三話:プロローグ:結果を左右することのない問い。
毎日だ。
毎日繰り返されるあの儀式と学校。
もう、めんどくさいとしか言いようがないよな。
だけど、ふふっ。
頻度が毎日ってだけで、実際のところ物凄く不自由で拘束されまくっているがそれらとは密接な係わり合いを持ってそうでこれから始まるなにかにも関係してそうで俺がもてないものきっとその辺りにあるんだと現実逃避したかったりとにかくっ! 今日の分は済んだのだ。
俺は晴れて自由の身。今日の分だけだけど。
すっかり暗くなった夜の町へ出撃してもいいし、昨日発売して買いに行っただけでオープニングも終わってないゲームをするのもいい。惰眠をただただ貪るのもいいし、まさかの勤勉に励むのもいい。選り取り見取りの選択肢だ。
ふふふ、自由ってのは考えただけで気分が高揚するよな。
もし俺に彼女が出来たなら『私に興味ないのですか?』って聞かれるほど束縛しない男になるだろう。
拘束されることの苦しみとは辛く、厳しいものなのだよ、ふっ。
「あーあ、主人公じゃないけど彼女欲しいなぁ……」
俺はとぼとぼと歩きながらそう呟いた。
勘違いしてもらっては困るんだけど、俺はその彼女に対して狼藉を働くつもりはないの。
断じてないね、ほら俺って繊細だから、酷い興奮は体に悪影響をもたらして悪ければ崩壊が――ゲフンゲフン……なんでもないなんでもない。
沙久耶さんの妄想癖が移ったとか考えたくないけど今のは移ったね。いやぁ困った困った。
ほら人間って高潔じゃん? 精神活動とかって人間だけが持ってるような特権の気がするんだよ。
だから純粋な精神的恋愛を体験してみたいんだよ! それはもう純愛から略奪愛までおーるおーけーだから。普段、役に立たない神様に頼むとするならそういう事を願うね。
「可愛い子よ、来い!」
――と。
それはもちろん精神的にも身体的にも、って意味ね。
ちなみに俺は恋愛について一時間だって語ることが出来る。聞いてくれるような友人がいないだけで語りに語り明かしたいと願っている。それは高校生、思春期真っ只中という微妙な年代の男ならば皆そうだ。恋愛は願望であり夢であり優越感を得たいと思うジャンルなのだよ。
だからと言うわけじゃないけど、『無知の知』ってプラトニックの語源となったプラトンの言葉にもあるように相手を知らないといけないんだ。
いや、あれはソクラテスだっけ? まぁどうせ師弟だからどっちでもいい。
互いを知るためには精神論と、これは鉄則だろうしね。
つーわけで俺の恋愛論でしたーと。
「ハッ!? 俺はなにを考えているんだ。せっかくの自由時間がっ!」
いつの間にか家に到着していた俺はしばらく突っ立ったまま上記のことを考えていたらしい。
神社の敷地から出てすぐ隣にある、俺一人が住まうには広すぎる一軒屋。
といっても家族と三人で使ったらかなり狭いと感じるぐらいの大きさなんだけどね。
神社で着替えを終了して我が家まで道中、その自由時間を有効活用するプランを練っていたら漢ノ子の悩みについて色々と考え耽ってしまったようですなー。
だけど刻一刻と自由のフリーダムタイム時間が失われていることに気付かないような鈍感な俺じゃなくて、実は気になったことを考えていたのさ。
これでもデリケートかつナイーブな俺は儀式の最中に感じた感覚を淡い光を忘れられずにいた。
想像が入ってるかもしれないけど、あの光は魔方陣が脈動したような感じだった。
そこに触手が蠢くような気持ち悪さは含まれてなくて、生命の躍動というか、なんとも言い難い、生命そのものが溢れ出てきたような感覚。
それは決して錯覚などじゃなくて、……ぬぁぁー分かんねぇ! とりあえず魔方陣から気味の悪くない、逆に心地よいような光が発せられた気がしたのだ。
(……やっぱ光か)
だけど気のせいって可能性もある。知らず知らずのうちに疲れが溜まってて幻覚でも見たんじゃないかと思うのが楽だ。
この手の悩みは考えても分かるようなもんじゃないし、面倒くさくもなってきた。
それに腹減ったし。
(後回しだな)
「ただいまー」
一人暮らしなのに自分の家に入るとき『只今帰りました』の略式を言うようになったのは在沙神社のせいだ。
帰ってくる返事がないのが何とも虚しい。
時計を確認。現在の時刻、九時。
軽い晩飯を摂ると良いぐらいだ。……ということは今日は外出なしになるんだけどね。
冷蔵庫の中身を物色して、野菜しかないことに気付いたのはこの時。
あぁうぅ、近所のスーパーも九時閉店だよ。食材、買っとけば良かったなぁ。確か特売日だったような覚えがある。
閉店前に行けば半額シールが貼ってあるのに……、割引のそのまた半額になるのに……。
「野菜炒め作ろう……」
名残惜しい特売なんだけど終わった物は仕方ない。仕方なくないけど仕方ない。あーマジで悔しい。
俺はあまりの絶望に膝をつきそうになりながらもキャベツやモヤシやその他の野菜を油の通ったフライパンに入れた。
ところで、野菜炒めって美味いよな。
美味いよな? マズイとか言う悪い子には罰則です。肉のない生活は高校生にはキツイですからして。
中華の火力でサッと火に通した野菜に塩と胡椒を効かせて頂きます。
割と手軽に作れて、シンプルかつ素材本来の味を堪能できるこの料理を馬鹿にした奴はソースまみれのメタヴォ野郎なんでしょーね。きっと。
