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2日目_06


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本日、避難所を立ち上げました。

バリケード構築済み。食糧余裕あり。

避難をご希望の方は当校代表電話0**-***-****まで予めご相談

ください。車必須。

受け入れ対象となる地域は、中原東、日ノ町、辰巳、双葉地区

です。遠方からの避難はご遠慮願います。

--------------------------------------------------------


尊陽高校避難所アカウントより。



  ◇◆◇



「こっち固定できたぞ!」

「せーので持ちあげよう!」


「そろそろ土嚢袋が足りないらしい」

「それじゃ、ここは最低限にしとくか?」

「そっちビス余ってねー!?」


 息の合った様子でグラウンドに面した職員室の窓を塞ぐバリケードを作っているのは、施設管理班の男子たちだ。


 昨日はそこまでする余裕がなく、本棟一階の職員室や東翼の外側の部屋は出入り口を封鎖する処置をとっていたので、室内は手つかずのままだった。同じように、セミナーハウスに繋がる東翼一階の渡り廊下にも、いまだ防火シャッターが下りている。セミナーハウスには、一階に食堂、二階には畳敷きの宿泊部屋やお風呂もある。一階に窓が多いのが難点だけれども、避難所としてはあると便利な施設だった。なので、順次、施設管理班によって整えられる予定になっている。


 かくいう私はコピー用紙の補充のため、万菜ちゃんと二人で職員室のコピー機スペースを漁っていた。


「段ボールごと持って行っちゃう?」


 コピー用紙がぎっしりと詰まった確実に五十キロ以上ありそうな段ボールを指さす剛毅な万菜ちゃんに、私はフルフルと首を横に振った。


「万菜サン、私たちの細腕では、ちょっと……」


 もりもり働く男子に影響を受けちゃったんだね。たぶん。


 なんて、私たちに少しばかりはっちゃけた雰囲気があるのは、避難所の活動がうまくいきそうな気配があるからだ。

 各活動班は問題なく始動し、午前中に連絡のあった地域の人たちも、警備班の働きのおかげで全員無事に避難が完了した。こちらから情報を発信したことによって、新たな避難希望者からの連絡も何件か来ている。


 生徒の中には精神的に不安定な人もいるけれど、非常時が続いているせいで、逆にしっかりしなきゃと立ち直る人も多かった。


 そんな前向きな空気の中、それをぶち壊す出来事がそろそろ起こる。

 私はコピー用紙を持てるだけ抱えながら、チラチラと窓際に視線を送った。


 最初に気がついたのは、施設管理班の二年生男子だった。


「おい、車が来るぞ!」

「本当だ! 避難者か?」

「いや。次の避難作戦は三十分後のはず!」

「ただの通りすがりか? まさか、こっちこないよな……」


 万菜ちゃんと私は目を見合わせると、コピー用紙を置いてまだ塞がれていない窓へと駆け寄った。


 見れば、スポーツカーのような銀色のセダン車が、結構なスピードでグラウンドの前を通るところだった。もちろんゾンビを何体も引き連れて。


 このまま通り過ぎてくれ!

 誰もがそう思っただろう。

 しかし、その願いに反して、銀色の車はグラウンドの角を曲がる横道の手前で急ブレーキをかけた。


「やばい! こっちに来るぞ! みんな逃げろ!」


 誰かの切羽詰まった指示で、私たちはいっせいに回れ右をして出口へ走った。


 そのタイミングで『ギュイン。ギュイン。ギュイン』と耳障りな高音の警報が流れる。


『緊急事態発生。緊急事態発生。警備班は直ちに所定の配置についてください。警備班以外の人は、至急、二階より上の階へ退避してください。避難者のものと思われる車が一台、事前連絡なしに裏口へ続く道に入りました。ゾンビを十体以上引き連れています。繰り返します――』


 緊急アナウンスは女子生徒の滑らかな声だった。


「鍵、誰が持ってる!?」

「オレオレ! 閉める前にドア前塞ぐ棚とか中から出してくれ!」


 万菜ちゃんと私が廊下に出ると、職員室の二つの出入り口と隣の事務室の出入り口を施設管理班が封鎖する作業に移っていた。


「君らは、早く避難するんだ」


 二年生の男子に促され、私たちは足早に中央階段を目指した。


 二階に上がると、結構な人でごった返していた。見知った顔もあって、自然と一年の集団に混ざる。


「どんな状況?」

「続々とゾンビが裏口の方に向かってる。車から離されたヤツも、しつこく追ってきてて」


 私の質問に隣のクラスの女子が答えてくれた。

 ゾンビは、人間に反応してるゾンビ自体も目印にして行動する。いくらスピードをあげて引き離しても、街中を走れば、それなりの量の集団が縦長になって追いかけてくる状態なる。


