に近づく。
「なんだ?」
「私のクソ親を殺して」
レイルは目を見開く。