そうして出来上がった一品に、あらかじめ炊いてあった少し黄ばんだご飯を付け合せて、テレビでも見ながら食おうかと、俺は自分の部屋に持って上がったのだ。
お盆に質素な二品を乗っけて自分の部屋への扉を開け放った。
突然とは突然だから突然なんだろうね。
だがしかし、フラグも何も立ってない状態で、いくらなんでもこれはない。
前振りだって有って無いようなものだし、誰が予想できる? そしてこの展開を予想で来た人は預言者の素質あると思うよ。
その映像に固まること約五秒。そろそろ状況を伝えないと先に進めない気がするんだけど、他のと比較した場合短いんじゃねと思った。比較対象は自分で考えてください。
じゃあ焦らす意味でも前振り行ってみよう。
ところで俺は神様の存在を信じちゃいない。
神社のすぐ側に住んでいる人間が言う事じゃないんだがな、神も仏もブッダもアッラーもキリストもヤーウェもコーランだって同じことだ。
とにかく信じちゃいない。
もちろん多々反論はあると思う。
神様を偶像化しちゃいけないところもあるし、一神教を信じ続けなきゃいけないところもある。
背けば最後の審判で地獄送りになったり、死後の世界で永遠の命を与えてくれなかったり、主の名前を無闇に呼んだらいけなかったり、とまぁ様々だよなぁ。
だがそれらとは違う。
俺が信じてないのは世の人間が思う、天上に住んで天使たちをはべらせながら玉座で踏ん反り返って人類を見下ろすような神様のこと。
そんな人間失格な奴じゃなくとも、明確な意思を持ち、天罰を自らの手で下せるような神を信じないと言ってるの。
だから宗教を否定しないし、どういう存在を思い描こうが自由だと思ってる。
これは悪魔の証明って言って、存在し得ないと証明することはほとんど不可能って事もあるんだけど……実際、神社の神子なんてやってると神様っぽい何かが居ることが分かっちゃうんだよねぇ、不思議なことに。
神を信じていないが神を信じている。
矛盾してるって? 一見はそう見えるかもしれないけど違うね。
形のない、個のない、超自然的な何か。
決して他の生命に干渉することのない、しかし世界を見守っているような何か。
そういうのを神だと思って信じているのさ。
だから祈っても見返りはないし、信じようが降臨して来るような事は絶対ない。
それが、まぁ、無神論者の基本的な論法だと思うんだけど……。
そう、あり得ないだろ。常識的に考えて。
では、この目の前に広がる奇怪な光景。
天使の扮装――というか翼を持っただけで素っ裸な極上の美少女はなんなのだろうな。
長い、人ならざる魔力を放つ銀の髪に、同じ銀色のまつげ。
一目で華奢だと分かる小さな背中に、本当に飛べるんじゃないかと思わせる大きな両翼が生えていやがる。
それは従来の冒険ファンタジーに出てくるサイズの五倍ぐらいで、戸口に立つ俺にも届くような馬鹿でかくて白いふさふさ。
人のベッドにすやすやと心地良さそうに眠っている上、布団を掛けることなくその柔肌を晒している。
ちなみにうつ伏せの為に大事なところは見えませんでした。ごめんね、全国の血に飢えた狼ども。
まさに、これを予想できたものは居ないだろうというぐらい驚きの異空間が広がっていた。
「うぅーん……」
時間ばかりが過ぎていくこと十秒ぐらい。その天使が身動ぎしたところで俺は銀河系までぶっ飛んでいた意識を取り戻した。
ぶっちゃけどうすればいいのか分かりませんぞなもし。
異世界への扉は意外に近かったと喜べばいいのか、日常が消え去ったことを悲しめばいいのか。
というか俺の自由時間はどこいったんだろうねー、先生ワカリマセン。
んで、思い出す。
そういや言ったような気がする事を。
「〜彼女欲しいなぁ……」「可愛い子、来い!」
あぁ、鮮明にありありと思い出した。
叶エテクレタンデスカ、ソーデスカ。アリガトウ。とでも言うと思ったか? フハハハ馬鹿め!
一つ、全国の恋愛に飢えた無神論者の男に問いたい。
彼女居ない暦が十何年以上の君達がこのような状況に置かれたとしよう。
神様が願いを聞き入れてくれたとするならこの目の前の天使は俺にメロメロのはずだ。そのような状況だ!
おーけー?
汝、独り身の汝。主に男に問おう。
女なら天使でもいいのか? 食っちゃうのか? そこに人としての尊厳とか男してのプライドとか考慮しないわけなのか? もしそうだと言うなら俺はマイノリティな少数派だぜコンチクショウ!
「んんー? ……良い匂いが、する?」
その小さな鼻をクンクン動かしてとして、大変に可愛らしい。
そして彼女は再び身動ぎした。それはもう結構危ない角度に。
だがしかし見えない、見たくない。
斯くしてプロローグは終わり、ついでに俺の平穏も終わった。
案外気付かないと思うけどね、基本的に今が一番良い時だって思うんだよ。
どのみち人は必ず後悔するからな。これこそプラトンじゃなくてソクラテスの言葉だけど。
序章が終わりました。
どうでしょうか? 面白くないと言うならプラウザバックして欲しいです。私が上手い文章を作れないというのは重々承知していますゆえ。
それでも浅葱の未来を見たいと言うならNEXTをクリックしてくださいまし。
力不足ですが完結できるよう頑張ります。