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1日目_06

【ゾンビ発生日の尊陽高校校内における活動団体】


 ・生徒会

 ・文化祭実行委員会

 ・サッカー部

 ・剣道部(男女)

 ・柔道部(男女)

 ・バスケットボール部(男女)

 ・バトミントン部(男女)

 ・卓球部(男女)

 ・吹奏楽部


 職員室ホワイトボードより。



  ◇◆◇



 尊陽高校の校舎は、真上から見て凹の形の本棟と、その北に本棟の中庭に蓋をする形で東西横一直線の特別棟が建っている。保健室は凹の左下部分の角部屋で、その前の廊下が第二体育館への渡り廊下に繋がっていた。第二体育館の北にはこれまた渡り廊下で繋がった武道場があって、その武道場は特別棟の西の端と繋がっている。反対に凹の東翼部分の隣には食堂兼セミナーハウスが建っていて、特別棟の北には外廊下で繋がった第一体育館と部活棟があった。


 私と創ちゃんは多目的ホールでの会話の後、そのまま一階の渡り廊下から本棟に入った。

 創ちゃんとは西翼に曲がる廊下の分岐で分かれて、私はまっすぐ本棟中央部の階段を目指す。途中通りがかった生徒玄関では、下駄箱を移動させて出入り口を塞ぐ作業が始まっていた。


 今頃、街の中心部ではゾンビによる大混乱が生じているはずだというのに、校舎の外は怖いくらいに静かだ。市東部の住宅街のはずれで丘陵の中頃にある尊陽高校は、実際ゾンビの発生率が低い地域にある。だけども、今は鳥の声さえも聞こえない。


 予定外のことが起こらないことを祈りつつ、私は中央階段から二階へと上がった。本棟二階の南側一辺は三年生の教室の並びだ。こちらも作業が始まるところで、私は万菜ちゃんの姿を見つけて合流した。