 私は、同じクラスの子と不安そうに話す万菜ちゃんに「ちょっと、様子を見てくる」と告げて、その場を離れた。

 特に引き止められないのは、これからイベントが待っているからだと思う。こんなときに恋愛イベント……いや、こんなときだからかだろうか。


 私はそのまま東翼経由で特別棟の二階に足を踏み入れた。


 先ほどの瀬名先生とのやりとりで、これからの方針は決まっている。まずは一早先輩集中で好感度を上げて、瀬名先生を恋愛モードに切り替えるのだ。

 そこで、これから始まるイベントだ。


 特別棟の廊下の東側には、緊張を滲ませた警備班が集まっていた。男子ばかりかと思えば、後衛と思われる女子の姿もちらほらある。

 彼らが視線を注ぐ窓の下の方には特別棟の玄関があるはずて、そこに銀色の車が停まっているのだろう。

 東翼から続く廊下の突き当たりの窓には二重三重に人垣ができていて、私のいる場所から窓の外を窺うことはできなかった。


 そこで、ぐるりと辺りを見渡せば、ここでの選択肢に出てくる一早先輩と真里谷先輩、そして高坂君の姿があった。


「一早先輩」


 私は当初の予定通り、少し離れたところで窓の外に目を向ける一早先輩に話しかけた。


「萌!? 来たのか? あまり見せたいものじゃないんだがな」


 そう言うと一早先輩は、場所を詰めて私一人分のスペースを空けてくれる。


「ありがとうございます」


 私は先輩の右隣りに滑り込んで、窓の外を除きこんだ。


「!」


 まず前方下に、マイクロバスが停まっていて、その右側に玄関の庇が飛び出ている。その真ん前にゾンビに群がられている銀色のスポーツカーが停まっていた。


「中にまだ人が!?」

「ああ。定員四人のところに五人乗っていて、前の二人と、後部座席の一人が脱出できたんだが、まだ二人取り残されてる。ツードアタイプだから手間取ったんだ。ゾンビも結構な早さで迫ってきて」


 車には車内の様子が見えないほどにゾンビが張り付いていたけれど、そのゾンビの行動で確実に人がいることが知れる。

 その数、十七、八……二十体はいるかもしれない。

 私にとって、昨日のサッカー部のゾンビに次ぐゾンビとの接近遭遇だ。

 錆色の髪、青緑色の顔、赤い目。理性の感じられない動物的な唸り声をあげている。それなのに、着ている服は綺麗で(一部、緑色の液体を垂れ流したり、カラースプレーがかかったのもいたけど)、靴もはいていて、それまでの普通の生活が垣間見えるのが物悲しい。彼らはきっと、この付近の住人で、学校の登下校ですれ違っていてもおかしくない人たちだった。

 老若男女。なかには小学校高学年くらいと男の子までいて、さすがにその姿にはショックを受けた。


「先輩……」


 私は横にいる一早先輩に――


【惨状を前に、どうしますか?】


 →腕に抱きつく

 →袖を掴む

 →逃亡する


 自然と震えてしまう手で、私は先輩の制服の袖を掴んだ。(好感度+5)


「萌」


 先輩はその端整な顔をしかめて、痛ましそうに私を見た。

 好感度の低い一早先輩にボディタッチしても好感度はたいして上がらない。逆に先輩も好感度の低いうちは、健全なまでに一線を引いてくる傾向にある。震える主人公を抱きしめたりとかしないのだ。


「大丈夫か?」

「うん。警備班の人の仕事、見ておきたいんです」

「そうか」


 冷やかしとかではなく、知っておきたかった。人間から変じた化け物を屠るという、危険を伴い精神的にも厳しい役目の実態を。

 戦力としては足手まといの私ができる最低限のことだと思う。

 自己満足というのは分かっているけれど、一早先輩は理解してくれたように思う。

 私たちはしばし見つめあった。


「あ、千歳!」


 予期しない声に振り向けば、声の主である高坂君がこちらにやってくるところだった。

 このイベントでは一早先輩を選んだのに、どうしてだろう。シナリオでは、選んだキャラとこれから始まる作戦の最後まで二人だったはず。

 これがリアルということか。それとも逆ハーの弊害? いやいや、好感度四十のなせる特別展開とか。


「大丈夫なのか。こんなの見て。昨日酷い目にあったのに」


 隣の人に詰めてもらって、高坂君は私の右隣りに立った。答えの出ない思考に陥ってる私に、その高身長から心配そうな視線を送る。


「大丈夫。慣れておこうと思って」


 これもある意味ホンネ。これから何度か主人公に降りかかるゾンビとの攻防に備えて置こうと思ったのだ。シナリオ通りに進めるためには、現実のゾンビに怖気づいている場合じゃないから。


「高坂、下の様子知ってるか」

「はい。無線の話だと、五人ともゾンビとの接触はないらしいです。今のところ。なんでも千谷から逃げてきたとか」

「そりゃまた、遠いところから来たな」

「ええ、その割にはあんなもんで済んでるんで、車のおかげっすかね」

「しかし、なんでこっちに」

「どうやら、上の山道から隣りに抜けたかったらしいです」

「あの道って、先月の台風で土砂崩れが起きてなかったか」

「ですね。まだ通行止めらしいです」


 私を挟んで会話する一早先輩と高坂君。

 千谷とは、ここから坂を下りて北に数キロ行ったところにある地区だ。逃げてきた距離に反して連れてきたゾンビが少ないのは、途中よほど飛ばして振り切ったのだと思う。となると、下を走る国道は意外に障害物がないのかもしれない。


 勢いの落ちないゾンビの強襲を見ながら、二人の会話を聞くとはなしに聞いている。あのスタミナはどこからくるのか。車内の人は生きた心地がしないだろう。


 そうこうしているうちに、中央にある階段の方から新たな警備班の集団がやってきた。白石先輩が率いる集団は、手に重りのついた網を持っている。


 救出作戦が始まろうとしていた。


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