10話 キリエファンクラブ
「は〜い、それでは異世界に転移してから記念すべき第一回目のキリエファンクラブ定例集会を始めたいと思いま〜す。
ちなみに司会進行はこの私、村人Kこと、ケイお姉さんが務めますねぇ……はい、拍手♪〜」
ケイさんが呼びかけに店内に集まったキリエファンクラブのメンバーが大喝采で返す…まるで有名アーティストのライブハウスでのイベントに集まったファン達の様な熱気である。まぁ、この例えはそのまんまなのかもしれないな。
現在、この店内にはキリエファンクラブのメンバーである転移者177名が詰めている。ファンクラブ総メンバー中、三分の二のメンバーが今回の呼びかけに集まった形だ。
無論、彼らが愛して病まないのはケイさんでは無い。彼らが愛しているのは黒鉄さんが即席で作り上げた壇上のうえ、司会進行を務めるケイさんの横で引き攣った笑みを浮かべながら椅子に座り、怯えたようにファンクラブメンバーを見下ろすキリエちゃんなのである。
「キ・リ・エちゃ〜〜〜〜〜ん!!
スナップショット撮るから、こっち向いてよこっち!! 視線ください、視線!!」
「おい、止めろよ。キリエちゃん怖がってんじゃねーか!!
……こういう時は、黙ってスナップショット撮っとくんだよ」
「貴様等!! キリエファンクラブの鉄の掟を忘れたかっ!!?」
「「ふっ…、ふ、副会長!!?」」
「《会則第32条:キリエちゃんの許可が無い画像撮影は原則禁止する》…さぁ、守れないようなら血祭りになってもらおうか!!?」
「「す、すいませんでした!!」」
ふむ、黒鉄さんが暴走しそうになったファンクラブメンバーを抑えてるな。
流石は鬼の副会長といった所だろうか?
ここまでは大方予想通りではある。
シュウは黒鉄達の様子を横目で見ながら、壇上の後ろでキリエを見守っていた。
実は、シュウはキリエファンクラブの正式メンバーでは無い。
なので、本来ならこの定例集会に呼ばれる筈も無い人物なのだ。
しかし彼は、キリエファンクラブの会長と現実でもALOの世界でも親しいため、ある程度、ファンクラブ内で顔は利く。さらに、ファンクラブの幹部達(副会長である黒鉄や、村人K)などとも仲が良いため、発言力もある。
それを無しにしても、彼はALOの世界でソコソコ名の知れたプレイヤーである。なので、何処に行ってもある程度顔は利くし、様々なギルドからスカウトの掛かる大物だったりするのだ。
今回の集会には、現在不在であるキリエファンクラブ会長の《代行》として出席している。
現在会長は遠くはなれた街におり、全力でこちらに戻って来ているとのことである。
会長不在で執り行われる会議だが、ほとんど恙無く進行している。
会長代行である俺の挨拶から始まり。主要メンバーや、それぞれのパーティーの代表による転移後の近状報告。会則の再確認。キリエちゃん談義(キリエちゃん本人が居心地悪そうだったので中止)………と、続いて本日メインの議題へと移る。
「…さて、次は本日の本題・『キリエの酒場リフォーム計画』について話し合いたいとおもいまーす。
では、先程、皆さんに送信したメッセージを見てくださぁい。
あ、届いてない人は手を上げてねぇ? 直に、お姉さんから送信するからぁ」
ケイさんの言葉に集まったメンバーは、メッセージ表示画面を開き、届いているメッセージを表示させる。
あのメッセージは招集をかけるのと同時にファンクラブメンバー全員に送信されたもので、蜘蛛退治における顛末とこの世界の戦闘における簡単な考察・今回招集をかけた理由などが簡単に纏められている。ようは資料である。
一様に宙空を弄り出す転移者達を、キリエは気味悪がってみていた。
この会議が始まる前に一応の説明は受けているが、やはり、どうしても奇行に目がいってしまう。
つーか、ここに集まった転移者達のワタシを見る視線がやはり慣れない…やはり、なんか粘っこい。
身の危険を感じる…ってより、貞操の危機を感じてしまうワタシは自意識過剰なのだろうか?
司会進行のケイが周囲を一通り見渡して口を開く。
「さぁ、みんなぁ、何か質問はありますかぁ?
今ならお姉さんが答えられる範囲で答えちゃうゾ☆」
そこで直に一人の転移者が手を上げた。
作務衣の様な青い着物を着た、眼鏡の男である。
「ん、じゃあキミどうぞ〜。あ、後、名前とジョブ、サブジョブをお願いね♪」
ケイの言葉に男はゆっくりと頷いた。
「あいあい、解ったよ。
俺の名前は《白露》。メインは《暗殺者》で、サブは《鍛冶職》だ。
まぁ、サブの方をメインで活動してっから生産系のプレイヤーだと思ってくれ」
白露と名乗った男は周囲のメンバーをグルリと見渡し。
大きく1つ深呼吸した後、ケイに問うた。
「所で質問なんだが………リフォーム作業中はキリエちゃんは何処にいらっしゃるのでしょうか?」
かなり真剣な顔で問うて来る白露。
その問いに対してケイは不敵な笑みを浮かべながら、キリエの方を向いた。
キリエは事前に決めてあったことを、急いで口にする。
「え、えっと、ワタシはですね。
みなさんだけに作業させるのも申し訳ないのでお手伝いさせて頂きます。
勿論、みなさんのご飯はワタシが作ります!! …あ、でも、ちゃんとお金は頂きますよっ!!」
キリエが捲し立てた後、場は静まり返った。
キリエとしては、出来るだけ自分の出費を抑える為に出した案である。
キリエは内心自分の発言が場を白けさせたの思った……が、違った。
ファンクラブのメンバーにとって、キリエと一緒に居られる時間が多いと言うことは正にご褒美!!
振る舞われる飯に関しても、無料などでは無く、ちゃんと最後までお金をとるというキリエの発言は、彼らの良く知る《キリエ》の面影を感じさせ、彼らに《萌え》と言う名の意欲を与えた。
一拍置いて店内は喝采に包まれる。
キリエはそんな彼らの反応に目を白黒させ、口には出さないまでも心の中で叫んだ。
(もう、コイツ等、分け解んない!!!!!)
キリエの受難は続く。