 ここの班は女子のみの構成で、その担当は各教室の机から中身を取り出して階段まで運ぶこと。それが終われば一階の作業の手伝いにまわる。


「千歳っち。保健室でゾンビと遭遇したって本当?」

「つか、大丈夫なの? さっきすっごいヨロヨロ歩いてたじゃん」


 作業しながら同じクラスのバトミントン部の夏帆ちゃんと美晴ちゃんが恐る恐る訊ねてきた。

 私は椅子をまとめて隅に寄せながら、端的に保健室での出来事を話して聞かせた。涙ぐむ万菜ちゃんには心配をかけてしまったことを謝る。


「えー、なにそれ、めっちゃ怖い!」

「本当にゾンビなんだ……」

「そんな状況で、よくドア閉めにいけたねー」

「千歳さん、まじで勇者……」


 話が聞こえた他の女子も加わって、みんな口々に褒めてくれる。けど、あの場にいたらほとんどの人が同じことをすると思う。


「いやいや。なかなかできることじゃないよ」

「なんか、千歳っちらしいわー」


 え、そう? それって、褒めてくれてるんだよね。そこんとこ重要だよ、夏帆ちゃん。


「でも、真里谷先輩って、この状況だとかなり頼もしーね」

「ホント。普段学校いないのに、今日いてくれるとか、まじでありがたいわ」

「ていうか、外やけに静かじゃない? ネットすごい重いし、周りどうなってんだろ」

「画像とか出回り始めて極端に繋がらなくなったよね」


 真里谷先輩の行動に関しては疑問だらけで、私もどう攻略したものかと考えていると、前触れもなく車のブレーキ音が派手に鳴り響いた。学校の前を通る道路の方角からだった。


 みんな反射的に窓の外を見ると、タイヤの擦れる音とともに一台の車が猛スピードで走り抜けていく。


「嘘!」

「何アレ……」


 校舎から道路までの距離はグラウンドを挟んでいるので百メートル以上あるのだけれど、視力のいい人なら見えたと思う。

 自動車の屋根やボンネットに張り付いた人の形をしたものを。見間違いでなければ、車の端々は緑色の何かで濡れていた。


「まだ来るよ!」


 学校の手前が緩いカーブになっているので、再びブレーキ音が響きわたった。教室の中の全員が窓際に集まって、固唾を呑んで外を見つめる。


「マジで……」

「いやっ!」

「あれがゾンビ!?」


 今度の車は車体も大きく沢山のゾンビが張り付いていて、視界が悪いのか振り落とすためか大きく蛇行しながら通っていく。しかも、その後ろからは走って追いかけていくゾンビまでいる!


 教室内は一気に恐慌状態に陥った。


「みんな、静かに」

「窓際の人は隠れて。外から見えないように!」


 夏帆ちゃんともう一人隣のクラスの女子が事態を冷静に見極めて指示を出す。

 私も窓枠より下にしゃがんで、こっそりと外の様子を窺った。

 車を追いかけるゾンビは十体以上。やたら速いのや緑の何かを引き摺る遅いのがいる。どれも人間の走りの能力内で、こちらに目を向けることなく走り去っていった。


 あの車がどこから来たのかは分からないけれど、後を追っていたゾンビはこの周辺でゾンビ化したものだろう。この丘陵の住宅地でも、少なからずゾンビが発生しているようだ。

 ゾンビが人を襲うとき、ヤツらは人そのものの他に、人を襲っているゾンビ自体を目印にする性質もあった。だから、あんな風に車にゾンビを張り付けていたら、道端を彷徨うゾンビをも引きつけてしまう。走っていったゾンビは車を見失うと、またその場で徘徊行為を開始する、というのがゲームでの設定だった。


『えー。みなさん落ち着いて聞いてください』


 校舎内だけに向けた放送がボリュームをかなり絞って流れてきた。曽根崎先生の声だ。


『先ほど学校前の道路をゾンビのような不審者を引き連れた車が通りました。全部の不審者が通り過ぎたようですが、道路側の窓にはなるべく近づかないようにしてください。騒がず落ち着いて作業を進めましょう』


 放送後、三年生の教室の並び一帯はお通夜みたいな状態になった。

 口数は極端に少なくなり、完全に取り乱して泣いている子もいる。

 ただ、誰も作業の手を止めることはしない。あんな化け物に襲われたくないというのは全員が思うところで、逆に急ピッチで作業が進んだ。


 そうして、私たちは二階と三階の教室から机を運び出すと、階段の運搬を担当する男子の班を横目に一階に降りて、他の班の作業に混じる。

 私も紐や結束バンドで机を連結する作業を手伝った。できたバリケードは工具やロープ、土嚢を重りとして固定されていく。

 塞がれていく窓から差し込む夕焼けが、やけに綺麗な赤い色で、私は少しだけ泣きたくなった。




 そして、完全に日が沈む頃、ようやくすべての作業が終了した。

 と同時に、ヤツらの徘徊が始まる。


 再び入った緊急の校内放送によって、私たちは第二体育館のメインフロアへと急いで戻った。

 幸いにも学校正面の道路をうろつくゾンビたちは、校舎内の私たちに気づいてはいないみたいだったけれど、その動きは獲物を探すように活発だ。もし、ここに多くの人間がいることが分かれば、敷地内への侵入を試みてくるだろう。正門の周辺に集まるぐらいならまだいい。東側の小道に回りこんでこられたら危険だ。

 私たちは、その存在を外に気取られぬよう身を潜める必要があった。


 この時点で、校内のインフラは通信回線の混雑以外は正常に提供されていた。

 がしかし、ゾンビの生態が分からないということで、照明の類はつけられないでいる。

 非常灯と災害用のランタンのみが光源という薄暗いなか、二百人強の人間が集まった第二体育館のメインフロアの空気は戦々恐々としていた。

 ゾンビの脅威を肌で感じたせいで、パニックになる者、過呼吸や貧血を起こす者も出てきた。そのため、フロアの一角に急遽救護エリアが設けられる。


 漂う悲壮感に私も流されそうになる。

 ただ私の隣には万菜ちゃんがいて、まったく動ずる気配のない一早先輩と白石先輩、創ちゃんを含む生徒会の面々が周りにいるのが、心底心強かった。


 だけども、三度壇上に上がった三村先生が、マイクを通さず地声で「心して聞いてくれ」と前置きして語った外の情報は、初めから終わりまで絶望的なものだった。


 曰く、例の雨が降り注いだのは爆発した工場のあった佐梅原市とその北に隣接する真北(まきた)市で、どちらの市も人の集まる中心部は壊滅状態、火災や停電等の二次被害も出ているとのこと。また、雨の降り始めからゾンビ発生までに時差があったため、鉄道等で人が移動し、周辺の市でもゾンビの発生が確認されているらしい。主要駅ではパニックが起きており、鉄道の脱線衝突事故も報告されているとか。


 ゲームでは数行の説明でしかないそれも、幼い頃から慣れ親しんだ場所でのことだと思うと辛かった。被害範囲もゲームより若干広めだ。本物のゾンビの行動に、シナリオの都合なんて関係がないからだろうか。


「なお、これを受けて、首相官邸では十八時ちょうどに首相が非常事態宣言を発令し、自衛隊の派遣も決定した。周辺の二県三都市については避難勧告が出されているが、佐梅原市と真北市の雨が降った範囲に住む住民には、不用意な外出は避けて、安全な場所に籠城するように指示が出ている」


 淡々と話す三村先生の声だけが、薄暗い体育館に木霊する。


「また現時点でも、雨の成分や浴びた人間が豹変する原因などは発表されていない。ただ、変貌した人間の生命活動が止まっていることから、彼らの通称を“ゾンビ”とすると正式に通達があった。その特性は、生きている人間に対してひたすら攻撃的で、噛みつく力や握力が強く、身体は脆いが痛覚が麻痺しているのか行動不能になるまでが異様にしぶとい。そして――最も重要なことは、ゾンビに噛みつかれた者は、同様にゾンビへと変貌することが確認された。ゾンビは今なお増え続けている」


 その瞬間、決定的な駄目押しを喰らったかのように、フロア内の空気が揺れた。

 それを抑えるために三村先生が声を張る。


「みんな、よく聞いてくれ! 初期対応が早かったおかげで、この尊陽高校は比較的落ち着いている。災害用の備蓄もあるし、市街地から離れていて地理的にも恵まれている。すぐにも自衛隊の掃討作戦が始まるはずだから、どうかみんな冷静に、全員で協力して何とかこの局面を乗り越えよう。もちろん先生たちも全力でみんなを守るから、どうか、力を貸してくれ」


 そう言って、三村先生は壇上で頭を下げた。


 私はぐるっとフロア内に視線を巡らす。ざっと見たところ、比較的前向きな人とそうでない人の割合は半々くらいか。

 前向きな層は、身内の安全が確認できている人たちだろう。私の両親のように旅行などで遠出しているとか、もしくは、ゾンビ発生以前に連絡がとれて、確実に安全な場所にいることが判明している例だ。

 そうでない残りの人たちは、単に連絡がつかない場合と、ゾンビの被害が激しい場所にいることが分かっている場合とでまた反応が異なって、少数だけれども泣き崩れたりショックで茫然自失に陥っている人の姿もあった。


 ああ、どうしてこんなことになったんだろう。

 きっと、誰もが今そう思っていると思う。そのなかで、私に関して言えば、もっと複雑だ。

 どうしてゲームと同じ世界があって、自分がそこにいるのか。考え始めると、主人公である自分に原因があるんじゃないかなんて、後ろめたさまで感じてしまう……

 駄目だ。これ以上考えるのはよそう。

 私はネガティブな思考を振り払うかのように前を向いた。


 いつのまにか、ステージ上には太田先生が上がっていて、今後の緊急時の合図やその時の対応、注意事項の説明があった。

 次に、監視と警護を兼ねた新たな警備班を編成するため改めて志願者を募ると、予想以上の人数が手を挙げる。驚いたことに、女子も何人かいるようだ。

 攻略対象では、一早先輩と高坂君、真里谷先輩の姿があった。

 そうして、警備班以外の者は、第二体育館の窓という窓を覆う作業と、地下倉庫から災害用の備蓄を運び出す作業をすることになった。

 もちろん、体調不良の者や精神的に不安定な者は無理をしないように配慮され、一階の指導員室とトレーニングルームに集められる。トレーニングルームとは、名前から連想する機材はほとんどなくて、普段はダンス同好会が使っている一面が鏡張りで窓のないただっぴろい部屋だ。


 ゾンビが街をうろつくなか、暗幕で目張りされた第二体育館に明かりが灯されたのは、二十時を少し回った頃だった。明かりがついただけで、不安な気持ちが少しは和らぐ。


 メインフロアは二分割されて、片面には簡易マットと毛布が敷かれた。こちらは男子用の就寝所で、女子は一階の多目的ホールで寝る予定だ。多目的ホールの窓は、暗幕が張られた上に畳んだ卓球台で補強もされている。

 この作業は真里谷先輩と一緒に避難した人たちも手伝ってくれて、特に小学二年生という浩介君は、初めこそ緊張していたものの物怖じしない性格で、一緒に作業していた人の癒しになっていた。


 作業が終わると、遅い夕食として地下の倉庫から運び出された食糧の中から水のボトルと携帯食が配られて、警備班の担当以外の者はメインフロアで待機となった。


 ちなみに水道の水は安全らしい。佐梅原市の水源と貯水池は、爆発があった工場地帯よりも西の山地にあって、あの雨の被害を免れていた。


 食糧の配布後、多くの生徒が希望したため、メインフロアに二台のテレビが持ち込まれた。

 あらかじめ三村先生の話を聞いていたおかげで、報道内容にいちいちショックを受けることはなかったけど、中心部に取り残された視聴者から送られてきたという画像や動画が流れると、さすがにみんなザワりとした。

 なかにはモザイクが入るほどの際どいものもあって、気分が悪くなったり不安が増長されて落ち着かなくなったりする人もいて、そういう人たちは就寝場所に避難していった。


 私は万菜ちゃんや同学年の女子たちと固まってテレビを見ながら、両親へのメールを作成した。無事でいること。創ちゃんも一緒にいること。

 時差の関係であちらはまだ明け方だから、二人がこのメールを読むのは少し先になるだろう。

 送信ボタンを押すと、いつもより長い時間をかけてどうにか送信完了になった。

 万菜ちゃんも家族にメールを送る。彼女の家族は自宅マンションに籠城中らしい。


 ようやく回線に余裕が出てきたのか、メールやSNSの一部が繋がり始め、家族から無事の一報が入って安堵する子もいたし、一方で、友達のピンチという呟きを見て震えあがる子もいた。


 そんななか、いつのまにかテレビの映像は、首相の会見映像に切り替わっていた。


 会見の内容は、二十時から自衛隊による佐梅原市と真北市の閉鎖作戦を開始したとのことだった。閉鎖が完了次第、市内のゾンビの掃討に取りかかるそうだ。ゲーム内ではそう上手くはいかないのだけど、こういうときこそ、シナリオと違ってくれればいいのにと思う。




 さて、当面の安全が確保できたところで、ゲームではここで選択肢が出たはずだ。確かこんな感じで。


【誰に話しかけますか】


 →朝比奈創史

 →小田切一早

 →高坂慧吾


 選べるのはこの三人だ。


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